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『彼らが本気で編むときは、(2017)』を観ました。

母親が家を出てしまって、置き去りにされた小学5年生(11歳)の少女のトモからお話ははじまる。
トモが母親の弟のところに転がり込む(以前にも同じようなことがあった)と、今回は一緒に住んでいる人がいたのでした。
その人は見た目が男性のようにも見えるけど、女性なのだという。
ここから家族というわけでもなく出会うことになった、3人での共同生活がはじまります。

小学生女子の持っている『絶対に負けない正義の味方的な圧倒的な強さ』ってのが小学生のトモから感じられて、もうそれだけで「ああ、この作品見てよかった」と思ってしまいました。
小学生のトモ(柿原りんか)と、トモをあずかるマキオ(桐谷健太)と、一緒に住むリンコ(生田斗真)この3人の空気感が今作の中心になりますが、見ていてあまり不安がなかったのはこの荻上直子監督に対する信頼感とか安心感があった(他の作品を見ていた)からかもしれません。出だしから閉めまで全て、安心してお話に乗れる幸せを感じました。

『彼らが本気で編むときは、』というタイトルで「編み物選手権とかの映画なのか?」と勘違いしていた私。今まで見なかったのを大変後悔しました。映画館で見たかったくらい好きな作品でした。
そして知り合いを誘って見に行きたかったくらいおすすめの作品です。

邦題は『彼らが本気で編むときは、』で、英題は『Close-Knit』=親密な関係=編み物のニット。英題の方がシンプルで意味合いもちゃんと出ているタイトルにです。こうなると日本語っていうのはニュアンスが難しくて、編み物のように丁寧に積み上げるように人間関係を作っていく、そんな感じをうまく邦題で出しにくい。『編み物家族』『ニットふぁみりー』とかではうまく感じが出ない。

男の子として生まれたが心は女の子という、こころと身体の性が一致してない状態のリンコ(生田斗真)が出てきますが、そんな最初から構える必要はないと思います。そのまま見ていれば小学生女子のトモが、お話にゆっくりとしたリズムで連れて行ってくれます。これは全然特別なことではなくて、現実でも目の前に現れたある人と出会うことで、今まで知らなかったことを知ることになったりします。
私にとって今作は、今まで見た『こころと身体の性についての映画』の中で、一番違和感なくすんなりと見ることができた作品でした。

男という性別における『普通』の生き方とはどんなだろう。
男として生まれて男らしく生きて、女の人を好きになって結婚して、その女の人と子供をつくって家族になる。できたら子供は2 人の4人家族。これが世の中的には『普通』と言うのではなかろうか。
男として生まれてきたのに男らしくないというだけで『異常』になり、ましてや男という性別なのに男の人を好きになるのは『異常』を通り過ぎて、『病気』とか『人の道に反する』とまで言われたりする。まさしく『引いたレールの上』を、切替を間違えないように最後まで走りきらないといけない。これってかなり難易度の高い作業のように感じてしまう。

他の人がとやかく言うことではなくて「あなたがそうなら、そう生きたらいいんじゃないの」と私が思うのは、知り合いに『男で男の人を好きになる人』がいて、その人に『自分が生きるか死ぬかくらいの苦悩あった』ことを知ったからだ。
本当の自分を自分で受け入れられないということは、自分で自分自身を殺すことになってしまう。そんなことになるならもう、世の中の普通がどうとか常識がどうとか誰にどう思われるとか、そんなもんは全部無視して生きて行ったらいいと思った。だって迷惑をかけてるとか人を傷つけるとか犯罪行為をしているわけではないのだから。「あなたがこの世で一番正しいのだ」これでいいのだと私は思う。

「どうせ家族なんだから、当然だろう」とか「どうせ家族なんだから、これくらい許されるだろう」みたいに適当なことをしていると、本当に繋がりが切れてしまうことだってある(私と父親がそう)。
それに、どうしても親が子を好きになれないとか、子が親を好きになれないとか、どうしょうもない相性の問題もあります。「子供は親を大切ににすべき」とか「親は子を大事に思ってないわけがない」とか、そいうのは残念ながらすべての人には通用はしないです。
だったら他人なのにしっかり繋がっている関係もあるだろうし(夫婦は元は他人だし)、これからはそういう繋がりこそ大事になってくるのではないだろうか(グループホームとかも他人の集まりだし)。

どういう形であれ、相手のことを尊重して相手を大事にするような丁寧な関わり方を見ると、私はなんだか知らんが泣けてしまうのです。「よかった」とか「ありがとう」とか自分でもよくわからない感情がドドドッと走ってしまうのです。
たぶん自分がそういう関係がしたくてもできていない。それでうらやましいとかがあるんではないかと思います。

私はこの監督さん(荻上直子)の『かもめ食堂(2006)』を観て「こんな作品は画期的だ」と思ったし、『めがね(2007)』も「今までにないところを手探りで目指している」ような素晴らしさを感じました。このあたりの作品は「大きな問題を抱えたキャラクターがドラマを起こして、それが作品のテーマになる」というのを、あえて外していると思われるので、見る人によっては伝わりにくい作品になってしまうのかもしれません。
その点今作はわかりやすく作ってあると思います。はじめて荻上直子監督作品を見るなら、この『彼らが本気で編むときは、』がいいのではないかと思います。今作がグッと心に落ちてきたのなら、他の作品もきっと合うと思うので、是非みてみて欲しいです。

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