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DMと君と。♯14

公園で相方とネタ合わせをする。
昨日、急に電話したせいかすこし
互いに漫才のテンポが合わない
確実に僕のせいだろう。

僕の中で何か変わったことがあったとはいえ
コンビとしての日々は何一つ変わらない
未来人という存在、おまけに娘という
衝撃的なシチュエーションを体感したとしても
僕の中で起きた小さな話だ。

相方はいつも同じところを間違える
何も変わらない、何も産まれない、何もない
それも大切な何かではある。

ただ僕には芸人として明確な目標ができた
僕にも携わってくれた人たち
これから携わってくれる人たちに自慢できる存在
そうなるために、日々変化の見えづらい
小さなコツコツを重ねていくことだ。

そう過去を変えたいなら今を重ねるしかないのだ。

相方と公園から劇場まで歩いていく
15分ほどで着く位置にあり
とくに会話はない。

「最近さぁ彼女が結婚したいってうるさいんよ」

聞いてもないのに話し出す相方

「だから売れるように…お前と頑張らなきゃな」

勝手に決意表明をされた。

少し肌寒く葉っぱが散る季節
まだ厚着は早かったと後悔をする。


劇場で衣装に着替えてるとき
スタッフさんがアナウンスする

「本日、お客さん10人以下です
    置きチケある方私に伝えてください。」

今日はお客さんが少ない日だ
本日の出演メンバー…自分を含め人気者はいない

出番はトップだ。

早めに舞台袖にいく
MCが盛り上げているが
跳ね返りが小さいお客さんは
増えなかったようだ。

暗転し音楽が流れ、舞台に照明がかかる。

「どーもーダアトマスターですお願いします」

「最近特殊能力を手に入れて困ってるんです」

「ウソつけ」

「お前は選ばれし者だって天から言われて」

「選ばれし者が伊達なんは勿体ないやろ」

「5年」

「は?何が」

「お前の寿命」

「何で分かるんだよ」

「これが俺の能力、寿命当て」

「バカじゃないのお前」

「あ、4年に縮みました今」

「何でだよ、おい」

「いた、後1年」

「お前に強く当たったら俺の寿命減ってない?」

「正解、寿命が半年伸びました」

その時、客席から笑い声が聞こえる。
聞いたことのある声だ。
あ、友美が見に来ている。
どうして急に、今日は一人で来てるのかな

ん、違う位置からも似た笑い声がする。


「……彩奈。」

もう元の世界戻ったんじゃないのか
その瞬間、頭が真っ白になる
彩奈と僕以外だれも知らない真実
今この場に立場は違えど家族が揃っている
なぁ友美、僕らの娘だよ。
なぁ彩奈、お前の母がここにいるよ。
なぁ父さん今、ややウケだよ。

「おい伊達、話聞いてんのか?」

相方が怒り混じりのツッコミを入れてくる。

もう、ネタのセリフが出てこない
ごめん相方…

「それと僕ね他の能力ありまして」

「は?」

「未来に向けてメッセージを送れるんです」

「お前…台本にないボケすんなよ」

「未来に向けてメッセージ送っていいですか?」

「良く分からないけど勝手にしろよ…」

「おーーい、最近何してるんだ」

「誰に言ってるんですかね?」

「お前の実家、流行りに乗じてタピオカ屋
    始めたけどタピオカブーム終わって潰れたな」

「俺の家の話やんけ、今でも頑張ってるわ」

「お前の家のタピオカ微妙やでーー」

「未来関係なくない?」

「おーい」

「次誰だよ」

「結婚おめでとう、お前の奥さん中央から
    4番目の歯抜けてるよなー」

「おい俺の彼女の悪口、過去から言うな」

「結婚おめでとう」

「結婚おめでとうじゃないんだよ」

「おーーいーー」

「もう俺の個人情報言うなよ」

「幸せにしてあげれなくてごめんなー
    お前はいつでも俺の理想の人で愛してる 
    それとお前も僕の宝物…直接……直接大切に…」

「何で急に泣くの?」

「大切にしてあげれないけど愛してるぞーーー」

「お、お前誰に言ったんだよ。」

「未来の奥さんと子供」

「いや、まず彼女作れや、もういいよ」

暗転し音楽が流れる。
相方は何もいわない、何も言えないのだろう。
今回は僕が100悪い。

友美からラインが入る

「今日のネタ良かったよ、また見に来るね」

SNSのDMは何も来ていない
フォロワーが一人減っている。

それ以来、アヤメンタルこと向井彩奈を
見ることはなくなった。
今思えばまるで現実とは思えない時間だった。

それでも僕は今日もどこかで劇場に立っている
そして僕を見て日々の鬱憤やストレスを
一瞬忘れてくれる人もいる。
そんな人の存在を知ることで僕は頑張れる。

人は足りないものを補う存在である。


スマホにDMの通知が来る
「今日初めてネタ見ました!最高でした!」

「ありがとうございます!また来てください!」

「分かりましたい焼き!」

(完)

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