一すじ山のキノナ

一筋山は一すじ道が山の脇を通っているから一筋山と呼ばれています。百メートル弱の小山です。頂上付近に大きな岩があり、そのため子供が遊びに行くくらいで大人はあまり登りません。このお話は一筋山にキノコ採りに行った兄妹がキノコ型宇宙人キノナに出会うお話です。

 ぼくはママに頼まれて、妹を連れて一すじ山にキノコを採りにでかけました。今夜のおかずはシチューです。そこに入れるためにキノコが必要です。
 僕は小学校三年生、妹は幼稚園です。僕のおうちは、一すじ山の南側のふもとで、赤い屋根の一軒家です。一すじ山の森の中を隣町まで一すじの道が続いています。隣町のスーパーの方が僕たちの町のスーパーよりも近いので、一すじ道はよく利用します。
 
 その日はゴールデンウイークで学校も幼稚園もお休みでしたから、妹と一緒に一すじ山に行きました。もう手前の方のキノコはみんな取ってしまったので、一すじ山に登る細道に沿って、山を登り、といっても百メートルくらいの小さな山ですが、左手にキノコを入れるカゴ、右手に妹の小さな手をつかんで、ピザまんの歌をうたいながら妹は右側の、僕は左側の森の中を探しながら歩いていました。
 
 妹は僕の手を引っ張り、
「いっちゃん、あれ」
僕は鈴木一郎、妹は鈴木美知子という名前です。僕は妹が指さした方向を見て、そこだけ陽がさして明るくなっているのを見ました。
「気持ちよさそうだね。みっちゃん行ってみよう」
妹の手を引いて、森の中に入りこみました。所々笹などが生えているので、よけながら入っていきました。

 そこは周りの木が小さいせいか、空が青く見えました。
 なんと、日の当たっている周りには、キノコがたくさん生えていました。
「みっちゃん、やったね!」
「みっちゃんが見つけたんだよー」
美知子が嬉しそうに手を叩きます。僕とみっちゃんは並んでキノコを根元から引っこ抜いてはカゴに入れました。みっちゃんの取りそこなった分を僕が引き抜きます。

「見てみて、大きなキノコ」
僕が振り向くと山吹色の傘の大きなキノコが見えました。みっちゃんは指先できのこの傘をツンツンしました。
「やめろよ」
キノコが言いました。
「わー、このキノコしゃべるよ!」
みっちゃんが言うと、
「失礼な奴だな。僕はきのこじゃないやい。キノナだよ」
といいました。いっちゃんはキノナにむかって、
「僕は鈴木一郎、妹の鈴木美知子だよ」
「うんそうか。僕はキノナだ。キノコじゃないよ」
「でも形はキノコに似ているけど」
「それは君たちが猿に似ているのと同じさ」
「キノコが進化したの?」
「違う。進化の過程できのこと別れたんだ。ただここでじゃないけどね」
「ここって、一すじ山ってこと?」
「ちがうー、地球だよ」
「えー?キノナは宇宙キノコなの?」
「そう。言いにくいから宇宙人でいいよ」
「すっごーい。あ、今日はキノコを採りに来たんだけど気を悪くしないかな?」
「いいよ。僕たちが猿を捕まえたって、少し心がざわつく程度だろう?」
「うーん、たぶんね」
「ね、お傘に触ってもいい?」
「これは身体だよ。傘じゃない」
「お顔は?」
「顔も体の一部だよ」
「その体の天辺に触ってもいい?」
「うるさい女だなあ」
そう言ってキノナは身体を前に倒しました。みっちゃんは三角形の天辺の黒い柄の部分をなでなでしました。ちょっとミケが小さかった頃の体を撫でているようでした。いっちゃんもつい触ってしまいました。なんだかとても滑らかですが、毛羽が生えているような感じでした。そうだ、ママのグレーのコートみたいだと思いました。

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