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『燃ゆる女の肖像(2019)』を観ました。

今作は嫁ぐ予定のお嬢様と、そのお嬢様のお見合い用の肖像画を描く画家の女性のお話です。とはいっても18世紀後半(日本だと明治時代)のフランスなので貴族とか伯爵(はくしゃく)とかの時代。お嬢様は島に住んでいて、この島の風景が美しくて映像に引き込まれます。
今でこそLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、それぞれの英語の頭文字からとった性的少数者の総称)というような言葉もあるが、明治時代なんて時期にはそんな言葉すらない。カミングアウトすれば牢屋には入れられないにしても、女性は社会では生きていけなくなったりしたのかもしれない。

1770年、マリアンヌはある伯爵令嬢の肖像画を依頼されてブルターニュの外れにある孤島の屋敷を訪れた。その令嬢エロイーズは、自殺した姉の代わりにミラノの貴族に嫁ぐため、それまで暮らしていた修道院から戻ってきたのだという。肖像画は結婚相手に贈るためのものだが、結婚を望まないエロイーズは以前来ていた男性画家には顔を描かせなかったため、マリアンヌは、画家であることを隠し、散歩相手として身近に接することで肖像画を描き上げるよう、エロイーズの母である伯爵夫人に依頼される。依頼通りに散歩に付き添い始めたマリアンヌは、かたくなな態度を取りながらも自由を求める心を秘めたエロイーズに次第に惹かれていく。

https://ja.wikipedia.org/wiki/燃ゆる女の肖像

これがもし男女のお話であったならば、身分の違う愛の物語とかになってしまう。私はこの”愛”という言葉には引っ掛かりがあって、多くの問題は”愛”という万能の言葉でかき消されてしまうように思える。
お嬢様が女性で画家も女性だから、この時代に相当キツかったと思われる女性の背負ってるものが浮き上がってくる。

このお嬢様の背負っているものはかなりであろう。一族の今後のためにも決められた人に嫁がないといけないし、求められれば子供(男の子とか)も産まないといけない。生きている間なにか問題でもあって出戻りみたいなことになれば、子供も夫にも元の家族にも相手方の家族にも後々まで汚名になってしまうのである。

次にこの画家の背負っているものである。彼女は結婚するかしないかを選ぶことができるし、さほど世間体を気にしなくても生きていけそうだ。まるで旅芸人とか音楽家みたいなアウトローな存在なのではないだろうか。

このように背負っているバランスがあまりにも違う2人が恋に落ちるのである。

今作の監督はセリーヌ・シアマという女性の方。2人の女性の「どの場面を見せるのか」と「どのように見せるのか」をテーマをしっかり浮き出させるように撮影していたように感じた。最後までとても安心して見れた。
セリーヌ・シアマ監督はお嬢様のエレーナ役のアデル・エネルのために脚本を書いたとインタビューで話している。

同性同士や身分違いのふたりが公にカップルになることが許されなかった18世紀フランスで、恋を知らなかった貴族の娘、そしてその娘の見合い用の肖像画を依頼された画家。惹かれあったふたりの秘めた関係を、繊細かつ情熱的に描き上げ、第72回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞した「燃ゆる女の肖像」が公開される。セリーヌ・シアマ監督に話を聞いた。
(中略)
自身のセクシャリティーをカミングアウトしており、本作では画家のマリアンヌ役のノエミ・メルランとともに、元パートナーのアデル・エネルを、初めて愛の喜びを知る貴族の娘エロイーズ役に起用した。
(中略)
今作で互いにプロフェッショナルとして対峙したエネルとの仕事を振り返る。
「アデルと一緒に仕事をしたいと考え、この映画はオーダーメイド的に、彼女に新しい楽譜を与えてあげたいと思って書いた脚本です。」
(後略)

https://eiga.com/news/20201203/14/

恋に落ちると相手を見てしまう。目で追いかけてしまう。
画家はしっかり描く対象を見ないといけないので、これが「恋しちゃってる」のか「絵を描くため」かがわからない。しっかり見てるうちに好きになってしまうこともあろう。
ハートに火をつけてみたいに見れば、画家の方が先に好きになっていて、その後でその気持ちがお嬢様に伝わったのかもしれない。
画家のマリアンヌはお嬢様のエロイーズを見ることができるが、その逆はできない。エロイーズがマリアンヌを見る(振り返る)ってことは”死”ぐらいに重いことでもあるのだ。

前半のミッションは「お嬢様に悟られずに肖像画を完成させよ」である。
画家はしっかり見て描かないといけないが、あまり見すぎると「なんでそんなに私を見るの」と言われかねない。ここが緊張感につながる。
あと女中のソフィが緊張のクッションみたくなってよかった。画家のマリアンヌが「お嬢さん全然笑ってくれないのよ」とか言うと、女中のソフィが「お互い様じゃない」とか返す。

わかりやすく言葉でも映像でもハッキリと説明はしないので、観てるこちらが読み取るような作品と思う。なので私も二度目見てわかってきたところもいくつかあった。何度も見返したくなるし、それが心地いい。
こういう作品は見ていると、こちらの気持ちが静かになるのがいい。


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