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『ハケンアニメ!(2022)』を観ました。

なんと、原作小説の連載してたは女性週刊誌『an・an』でしたし、原作者の辻村深月(つじむら みづき)さんは女性でした(勝手に同人誌+男子とか思い込んでいた私)。
どうりで、念願だったアニメ監督デビューを果たした主人公の斎藤瞳 (吉岡里帆)は元公務員であり、全然別世界のOLからアニメ業界に飛び込んだというお話だったのでした。

作り手が『なんのために、誰のために作品を世に出すのか?』が今作での大きなテーマになる。今作の場合の主人公は「つらい中で、なんとか生きていたかつての自分」の心に刺さる作品を作ろうとする。
これは、作り手の初期衝動としてはかなりまっとうだと思うし、私はここで「この作品は信用できる」と思いました(これが、売れるためとか金持ちになるためなんかだったら、そこで観るのをやめてたかも)。

2つのアニメ作品が同じ時間帯にぶつかります。そこで新人監督の斎藤瞳 (吉岡里帆)と対決するのが、斎藤瞳がアニメ業界に入るきっかけになる作品を作った、天才監督の王子千晴(中村倫也)である。憧れの相手との対決なのでした。

斎藤瞳監督(吉岡里帆)の『サウンドバック 奏の石(劇中作品)』

どっちかが「気持ちなんてどうでもいいよ、売れればそれでいいんだ」とかで作ってるなら『あっち側とこっち側の対決(メジャーVSマイナーとか体制VS個人とか)』ってことになるが、今作はどっちも『自分の作品を必要としている誰かに刺さる作品』を作っているので、見る側としては「どっちもがんばれ」的な気持ちで見てしまう。

王子千晴監督(中村倫也)の『運命戦線リデルライト(劇中作品)』

この世の中、今まで一度も挫折したことのない人なんて存在しないとは思うが、今作は挫折したり、思うようにならなかったくやしい体験がある人ほど、胸熱で見てしまうのではなかろうか。
私なんか裏目裏目の人生なので、後半は何度も何度も泣けてしまった。

今作では、徹底して楽に心地よくなんて作らせてはくれないわけである。大雨で暴風の中を進んでいいくしか、作品を作ることはできないのである。金銭的にも気持ち的にも余裕もないし、なんなら作品が壊れてしまう瀬戸際で、なんとか奇跡的に作品を世に出していくのでした。
そういう作品作りの無情な瞬間に立ち会ったことがある人は、きっと見たら感動せずにはいられないであろう。

配役も素晴らしかったが、文字で書かれた原作小説をよくぞ見事に映画(映像)へと変換させたものである(吉野耕平監督お見事 )。原作が絵的な漫画とかではなく小説だったとは思えなかった。
対決する2つのアニメ作品も部分的だがしっかりと絵で出てくる。それぞれの作品が目指す方向、世界観がしっかり出ていて、実際2つの作品が十数話にわたって存在するようにしか思えなかった(どっちも全話を観たくなった)。

私は今あるものに満足していたら作ったりしないのかもしれない。私の最初は「あの時学校に行けずに、死ぬか生きるかの瀬戸際で部屋から出れなかった自分」に向けて作りはじめた。他の人がどう思おうとどうでもよくて(そうでも思わないと怖くて作れなかったから)、あの時の自分にだけ届けたかった。かつての自分が勝手に思い込んでいた狭い世界が、少しでも広がったらいいと思って作った。「こういうのもアリなんだ」という気持ちを持ってもらえたらと思ってた。

それで今作を見終わってどうだったかといえば、私にはしっかりと『心に刺さった』のでした。もちろんそれぞれの人に好き嫌いがあるので、全然刺さらない人だっているとは思いますが、私にはしっかり刺さったし、見てよかった作品だったのでした。


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