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屍人荘の殺人と魔眼の匣

 読み方は『しじんそうのさつじん』『まがんのはこ』である。どちらも、作家 今村昌弘によるミステリ小説だ。
 意表を突く展開の作品なので、ネタバレ無しで紹介してみたい。それ故、大事なところをぼかしまくって書いている。だいぶわかりにくいと思うので、どうしても気になる人は(アフィリエイトは一切ないので安心して)Amazonへの商品リンクをクリックして、そこの紹介文をよんでもらいたい。でも、それすら読まずに作品に触れたほうが、より楽しめるんじゃないかなと、僕は思っている。

 『屍人荘の殺人』は鮎川哲也賞を受賞した作品で、著者のデビュー作である。『このミステリーがすごい!2018年版』をはじめ、同年の各誌ミステリー部門に華々しくランクインしたことでも有名。『魔眼の匣』は、その今村昌弘が第2作として今年発表した作品である。

 最近の鮎川哲也賞受賞作は密室殺人ものが多いと言われているが、この2作も密室殺人がテーマだ。

 『屍人荘の殺人』では、同じ大学に通う3人の学生が主人公だ。彼らがサークルの合宿先で密室殺人事件に遭遇するお話。ミステリ愛好会なんてキーワードも登場して、どちらかと言えば、ありがちな、でもミステリ好きには安心できる設定で物語は始まる。だがしかし、今の時代にありきたりな密室殺人事件では芸がない。実は、メインの密室殺人と並行して突拍子もない大事件が起きる。登場人物はふたつの大きな事件に翻弄されながら、殺人事件の謎に迫るのだ。
 ミステリなので、全然詳しく書けないのが歯がゆいが、物語の展開の大胆さだけで、今までにないミステリ小説の形を作り上げたと言えるこの作品。緻密なギミックの本格ミステリでありながら、実に読みやすい文体で、あっという間に物語に引き込まれてしまう。2017年の話題をさらうだけの作品だった。

 『魔眼の匣』は、『屍人荘の殺人』と同じ主人公による、新たな密室殺人もの。前回の展開がすごすぎるので、2作目で同じ世界を描くのはどうするのだろう、という心配はあった。しかしこの作者、前作の(大風呂敷とも言える)設定を継承し、その点を生かしながら新たな切り口の密室殺人事件を仕立て上げてしまった。見事だ。
 魔眼の匣というのは、建物の名称である。特徴的な建造物の中で殺人事件が起きるのは、密室殺人ミステリの常だ。しかし今作では、前作に勝るとも劣らないぶっ飛んだ設定がそこにつけ加えられる。果たして、この設定はミステリに取り入れて大丈夫なのか?と、やっぱり心配してしまうような大胆なことをやってのけている。
 前作に比べて、事件の真相がよりロジカルになり、本格的ミステリとして研ぎ澄まされた印象が心地よい。それでいて、登場人物の人間関係が、より深く描かれる丁寧な作品作りも実に手堅い。『屍人荘の殺人』が気に入ったら、ぜひこちらも読んでみてほしい。

 というわけで、今年読んだ本の中で気に入っている『魔眼の匣』を紹介しつつ、それならということで前作の『屍人荘の殺人』にもあわせて言及してみた。
 すでに世の中で十分話題になっているので、今さら僕がレビューを書くまでもない作品だが、ミステリ好きにはこんな手法もあるんだってことで読んでみてほしい。今後も注目したい作家である。
 なお、『屍人荘の殺人』については、すでに文庫本も刊行されていることをつけ加えておこう。


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