トレーニング負荷の高さではなく、負荷の種類に目を向ける
トレーニング負荷という言葉は、スポーツ現場であれば耳にすすことは珍しくありません。
トレーニングの目的は、それが競技練習であれフィジカルトレーニングであれ、「目的とする運動パフォーマンスを向上させる」ことであるならば、そのトレーニングによる負荷が目的の運動パフォーマンスにつながる負荷であるかを検証していく必要があります。
しかし現場レベルでのトレーニング負荷という言葉は、トレーニングのきつさや強度・量の高さや多さで語られる場合がほとんどであり、そこではそのトレーニング負荷が身心にどのように作用するかは語られません。
以前よりトレーニング負荷・強度・量に関してはTwitterの投稿やPITTOCK ROOMの記事で触れてきました。
トレーニング強度・量をコントロールすることでトレーニングの効果を変えることは、トレーニングにおける必須事項であり、最低ラインだと考えています。
その上でそのトレーニングの負荷がどんな種類の負荷であるかを認識してコントロールしていくことでトレーニングの質をより向上させることができるはずです。
今回はトレーニング負荷の種類という点に着目して記事を書いていきます。
■トレーニング負荷とは何か
①トレーニング負荷=きつさの程度?
トレーニング負荷は1つの要素だけで決まるものではありません。
一般的に「トレーニング負荷が高い」でイメージされるのは膝に手をつくような激しいトレーニング、いわゆる「きつい」トレーニングです。
しかし、きつさや疲労度合いでだけでトレーニング負荷を考えることは、トレーニング負荷の一側面を見ているだけにすぎません。もちろんトレーニング負荷が高ければ結果的に「きつい」「疲れる」ことになる場合は多いですが。
以下はトレーニング負荷の定義の一つです。
トレーニング強度・量、調整の複雑さ etc... と多数の要因による身心への作用(諸作用)の総和をトレーニング負荷と考えます。
トレーニング負荷の別の定義では「身体に起こる変化の程度」と
上記いずれの定義においてもトレーニング負荷とは、運動・トレーニングにおいて身心にはたらく作用とそれによって生じる身心・身体機能の変化であると捉えることができます。
きつさや疲労感は運動やトレーニングによる身心の変化の一つであり、それだけをトレーニング負荷と捉えてしまうと、身心に対してどのような作用が働いているかを落としたり、本来より大切である身心・身体機能の変化に気づかなかったりしてしまいます。
②トレーニング負荷とトレーニング強度・量
現場ではトレーニング負荷という言葉と同時に、トレーニング強度・量という言葉を耳にすることが多いです。
「負荷の高いトレーニング」と「強度の高いトレーニング」は同じような意味で使われる場合があります。
しかし上記のトレーニング負荷の定義からわかるようにトレーニング「負荷」と「強度」は分けて考える必要があります。
③トレーニング負荷を「高い・低い」でしか認識できないと...
トレーニング負荷が
「運動によって身心に及ぼす作用・諸作用の総体」
「運動によって身体機能が変化した分」
であるならば、
・キツさ、疲労感
・トレーニング強度
・トレーニング量
などだけでトレーニング負荷を考えることは危険です。
なぜならこれらの視点だけでは大きいor小さい、高いor低い、多いor少ない、といった視点でしかトレーニング負荷を捉えられていないからです。
トレーニング負荷が身心に及ぼす作用・身体機能の変化であるならば、どのような作用が働くかという作用の質や種類がまず必要です。
■トレーニング負荷の種類に目を向ける
トレーニング負荷を考えるとき、負荷の種類に目を向けることでよりトレーニングを良いものにできるかもしれません。
①異なる種類のトレーニング間における負荷の種類の違い
最も簡単な例は筋力トレーニングと持久力トレーニングでの負荷の種類の違いです。
負荷の高い筋力トレーニングと負荷の高い持久力トレーニングは、どちらも「負荷の高いトレーニング」ですが、それぞれが身心に及ぼす作用は大きく異なるものです。これはトレーニング原理の一つである、特異性の原理からもわかることですね。
この例ではトレーニング自体の種類が異なる(筋力トレーニングと持久力トレーニング)ので、2種類のトレーニングを知っている人であればトレーニングの負荷の種類が異なることを認識することは簡単です。
しかし同じ種類のトレーニング同士だと、負荷の種類を認識するのが難しくなります。
②同じ種類のトレーニング間における負荷の種類の違い
「同じ種類のトレーニング」というのもどこで分類するかによって異なりますが、わかりやすく、筋力トレーニングを例に挙げます。
筋力トレーニングではそのトレーニングの目的を大きく以下の3つに分けて考えることが多く、それぞれの目的に応じてトレーニング設定や方法を変化させます。
・筋の肥大
・最大筋力向上
・パワー向上
最大筋力向上を狙う場合と筋肥大を狙う場合の代表例として
筋肥大:1RM80%の強度で10回×3〜5セット
最大筋力向上:1RM90〜95%の強度で3〜5回×3〜5セット
という方法があります。
この2つの方法は同じ筋力トレーニングであるものの、トレーニング負荷の種類は異なります。
