2020年アメリカ大統領選挙における民主党バイデン勝利の私的考察

本noteは、大学の課題で執筆したレポートを元にした、2020年アメリカ大統領選挙に関する私個人的な考察になります。講義内容に関してはnoteの最後を参照**

【テーマ】
「2020年アメリカ大統領選挙で、何故、民主党バイデン候補が勝利したか」

1. 要旨(経済は良いがコロナで負けたトランプ)

 過激な発言の目立つトランプ大統領だが、これまでの経済政策は一定評価され、企業経営者・富裕層・白人労働者などの経済を重視する人々からの支持を集めて史上2番目となる7000万以上の票を獲得した。しかしながら、新型コロナウイルス対応や人種差別的な立場が強い反発を呼び、黒人・ヒスパニック層や貧困層を中心に民主党を支持したため、バイデン氏が7400万以上のアメリカ大統領選挙史上最高の得票数で勝利を収めた。


2. 序論(民主党バイデン氏の勝利)

 2020年11月3日、米国大統領の選挙人を選ぶ本選挙が行われた。11月24日現在、依然として共和党のトランプ陣営により、郵便投票等での不正があったという訴えが続いてはいるものの、306人の選挙人を獲得した民主党のバイデン氏が選挙での勝利を決めている。本レポートでは、米国の選挙の特徴や各二大政党の支持基盤について触れながら、バイデン候補の勝因について考察していく。


3. 米国大統領選挙の仕組み(選挙人)

 「本選挙」と呼ばれている11 月の第一月曜の翌日の火曜に実施されるのは、各州で大統領に投票する選挙人を選ぶ選挙である。これは、アメリカ合衆国の建国の歴史に起因する。東海岸から順に自治を実現した州が連邦制を取って国を創り上げてきたため、アメリカ合衆国の政治はあくまでも主権を持った州が連合して行うものであるという認識があるのだ。

 各州の選挙人の数は、各州2人ずつの上院議員に、人口に比例して割り振られた下院議員の数を加えたものとなっている。選挙人の選定は、メーン州・ネブラスカ州を除く全ての州で、11月の選挙結果に基づいた勝者総取り方式となっている。

 また、大統領選挙と同時に、上院の3分の1の議席、下院の全ての議席を争う選挙も行われるため、上院下院の結果にも注意が必要である。 


4. 米国の政党の特徴(小選挙区制と利益集団)

 米国の政党の大きな特徴として、綱領政党ではなく、様々な地方政党・利益集団・社会運動の連合体であることが挙げられる。

 このことは、欧州の政党と比較すると分かりやすい。比例代表制が行われる欧州では、環境問題をマニフェストとして掲げる緑の党のように、特定の政策を実現するために存在する綱領政党がある。

一方、小選挙区制が行われる米国では、特定の政策実現を目指す党は議席の獲得が難しい。そのため、各利益集団は共和党、民主党のどちらかの党と手を結び政策実現を目指すようになるのである。

 また、議会選挙において各州の議員に対しての公認権を党本部が持っておらず、予備選挙によって候補者が決まるため、地方議員が党全体とは独立した政治活動を行う可能性があるという点において、地方政党の連合体であるといえる。


 以上のような特徴のある米国の政党であるが、次に、その二大政党である共和党と民主党はそれぞれどのような特徴があり、支持基盤はどのような人・集団であるかについて説明する。


5. 共和党の支持基盤とトランプ氏

 共和党の支持者は主に、企業経営者・富裕層・宗教右派・保守的白人といった人々、利益集団である。

 元々共和党は、レーガン主義、すなわち経済・社会・軍事における三脚保守主義であると言われており、小さな政府で市場を開放する経済政策や、妊娠中絶を許さず学校でのお祈りを重視する宗教政策、ソ連に対して強硬な姿勢をとる軍事政策を打ち出してきた。それ故に、少ない税金で政府の介入が少ない方が都合の良い企業経営者や富裕層、また宗教右派が支持基盤となっていた。

 これに加え、トランプが大統領選に出馬した2016年からは、国境に壁を作るなど公共事業を通じた閉鎖的な政策を指示する白人労働者層からの強い支持を集めるようになった。これは、2012年のロムニー氏の大統領選挙戦敗北をきっかけに作られたAyres Report(エアーズ・レポート)において主張された、南米出身者などのマイノリティ票を集めるべきだという議論に反するものであり、今後白人層割合が減っていく人口動態のなかで共和党が票を獲得していけるのか懸念が挙げられている。


6. 民主党の支持基盤とバイデン氏

 一方の民主党の支持基盤は、労働組合や小規模農家に加え、黒人やエスニック集団、貧困層、女性やLGBTの権利獲得を目指す集団、環境保護団体などになっている。

 貧困層や黒人・エスニック層など、比較的経済的に弱い立場にある集団からの支持が多いため、”オバマ・ケア”に代表されるような大きな政府で福祉政策の充実化を目指すような政策を打ち出している。そのため、サンダース氏のような経済左派と呼ばれる、大きな政府を強く推進しようとする立場を持った政治家が支持を集めていたが、トランプに対抗して穏健派でニュー・デモクラットと呼ばれるバイデン氏を候補者とすることで中道派の支持を集めトランプ陣営に対抗している。

 また、多様な人種や女性、LGBTの権利の実現を目指す集団に支持されていることから、先日のコロナ渦中における”Life is matter”の問題でも人権保護を訴え、経済を優先させ過ぎずにに新型ウイルス対策に重点を置く立場をとっている。

