004.今が自分を作る

写真家・篠山紀信がカメラを好きになった理由の一つとして、写真を撮ったことで褒められた経験があることをあげている。雑誌BRUTUS『ほめられる写真。』特集の巻頭にその旨が書いてある。小学三年生のころ、隣に住んでいたベトナム人のオジサンが飼っているシェパードを撮ったら、すごく喜んでもらえて、お返しにチューインガムをもらったらしい。

人に喜んでもらった経験から、人に喜んでもらうことを続けたくなり、生き方が大きく変わった話は素敵な美談だ。だが、全ての人が似た経験をできるわけでもない。過去に起きたことで、問題が生まれ、それが肥大化し生きづらさを感じるケースすらある。過去の影響は強い、と思われやすいのもそうした美しい話と問題の話がちまたに溢れていることが原因かもしれない。

精神科医のジークムント・フロイトは、人格形成や神経症の原因として、そうした過去が強い影響を与える原因論を提唱した。しかし、同じく精神科医のアルフレッド・アドラーは、自分の作り出す状況は、その都度目的を持っている、という目的論で反論した。どちらが正しいか、という明確な答えはさておき、結局、今この次の瞬間の自分を作ることができるのは、今の自分に他ならない。過去の自分が自分ではなく、今の行動こそが自分を形作る。

ヴィクトール・E・フランクルは「人間は"自分を"決断します。決断存在として人間は、何かを決断するだけではなく、そのつど自分自身のあり方をも決断するのです。すべての決断は自己決断なのです。そして、自己決断はつねに自己形成なのです。」と『苦悩する人間』で述べた。

これは理屈の問題だけではない。今の行動が人の人格形成になっていく。過去が明日を形作るのであれば、すべての事柄は予測できるという前提に立つ。すべての事柄を予測できないという立場で物事を見るのであれば、今を形作るのは今しかなくなる。あなたはどちらか。今から写真を撮り始め、そこに強い目的をもてれば、あなたも篠山紀信にだってなれる。評価されるかは別の話だが。

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