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【長編小説】魔力(3)

こんにちは、keiです。

魔力3回目の投稿です。

正直、前回までの3,000字での投稿がボリュームがありすぎたので、今回からは1,500字での投稿に変更します。

魔力(3)

「あの、先生から見た主観で構わないのですが、普段の青木佳奈さんについてもう少し詳しく教えていただけませんか」

メモをとっているだけだった三浦が席に着くなり質問をした。

「彼女、先ほども申し上げたのですが、本当に明るい子でクラスの中心のような存在でした。学園祭や体育祭といった学校の行事ごとの時なんかは率先して進行役をしてくれてましたし、こんなことを言っては教師失格かもしれませんが、正直、クラスの一体感を芽生えさせるのにすごく助けてもらってました」

話し終えると栗原の口が少し緩んだ。緩んだかと思うとすぐに目尻に涙が浮かんできた。すかさず、三浦から渡されたハンカチで目元を押さえていた。

「本当にあの子が事件に巻き込まれたなんて、信じられないです」

そう言って目尻の端をぬぐって、すみませんと言った。
三浦はそれ以上、栗原に質問はしなかった。

「わかりました。では、緒方先生にもお話を伺いたいので呼んでいただいてもよろしいですか」

栗原が緒方を呼びに応接間を出ていくと、三浦がメモを見ながら口を開いた。

「青木佳奈は自分から車に乗り込むような生徒ではなかったようですね」

「そうだな。栗原の話から推測するとだけどな」

一時の間が空いたあとに「そうですね」と三浦が頷いた。

「どういったご用件でしょうか」

緒方は応接室のソファにつくなり聞いてきた。分厚いレンズの奥の鋭い切れ長の目が考えていることを見透かせないような雰囲気があった。
慎重に聞く必要がありそうな相手だと直感で思った。三浦も同じように感じ取ったのか座る位置を直すなど忙しない。

「確認になるんですが、栗原先生にお話を伺ったところ、昨日の午後七時半から八時の間は職員室におられて、緒方先生も一緒だったと聞いたのですが間違いないですか」

「はい。間違いないです。その時は他にも三人ほど職員が残っていました」

「わかりました。先生は栗原先生がお帰りになった時間はお分かりになりますか」

「昨日は、たしか八時半頃だったと思います」

「間違いないですか」

「ええ。間違いないです」

一切の感情らしいものは見れなかったが淡々と答える様子に虚言は無さそうだった。
もっとも嘘をついていたとしても簡単に表に変化が現れるタイプじゃないだろうからこの短時間の質問で相手が嘘をついていたとしても見抜くのは至難だろう。

「そうですか。ありがとうございます」

緒方を職員室にもどしたあとに再び栗原を呼んだ。

すぐに扉が開く音がしたので見上げると、そこに立っていたのは栗原ではなく、年配の男性が立っていた。
歳は五十代ぐらいに見える。髪の毛は短く刈りそろえられていて、顔には深く皺が刻まれていた。半袖のワイシャツにネクタイはしておらず、足元を見るとサンダルを履いていた。

「校長の大平です」

部屋に入るなり深々と頭を下げてきたので、こちらも座ったままであったが頭を下げた。

「刑事さん、折り入って相談があるのですが」

「なんでしょう」

大平は一つ咳払いをして続けた。

「今回の事件の被害者がうちの生徒ということで、ご遺族の方のお気持ちを考えると胸が痛む気持ちです。犯人がとても憎いです。なぜ、うちの生徒なのか、他にも学校はあるのに……。学校側としては犯人逮捕のために全面的に協力します」

そこまで言ったあと、一時の間があいた。次の言葉を言うべきか迷っているようだった。右手の甲で額を拭うと、大平は口元を緩めて少し俯きかげんに話し始めた。

「ですが、こうして刑事さん達に学校に来られてしまいますと……学校の評判ですとか、事件が事件なだけに来年の新入生の数にも影響が出てくるわけでして、何卒、急用でない限りはですね……」

隣に座っている三浦が息を吸い込むのがわかった。それでも大平はまだ喋ろうとしていた。

「わかりました。なるべく学校のほうへ伺うのは控えます。ですが、今後どうしてもお話を聞かなければいけない状況もでてくると思いますので、その時はよろしくお願い致します」

大平の言葉を遮るように喋った。大声を出そうと準備をしていた三浦も腰を降ろして聞いてくれていた。

魔力(3)終

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