 環境問題に関しては、地球温暖化対策の国際的な枠組みを定めたパリ協定からの離脱を通告したトランプの共和党とは対照的に、環境保護団体からの支持を受ける民主党は地球温暖化対策等にも積極的な姿勢を示しており、バイデン氏は環境保護意識の強い欧州の政党から歓迎を受けている。

 また、ニクソン大統領のウォーターゲート事件以降、大統領選挙に関しては議会出身の政治家への不信が高まり、州知事出身のアウトサイダーへの支持が高まっていた。トランプ氏は州知事すら経験していないアウトサイダーであるが、過激で不適切な発言も数多く、インサイダーであり安定感のあるバイデン氏に支持があるのかに注目が集められていた。

 このように、共和党・民主党共に多様な利益集団やイデオロギーを持った集団の集合体であるため、大統領選後は党内での対立がどうなるかも重要な争点となる。


7. 2020年大統領選挙結果(激戦区における動向)

 2020年の大統領選挙では、306人の選挙人を獲得した民主党のバイデン氏が選挙での勝利を収めた。両候補の得票数は、バイデン氏が7400万票以上、トランプ氏が7000万票以上を獲得し、どちらも過去最高の得票数であった2008年のオバマより多くの票を獲得している。投票率は60%台後半となり、郵便投票増加の影響を考慮しても、非常に注目度の高い大統領選挙であったことが分かる。*1


 カリフォルニア州やニューヨーク州といった、人種が多様で、環境・人権問題への意識が強い人の割合が比較的多いブルーステートと呼ばれる州では順当に民主党が勝利し、ミズーリ州やテネシー州といった内陸部で保守的な白人の多いレッドステートと呼ばれる州では共和党が共和党が勝利した。

 テキサス州や、スイングステートであるフロリダ州では、人口動態が変化し南米出身の人々が増えていたこともあり、民主党との接戦が予測されていたが、新型コロナウイルスの感染拡大を懸念して大規模集会と戸別訪問を制限した民主党に対し、それらを大々的に実施したことも功を奏した共和党が勝利した。

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bbc.com

 また、2016年の大統領選挙でトランプ氏が白人労働者の支持を収め、劇的な勝利を収めたラストベルトの各州では、オハイオ州を除いてバイデン氏が勝利を収めた。これは、新型コロナウイルス対策に力を入れないトランプ大統領に疑念を持った層や、2016年にはエリート層であるクリントン氏を毛嫌いして共和党を支持したが今回はバイデン氏を支持した層がいることなどが主な理由であると考えられる。


8. トランプ氏とバイデン氏の支持者が重視する政策論点

 Pew Research CenterやEdison Researchの調査によると、大統領選挙に投票する際に最も重視すると答えた人の割合が多かったテーマは「経済」だった。Edison Researchの出口調査によれば、35%の人が「経済」を最も重視すると答えている。一方で、20%の人が「人種差別問題」を、17%の人が「新型コロナウイルス対応」をそれぞれ最重要イシューであると答えている。*2,3

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 ここで注目したいのは、トランプ・バイデン両候補への投票者が重視する政策が分かれている点である。トランプ氏に投票した人の多くが「経済」が重要であるとしていた一方で、バイデン氏の支持者は「人種問題」や「新型コロナウイルス対応」が重要であると答えた。また、Pew Research Centerによると、バイデン支持者の82%が「新型コロナウイルス対応」が重要であると答えている一方で、トランプの支持者が同テーマを重要であると答えたのはわずか39%である。*3

画像2

 このことから言えるのは、二点ある。

 一点目はトランプ氏の4年間の経済政策が一定評価されており、それが今回7000万以上の票を獲得し大接戦演じた要因となったという点である。優秀なビジネスマンとしての経歴も持つトランプ大統領は、金融緩和政策を押し進めるなど、4年間で積極的な経済政策を推し進めており、コロナショック以前までの株価や成長率、失業率の改善で成果を挙げた。その点が評価され、企業経営者・富裕層・白人労働者を中心に、「経済」を重視する層からさらに強い支持を引き出したといえる。

 二点目は、トランプ氏の新型コロナウイルス対応や人種差別的立場が大きな反発を呼び、トランプ氏の敗北、そしてバイデン氏の勝利に繋がったという点である。マスクをしない行動に象徴されるように、トランプ氏は新型コロナウイルスの影響を軽視し経済重視の立場を示し続けていた。また、大統領就任当初から人種差別的な発言を繰り返しており、トランプに猛反発して民主党支持を決める層が増えたと考えられる。

9. 結論

 トランプ氏は、過激な発言があってもこれまでの経済政策が評価され、企業経営者・富裕層・白人労働者などの経済を重視する人々からの支持を集めて得票数を増やした。しかしながら、新型コロナウイルス対応や人種差別的な立場が反発を呼び、人口割合が増えてきている黒人・ヒスパニック層や貧困層を中心に民主党を支持したため、僅差でバイデン氏が勝利を収めた。今後も人口動態の変化によって白人以外の人種の割合が増加する中で、民主党の支持基盤が拡大することが予測されるため、共和党がどのような方針を取ることになるのか注目していきたい。


 

**講義について

東京大学でアメリカ政治論の講義をして下さった、成蹊大学法学部教授、西山隆行先生の講義でした。歴史的経緯まで含めたとても分かりやすい講義でしたので、興味をもたれた方は是非先生の著書をご覧になってみて下さい。


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引用:
*1:BBC.com(US Election 2020)
https://www.bbc.com/news/election/us2020/results

*2:BBC.com(National Exit Poll:Issuer by Edison Research)
https://www.bbc.com/news/election-us-2020-54783016

*3:Pew Research Center(Important issues in the 2020 election)
https://www.pewresearch.org/politics/2020/08/13/important-issues-in-the-2020-election/



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