ほうれん草とシュウ酸塩

緑黄色野菜として知られるほうれん草。茹でてサラダやおひたし、さらにはカレー(サグカレー)まで様々な料理に使われています。ところで、なぜほうれん草は生で食べられないのでしょう?よく言われるのが、アクが強いので食べられないということです。このアクにはどんな成分が含まれるのでしょうか?(生でも食べられるサラダ用ほうれん草という品種も出回っているようです。)

ほうれん草のアクの成分は、シュウ酸(図1左)というカルボン酸のナトリウム塩または、カリウム塩である、シュウ酸ナトリウム(図1中央)やシュウ酸カリウム(図1右)です¹⁾。カルボン酸とは、分子内にカルボキシル基(-COOH)を持つ化合物のことを言います。シュウ酸のように分子内に2つのカルボキシル基を持っているカルボン酸をジカルボン酸と呼ぶことがあります。また、カルボン酸は名前の通り酸性を示すため、シュウ酸は酸性の物質です。シュウ酸ナトリウムやシュウ酸カリウムは弱酸の塩であるため、アルカリ性(塩基性)を示します。アルカリは苦みを呈するため、こういった物質を多く含むと”アクが強い”と言われるようになります。

図1. シュウ酸(左), シュウ酸ナトリウム(中央), シュウ酸カリウム(右)

シュウ酸には面白い性質があり、2価の金属イオンを分子内の2つのカルボキシル基で挟むことができます。マグネシウムやカルシウムなどの二価の金属イオンがこの作用で捕らえられます。これを”キレート”といい、代表例として図2にシュウ酸カルシウムを示しました。植物の中にはシュウ酸ナトリウムやシュウ酸カリウムではなく、このシュウ酸カルシウムを持つ物があります(サトイモやブドウなど)¹⁾。ます。ちなみに、キレートという言葉は“カニのハサミ”に由来します。

図2. シュウ酸カルシウム

シュウ酸が金属イオンをキレートする性質は面白いですが、我々の体にとっては困った性質です。シュウ酸がカルシウムを捕らえて形成されるシュウ酸カルシウムはシュウ酸や他のシュウ酸塩と比較して水に溶けにくく(表1)、結石²⁾の原因になります(表1中の温度は異なりますが、傾向はつかめると思います。)。

表1. シュウ酸および、シュウ酸塩の水への溶解度

ほうれん草のアクと結石は、一見何も関係が無いように見えますが、実は同じシュウ酸に関係する物質であることは不思議ですね。

【参考文献】
1) 日本植物生理学会, ほうれん草のシュウ酸 | みんなのひろば, https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1119 (2023年12月19日閲覧)

2) 日本医師会, 健康の森/尿路結石, https://www.med.or.jp/forest/check/n-kesseki/03.html (2023年12月19日閲覧)

3) 純正化学株式会社, しゅう酸(無水), https://www.junsei.co.jp/product_search/lfx-detail-D-5608.htm (2023年12月20日閲覧)

4) 純正化学株式会社, しゅう酸ナトリウムしゅう酸二ナトリウム, https://www.junsei.co.jp/product_search/lfx-detail-D-5643.htm (2023年12月20日閲覧)

5) 米山薬品工業株式会社, 2022年8月23日 1.製品及び会社情報 化学品の名称 しゅう酸カリウム, https://www.yone-yama.co.jp/shiyaku/msds/pdfdata/CB1760.pdf (2023年12月20日閲覧)

6) 純正化学株式会社, しゅう酸カルシウム一水和物, https://www.junsei.co.jp/product_search/lfx-detail-D-5625.htm SDS (2023年12月20日閲覧)