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「日の名残り」(カズオ・イシグロ)読みました

積ん読してた「日の名残り」(カズオ・イシグロ)読みました。すっごくよかった!
と、感動が深かったのは、私が「ダウントン・アビー」ファンなのが大きい。全世界の「ダウントン・アビー」好きにお勧めしたい1冊です。主人公に「ダウントン・アビー」の執事カーソン…杓子定規で融通が利かない…を重ねて読んでしまうかと。英国執事のプライドがどういうものだったかを、納得の形で読ませてくれます。
主人公スティーブンスは、ダーリントンホール(屋敷名)に長年勤める執事。現在の雇い主の勧めと許しを得て、数日のドライブに出かけます。ときは1956年7月。
ドライブ中6日間に、スティーブンスに去来する思いが一人称で綴られていきます。そして、(あの)カーソンさんを上回る堅物だったのは間違いない!と確信できる。
でも…自分と“近い”人間であるとも感じてきます。
国も時代も境遇もまーったく違うのに、スティーブンスに、どんどん親近感をいだいてくるのです。これが、名作の“筆力”というものなのでしょうね。
スティーブンスが思い返すのは、第一次大戦後のお屋敷の様子あれこれ。敬愛していたかつての雇い主、ダーリントン卿にまつわる思い出の数々。揺れ動く国際情勢の中、政治に強く関わっていたダーリントン卿。重要な会議、秘密の来客…緊迫した雰囲気、スティーブンスの緊張が伝わってきて、どきどき。政治とは関係ないけど、ダーリントン卿からスティーブンスへの無茶なお願い事…あれは結局どうなったんだ?
女中頭との言い争いには歯がゆくなったりもして。執事生活がスティーブンスの人生そのものだったんだな、と察せられます。
どんなときもスティーブンスは、けっして深入りはしない。それが、執事たるものの品格と考え続けてきた。その確固たる職業的姿勢が、人付き合い含む生活全般に強い影響を与え、スティーブンスの人格をも形成してきたのです。
そういう感覚、よく理解できます。本人は気づかなくても、他人から見ると、職業がつくる人の性質というのがあるものだから。たぶん自分もそう。
仕事に対する考え方ややり方が、時代と共に変わらざるを得ないのはどんな仕事でも同じ。スティーブンスは、“古き良き時代”を懐かしみつつも、自分の言動を省みて切ない気分になっていく。
まさに「日の名残り」。そして、それは悲しむべきことではないことが最後に示唆されます。かつての華やかな英国が落日のときを迎えているとしても、それもまた美しい時間なのだから。小説全体に、“品格”が滲み出ている、とても美しい小説でした。

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