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DMと君と。♯7

「おーい、こんばんわたがしーー」

背中に聞き覚えのある声だ。
緩んだ表情筋を引き締めて後ろを向いた
「おつかれ、いつまで経っても終電帰りなんだな」

「私、バリバリのキャリアウーマンですから」

そこにいたのは4年間付き合っていた
元彼女の堀友美であった。
お笑いと私どっちが大切なのという質問に
お笑いと即答してしまったことが原因で
別れた彼女である。

「電車出発しまーす。」
駅員の声で自分の置かれてる状況を思い出す
階段を降りて、走ってホームへ…間に合わない

「終電逃した…」
悲しくもネカフェに
宿泊することが決まった僕。

友美が笑いながら言う
「まぁ終電無くしたのは私のせいだから
     良かったら元カノの家にでも泊まる?笑」

思ってもいない言葉に心が踊る
嬉しい、簡単な仕切りだけの個室で寝るのは
本当に苦手だから、そして友美のことは
今でも結構好きだ、嬉しい。

「じゃあ京王線のホーム行こ」
友美の家には何度も行ったことがある
むしろ暮らしてた時期もある
京王線の明大前駅から徒歩10分程度の場所に
友美の家はある。とてもいい匂いだ。

「先にお風呂入ってて」
この言葉が大好きだ、いつも先に風呂を
譲ってくれる、入ってる間に食事の準備をしてくれる
本当に最高の元彼女だと思う。

風呂場には僕の歯ブラシが置かれていた
この風呂場で友美の髪を洗ってあげたことを
思い出す。

風呂から出たとき
食事の準備が終わっていた
「てきとうに食べててお風呂入ってくる」
栄養士の免許を持つ友美の食事は毎回うまい
僕がお笑いより彼女を大切にしてあげれば
今でも平凡な幸せは続いているのだろう。

食事に箸をつけながら
テレビを見ていると彼女が風呂から出てくる
少し紅潮した頬、艷やかな髪、綺麗だ。

濡れた髪のまま缶チューハイを互いに開け
現状の自分達の話をする。
明日は休みだと友美は目を見つめてくる。
お笑いファンからDMが来てるという話をすると
あまり面白そうな顔をしない。

DMが2通来ているが今は見ない
アヤメンタルこと向井さんから来ていることは
確かであるが今は見たくない。

友美の目がトロンとしてきた。
眠たいのか伺うと、いつも眠くないという
この質問を3回くらいすると眠いと甘えてくる

「ねぇ一緒に寝よ。」
友美が元彼氏に覇気なく伝えてくる。

自分のものであった女と同じ布団で横になる
妙な緊張を抱えて僕らは寝床へ向かう。

DMがまた来ている。
この向井という女は何をそんなに報告したい
今は見ない、スマホを機内モードにして
僕は元彼女の肩を優しく抱き寄せ横になった。
(つづく)

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