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エバンジェリスト不要論を見かけたので、改めて外資での自分の経験を基に、その本質を掘り下げて考えてみた話

強烈なブログを見つけてしまった

たまたま仕事関連の調べ物をしていて、こんな記事を見かけました。3年ほど前ですし、数ヶ月しか執筆されていないブログなので、それなりのものとして見つつ、しかし興味深かったので自分なりの考えをまとめてみようと思います。

※注:当内容はあくまでも自社の環境で定義した業務の説明であり、世の中の全てのエバンジェリストという職務を定義するものではないのでご了承下さい。また、ITのB2Bに特化した内容になっています事もご了承下さい。

まず最初に思ったことは、このブログ主さんは(素性が分からないので推測の域を出ませんが)自社の「エバンジェリスト」のかたと仕事をして、何らかの理由(意思の疎通が取れなかったとか、期待値にギャップがあったとか)で痛い目にあったのだな、ということです。同職種に異常な嫌悪感を抱いています。

曰く、

1.マーケットを作ってる。
(セールスの本音) オイオイ、競合の為に市場開拓するなよ

2.自社製品のオポチュニティを作ってる。
(セールスの本音) 出来もしない事語るな。自分では一切責任取らずに、後は営業が対応します、とはどういう事だ?

3.コミュニティ活動をしている
(セールスの本音) 仲良しサークルは自腹でプライベートの時間でして下さい。何も生まれません。

4.雑談や講演で会社や製品の露出が増える
(セールスの本音) 君じゃなくてプロダクトマーケティングに任せろ。間違ってるメッセージが市場にでるだろ。

5.プレゼンがうまい
(セールスの本音) 正直言う。プレゼン全然上手くないから。ワンパターンだし、どこかで習ったんか?それとも「図解プレゼンがうまくなる」「誰でもできるプレゼン」みたいな本でも読んだか?

とまあ手厳しいですね。。
少し真面目に、この記事に対して自分の意見を言うと、

1./2./4.は「マーケティング」という組織の使命に直結するのですが、未来永劫、新規顧客開拓をしなくても売上をあげ続け、かつ成長し続ける事ができる会社なら、一理あるかも知れません(?)。が、そんな会社はほぼ無いので、となると市場を創ることと自社opportunityに繋がるPipelineづくりは会社の必須機能なのかな、と思っています。

3.は、仮に「コミュニティ活動=自社製品・サービスを購入済み・利用中の既存顧客との関係づくりを目的とした機能」と定義するならば、現在では「コミュニティ・マネージャ」だったり「Customer Success Manager」というJobが担っていることも多いと思います(※注:このブログは2018年当時のものなのでこの辺りのトレンドの浸透具合が少し少なかったかも?)。SaaSビジネスモデルが盛り上がっている現在ではマーケティングと同じぐらい将来のビジネス創出に必要な機能かな、と思っています。

5.は、、、主観的かもしれませんし、なんといっても「何をもってプレゼンがうまい」とするか、定義付けが微妙なのですが。ただ、エバンジェリスト含むマーケティングの目的が「自社の提供するサービスの価値を受け入れてもらい、購入につなげるために認知度向上、自社を好きになってもらう、見込み客になってもらう」なのであれば、「視聴してもらったあと、自社に興味を持ち、製品の内容を理解しようとWebなどを訪れて貰ったり、営業さんに話を聞きたい、と言ってもらう」そんな結果に繋がるプレゼンを完遂することかなと思っています。

実はこのブログの内容は自分の仕事の変遷と関わるんです

さて、以前のブログにも書かせていただきましたが、私は業務の地理的範囲を日本地域専任からアジア14カ国へとシフトしてきた経緯があります。また、それと同時に、今の会社に入社した当初の「プロダクトマーケティングマネージャー」と言う仕事から、1年ほどかけて「エバンジェリスト・ソリューション担当」という現在のポジションにシフトしたという歴史があります。

実はこの経緯こそが今回このブログを取り上げようと思った背景になります。何故かと言うと、もともと担当していたプロダクトマーケティングは一言で言うと製品担当者なので、外資系IT企業である現在の会社の日本法人において、製品情報に最も詳しく、最新の情報を収集でき、アメリカ本社の様々な技術担当とパイプを持ち、製品の将来開発予定表(ロードマップ)等の情報を誰よりも持っている人間であったわけです。つまりこの職種は極めて現場の営業・SEさんにとって有用な機能であり、直接営業さんがお客様に提案をしたり案件をCloseするときに必要な情報提供できる立場だったわけですね。当然、自分もやりがいを持って製品情報を日々収集したり、新技術の開発計画などは数十人にのぼるアメリカ本社の製品担当者(Product Manager)たちと人間関係や信頼関係を構築し、現場への貢献に邁進していました。

業界の変化がもたらした、自分の立場の変化

ところがそんな現場の状況はさておき、ここ10年の間に起こったマーケティング業界における一大潮流であるデジタル化・自動化の荒波も弊社は漏れなく飲まれました。(というか飲まれないとマズイのですがw)。いわゆるMA=マーケティングオートメーションが一気に広がりました。結果、会社ごとに多少の違いはあれど、マーケティングという組織の役割が、「大規模なイベントを開催して見込み客や既存顧客との関係構築になんとなく貢献」がメインだった時代から、「XXドル投資をしたらYYドル分の案件に繋がった」と明確化され、その過程含めて精査する自動化されたツールで分析できるようになったんですね。これが、現在のマーケティングと呼ばれる組織の置かれている状況になっております。

