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DMと君と。♯8

ジュ~という音で目が覚める
自分よりも早く起きて朝食を作っている元彼女
僕は見失ったパンツを探す。

「あ、起きたんだ。」
優しく笑いかける友美の顔を見ながら
付き合っていた時期を思い出す。

4年前に合コンで出会い
たまたま帰り道が途中まで一緒だったことから 
仲良くなり付き合うことになった。

とくに友美自体はお笑いが好きでなく
お笑い芸人と付き合いたいという感覚はなく
シンプルに僕の顔が好きだったらしい。
僕の劇場の出番はかかさず見てくれて
笑いが起きた日には少しいいビールを買ってくれる
楽しくて仕方なかった。

付き合って4年が経とうとするとき
友美は友人の結婚式に行った。
結婚式終わりに家で鍋をつついている時に
「結婚っていいなって思った!」と
満面の笑顔を見せてくる。

話半分でテレビを見てた僕は
曖昧な返事で返してみた。
友美はテレビの電源を切る。
「ねぇ、聞いて。」少し怒っている?

「私とお笑いどっちが大切?」

「ふっ、お笑い」

……泣き出す彼女。
テレビをつけなおす僕。

「ねぇもう別れよ私たち」

「あ、わかった。」

ここまで良くしてくれた彼女に対して
僕は何を意地になっていたのか
今では分からない。
しかし人を喜ばせることが仕事の僕は
目の前の人間を悲しませてしまったことは確かだ。

「何をぼーとしてんの?」

朝食を作り終わった友美が問いかける
以前より柔らかくなった表情を見て
嬉しくも悲しくもあった
もう一度やり直して、この人のために売れたい

「なぁ、友美…俺らやり直そう」

少し笑う彼女、顔が赤くなっている

「いつも優しくしてくれた夜の後は素直だね」

……。

「嬉しけどごめんね、私今付き合って人がいるの」

「結婚を前提に」

自分の決意と裏腹に
彼女はしっかりと前を進んでいた
僕が知らないところで
しっかりと変わっていたのだ。
別れた僕に彼女の現状と未来を知る権利はない。

「そ、そっかぁ、よかった、ね。」
朝食の味がしない、ショックなのか。
何故か頭の中では劇場でウケた時のネタが
流れている、拍手、歓声、照明の光。

「あ、今日ネタ合わせあるから食べたらいくわ」
ネタ合わせは今日ないがこの空間から抜けたい
食事を胃袋の中に入れ込み準備を終えた

玄関へと向かう二人
本当に他人になってしまう。
「今日、風強いから気をつけて」
もう気遣いなんてやめてくれ。悲しくなる。

靴に足を入れ込み
何を言えばいいか考える
「泊めてくれてありがとう」普通のこと言った

「こちらこそありがとう、じゃあまたね」

'また'ね、もう会うことはないと直感で思った。

強すぎる日差しをいっぱいに浴び
深呼吸をしてみた。
おもむろにスマホを開くと
DMが8件…鬱陶しいなぁ。

開いて見るとメッセージが

「こんばんワイン」
「今日はマルゲリータピッツァ!」
「忙しいのですか?」

「もしかして、女性とあってる?」
「多分、いいことはないよ」
「きっと傷つくから」

「ほら言ったじゃん」
「でも人生ってそういうものか」

こ、怖い。何事なんだ。
今の自分に降り掛かっている
状況に怯えながらコンビニで
ストロング系のチューハイを買う
少し自分を落ち着かせたい。

チューハイを口にした時
元彼女の友美のキスの味が
口全体に広がり、涙を流した。(つづく)

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