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DMと君と。♯12

僕は頭の中が飽和状態になる。
目の前にいる人物が自分の
娘であるという驚愕の事実を知らされたからだ。

某番組の悪いドッキリじゃないか
いや、売れてない芸人にそんなことないか
コーヒーの味がしない。

思い当たるふしも無いわけではない
挨拶の語尾に飲食物をつける癖が
友美にはある、おはヨーグルト等

この向井彩奈のDMの語尾もそうだ。
そして何より声が似ている。
少しかすれた声…白い肌…

どことなく目の形が僕に似ている。

「あ、僕はその事実を知ってどうすればいい」

「パパはそれを知ってどうしたい?」

パパ…友美にとりあえず会いたい。
素直に会って話がしたい。

「パパが今、ママに会いたいと思ってるなら
    それはセンスないよ、幸せになれない」

心を読まれてるのかと思った。
だがこの子が存在してたことさえ
知らずお笑いをやってる未来の僕。
確かに会う資格ないのかもしれない。

「パパがママのとこ行ったらどうする?」

どうする?頭が追いつかない。

「パパはどうせ結婚するよう動くよ」

結婚…今の俺が。

「でもママがお腹の赤ちゃんのことを伝えないから
    パパは将来芸人として大成するんだよ」

……俺は売れるのか、嬉しいような複雑な。

「ママはお笑いしてるパパが好きだと思う。」

「俺はどうすればいいんだ。」

「今まで通り頑張れば」

「頑張ればって」

「私だって血の繋がったパパに育ててもらいたい
   でも育ててくれたパパも大好き。」

「……。」

幸せって何なんだろう。
自分の家族を守り生活を営むこと?
一度きりの人生を楽しむこと?

「私が未来から来たのはママとやり直してって
   ことじゃなくて、ただママは死に際でもパパの
   こと大切に思っていたってこと。」

涙目になる娘の顔を見て
自分の事のように胸が痛くなる。
これが父性というものなのか。

「私、もうこれを伝えたら元の世界に戻るね」

そうか娘とこうやって顔を合わせるのは
人生で最後なんだよな。
本来であれば何も知らないまま僕の平凡は続く。

店を出て二人で立ち尽くす。

「じゃあ私行くね。」

「こんなとき何て言えばいいか分からない」

「いいよ、パパは今を頑張って」

僕は娘を抱きしめた。

「ち、ちょっといきなり何?やめて」

これは自分の一部なんだ
友美と僕の一部が全部なんだ。
涙が止まらない、彩奈も泣いている。

「ちょっとお兄さんやめましょう」

覆面警官の人から止められる。
「あ、娘なんです」

警官から笑われる
何歳に子づくりしたんだお前というような。
職質を受ける。それどころじゃない。

職質が15分ほどで終わり
気付くと彩奈がいない…どこ。

DMが届いている。

「時間だから私行くね。
    元の世界で画面越しに応援してるよ。
    さよなラーメン🍜」

駅へと向かう、今日は人が多い
今日は誰かと一緒にいたい独りは辛い。

相方からラインが届く
「明日13時ネタ合わせ新宿公園」

自分の相方がとんでも体験したことなんて
知らない相方はきっと今彼女とラブラブしてる
幸せなやつだ。

新宿駅は明るすぎる
涙で目が晴れた僕には
光が目にしみて頭痛がしてくる。

小田急線へと向かう
大きな連絡通路を歩きながら
自分のこれからを考える。

黒いスーツたちが急ぎ歩きでホームへ向かう
その中に見覚えのある女性がいる。
声帯が人生で一番広がる。


「友美ぃぃいいいーー」(つづく)

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