そうなってくると当然マーケティングと言う組織に求められる機能も、より厳格に、明確になってきます。極端なことを言ってしまうと、営業さんの案件クローズに携わるプロダクト担当よりも、将来の見込み客・パイプラインづくり・売り上げにつながるリード(Lead)を取る活動へ全て集約していくことになります。そんな流れもあり、自社の製品担当プロダクトマーケティングだった私は、マーケティング組織の変化に倣い、ソリューション担当・エバンジェリストとなりました。つまり、営業さんと一緒にお客さんに案件をクローズするための情報ではなく、まだ自分の会社のことを知らない、将来お客さんになってくれるかもしれないお客さん向けに、メッセージを作り、伝える。そして自社を知って貰い、好きになって貰い、購入に繋げる。そんなコンテンツ作りへと大きく大きく舵を切りました。具体的に言うと、

製品担当の資料:

  • 性能などの数値情報

  • 製品の機能説明

  • ユースケース

  • 競合他社との機能比較

ソリューション担当・エバンジェリストの資料:

  • 「なぜ世の中の企業がこの技術にこんなに投資しているかご存知ですか?」

  • 「この技術を使ってどんな成功を各社さんが収められているのをご存知ですか?」

  • 「このトレンドを活用して、こんな改善をしませんか?」

なお、当時自分の中で素敵だな、と思ったエバンジェリストは、かの有名なGuy Kawasakiさんでした。当時、毎年一回ソリューション担当者としてアジア域内のGartnerさんのIT Expoイベントに出席していたのですが、2015年に開催された時のClosing基調講演がGuyさんだったんですね。まさにこの記事です。

それまで、セミナーなどで喋る内容は常に自社製品の強み、ユースケース、機能紹介などだったのですが、こういった切り口で聴衆を引き込むGuyさんの講演は自分の視野を相当広げるものでした。

そんなわけで、このキャリアシフトは楽しい面もあったのですが、同時に非常に心苦しいものでもありました。何故かと言うと、マーケティングと言う組織の変化に倣う、と言う意味では正しいのですが、現場の営業さん達からすると、将来の見込み客を集めるための資料作り=目の前の案件をクローズすることに焦点を当てた資料作りではなくなってくるからです。

今回のブログではまさにその点を取り上げられています。

そうなんです。製品担当に比べてソリューション担当やエバンジェリストといったポジションは、あくまでも将来の見込み客づくりに主眼を置いている。

なので、直接的に営業活動の役に立たない。たとえ間接的に役に立つとしても。そんなポジションになるわけです。

外資系企業の現場の営業・SEさんは、四半期ごとに厳しい目標を設定され、日々それに向かって業務を邁進されています。その中でこのシフトが起こると言うのは、ご迷惑をおかけするということでもある、、、当時も痛いほどに私は理解していました。しかし、そのギャップを埋める方法と言うものは残念ながらなかったんですね。自分なりに、ソリューション担当・エバンジェリストとして将来のお客様のための情報発信に力を入れつつも、少しでもその情報が現場のSEさん営業さんの役にも立つ、そんな事を意識して常に業務に従事しています。このやり方は当然、日本国内向けでも、アジアの他の国の案件でも変わりはありません。(言語と文化は変わりますが。)

今後エバンジェリストという職種は不要になるのか?

幸いなことに、今私が勤めている会社の営業・SEさんは本当に良い方が多く、このブログ主のような発言を浴びせられた事はありません。ですが、特に上記の業務シフトが起こった数年前は、このブログに書かれたような気持ちを持たれた方も、もしかしたらいたかもしれない。。。そんな事を考え、今回のブログを感慨深く読んだところです。

さて、話を元に戻します。エバンジェリストという仕事を私自身どう思っているのか。結論から言うと、とても大好きな仕事で、自分に合っているとも思っています。人前で喋る事も好きですし、お客さんにお話をするのも好きです。そしてなにより、自分の発信によって

「あーなるほど、今までよく分からなかったこの技術、このソリューションって、そういうことだったんだね!」

「知らなかったけど、今回の話聞いてなんで御社がこういう取り組みしているのか合点がいったよ!」

と講演の後に言ってもらえると、心の底から嬉しいし、感無量、といつもいつも感じています

しかし、このポジションに正直そこまでこだわるつもりはなく、人に情報を、物語を伝えて、今まで知らなかったことを知ってもらう、今までわからなかったことを明確に理解してもらえる、そしてその結果自分の会社を好きになってもらったり、もし機会があれば自分の会社の製品を購入してもらえる、こういった要素がある限り、多分私はどんな仕事でも楽しんで邁進できると自信を持っています。

なので、エバンジェリストという職種が将来消えたとしても、例えばそれがコミュニティーマネージャーなのか、カスタマーサクセスマネージャーなのか、はたまた先祖帰りしてプロダクトマーケティングなのか、ソリューションマーケティングなのか…正直私にとってはどれでも良いのです。どんなJob Titleであっても、私は自分が楽しいと思える業務内容そのものにこだわりを持ち続け、もし許されるのであれば、その強みをずっと活かし続ける仕事をしていきたいと思っています。

なので。

エバンジェリストいらねぇ、と言われても、自分のやっている事そのものは必要とされ続ける、、、そこに拘りを持って、奢ることなく誠実に、楽しく、仕事をしていきたいと心から思っています。それを日本国内だけでなく、アジアだったり全世界向けに貢献し、日本人の良さ、美徳を一人でも多く世界中に発信できたら、きっと最大のやりがいを感じると思います!


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