しかし、専門的な知識を持っている場合はトレーニング設定を聞くことでトレーニング負荷の種類を判別できますが、そうでない場合、トレーニングで行う運動自体は大きく変わらないためにトレーニング負荷の種類を判別できない可能性があります。
筋肥大を狙った方法は「たくさん回数をこなすきつい筋力トレーニング」
最大筋力向上を狙った方法は「重い重量を使ったきつい筋力トレーニング」
と認識されてしまうでしょう。
そこにはトレーニング負荷の種類の違い、つまり身心に作用する種類の違い、という視点はありません。視点は重量の重さや量の多さ、きつさです。
同様のことは持久力トレーニングでも起こりえます。
以前よりRSTとHIITではトレーニング効果が異なることを紹介していきましたが、同じ持久力トレーニングと分類して考えてしまうと、トレーニングのきつさや強度・量にばかり目が向いてしまい、トレーニング負荷の種類が異なることに気づけないことはよく見られます。
「どっちも持久力を高めるトレーニングでしょ?じゃあ量をたくさんこなしたいからHIITってやつにして!」
「強度を高くしたいからRSTにして!」
結果として適したトレーニングになることはあるかもしれませんが、トレーニング選択にトレーニングの強度と量の視点しか持てていないことになります。
■サッカーのチーム練習と負荷の種類
ここまで筋力トレーニングや持久力トレーニングといったいわゆるフィジカルトレーニングを例にあげてトレーニング負荷の種類という視点を解説しました。
フィジカルトレーニングでは上記のように目的に応じて負荷の種類を変えることは当たり前で、それによって身体能力の強化を目指します。
サッカーのトレーニングではどうでしょうか。
例えば、下記2つの書籍によると、戦術的ピリオダイゼーションでは以下のような言葉でサッカーのトレーニング負荷の種類を定義しています。
またそれらと対応した筋収縮のタイプとして以下の3つをあげています。(余談ですがこれらはフィジカルトレーニングの世界の言葉と若干ニュアンスが異なっていることが面白いです)
詳細な定義などは下記2冊の本を読むべきだと思うので、ここでの解説は省略します。PITTOCK ROOMを読んでくださっている方はすでに読んでいそうですが笑
以前の記事でもスモールサイドゲームを題材にストレングスと持久力の負荷に関しては触れました。
仮にある日のトレーニングで「強度の高いトレーンング」を行うと考えた場合、5vs5のスモールサイドゲームと11vs11のゲームではどちらを「強度の高いトレーニング」ととらえて選択できるでしょうか?
運動強度だけでいえば5vs5はより強度の高いトレーニングといえますが、11vs11が強度の低いトレーニングとはいえません。
そもそも5vs5のトレーニング負荷と11vs11のトレーニング負荷を比較することは非常に難しいです。
この時に、そもそもトレーニング負荷の種類が異なると考え、5vs5で身体的にかかる負荷はストレングスの負荷であり、11vs11でかかる負荷は持久力の負荷である、と認識できればどうでしょう。
その日のトレーニングで行いたい「強度の高いトレーニング」で要求すべき身体的負荷はストレングスなのか持久力なのか、という視点でもトレーニングを検討することができます。
負荷の種類の設定は戦術的ピリオダイゼーションで言われている方法だけとは思いません。
大切なのはサッカーのトレーニングにおいても「きついかきつくないか」「運動強度が高いか高くないか」だけでトレーニング負荷を考えるのではなく、そのトレーニングで要求される負荷の種類はどのようなものなのかを整理して設定することだと考えています。
現在の所属チームでは、戦術的ピリオダイゼーションを採用しているというわけではないですが、一部参考にして1週間のピリオダイゼーションを組み立てています。
それ以前は、僕自身サッカーのトレーニングにおける負荷の種類という認識は少なく、トレーニング強度と量のコントロールにより重きを置いていました。
しかし今では負荷の種類という考えは、1週間のトレーニングの中で週末の試合へ向けてサッカーに必要な要素(戦術的・心理的・身体的いずれにおいても)をトレーニングしていくために非常に重要な考え方だと考えています。
■まとめ
強度や量だけでなく、負荷の種類に目を向けることは、サッカーに必要な要素を1週間の中でバランスよくトレーニングできるメリットがありますし、同じ種類の負荷のかかり過ぎによる怪我を防ぐことにもつながると言えるでしょう。
ストレングス、エンデュランス、スピードの分類は、実際に今年から使い始めて非常に使いやすいです。
もちろんそれだけではより詳細な負荷分類はできないので、それぞれの現場に応じて設定することは必要だと思います。
ただ重要なことは、ストレングス、エンデュランスといった言葉ではなく、負荷の種類の違いを認識することでしょう。
ぜひ今後のトレーニングプログラム作成時に導入してみてください。
今回は以上です。
ありがとうございました!
■参考
ライター
Keisuke Matsumoto
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