タロの散歩

この物語は出社前に犬の散歩をする女性のお話です。犬のタロが河原で掘り出したのはなんと腕の骨。警察に電話し、土手で到着を待ちます。始め自転車でお巡りさんが、その後車で刑事と鑑識がきます。主人公はドラッグストアに勤める女性。さて、どうなりますやら。

東山のてっぺんには、東神社がある。東向きに建っており、朝日が上るとき、秋分と春分では、鳥居の下から昇ってくる。何だか、モンマルトルの丘みたいだ…って、知らないけど。朝の犬の散歩に下を通ると、鳥居に朝日があたって、朱色が燃えるようだ。丘のふもとにも鳥居があり、石段が上まで続いている。燃える鳥居は丘の上の鳥居だ。この丘自体が古墳なのかなと思わせるほど丸い。お饅頭みたいだ。それなのに高さがある。石段が千二十四段だと思った。百メートル以上になるかも。

私はタロのロープを緩めて、ゆっくり鳥居の前を北から南へと下っていく。しばらく民家が立ち並び、そこを過ぎると、畑地となって、昔の畦道を舗装した様な舗装の両端がタンポポで彩られた緑と黄色のハーモニーが続く。タロは舗装道路より、タンポポを踏んで歩くのが好きだ。花を舐めたり、葉を齧ったりしながら、突き当りの土手道に出る。

土手の下に畦道のような道があるが、土手を上ると、一筋川の河原が広がっている。土手の上はサイクリング道路になっていて、朝から自転車に乗る人が結構いる。川は今、五メートルほどしか水がない。広い河原は枯れ草が減って、緑が増えてきた。もう春だなあ。

河原に降りると、タロの紐を外し、自由に走らせる。私はそろそろ温んできた川の流れに小魚でもいないかと、目を瞠る。朝日が川に沿って昇ってくる。きらきらと水面がオレンジ色に輝く。振り返るとタロが何かの匂いを嗅いで、掘るしぐさをしている。カエルの冬眠でも掘り当てたのか。タロを呼んでも来ないので、仕方なく穴掘り現場まで足を向けた。

タロが掘っていたのは何か白っぽいものだ。何だろうと思って腰をかがめて見ると、木の枯れ枝かと思った。さあ、帰ろう。タロの首輪に紐をかけると、立ち上がって、土手の方に行こうとした。しかし、タロは前足でしきりに枝を引っ掻いている。面倒だけど、仕方がない。小石を拾って、白っぽい木を掘り出そうとしたとき、腕時計が見えた。これは木じゃない、骨だと気がついた。あー、朝から変なもの見ちゃった。

タロが掘り続ける間、私は携帯電話で百十番に連絡した。結局タロの首輪をつかんで、土手の上のサイクリング道路まで戻ると、警察が来るのを待った。最初にサイクリング道路を自転車に乗った警官がきた。うちの父よりは少し若い感じの中年だ。私が手を振ると、私の横に自転車を止めて、荷物台の白い箱からノートみたいなものを取り出した。

「百十番に電話くださった山下さんですか?」

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