見出し画像

「コイコワレ」(乾ルカ)読みました

面白かった~いろんな要素があって、深い余韻が残るお話でした。
乾ルカさんのテイスト…暗いファンタジー感…がたっぷりではあるけれど、爽やかさも感じられる。少女の成長物語であり庶民から見た戦争物語でもあります。
って、乾ルカさんについて語れるほど著作を読んでいないのですが、数冊読んだ中では今のところこれが一番好きです。
人と争うことについて、様々に考えてしまう。国単位でも、自分と周りの人の1対1の関係についても。
なぜ、人は争うのか。本能的で避けられないものだとしても、決定的な戦争にしない方法はきっとある。そして、それは、個人の自制にかかっている。
“嫌いだという感情をぶつけるのは、お腹が空いたからと泣く赤ん坊と同じ、憎しみを抱いても争わないでいることはできるはず”という、清子のお母さんの言葉に耳が痛くなりました。
主人公は、太平洋戦争時に集団疎開した清子と、清子たちが宿泊する寺に住む孤児のリツ。二人の心模様と行動が描かれていきます。二人の友情物語か?というと、実際はまったくの逆。今後どうなっていくのかと、ぐんぐん興味が惹きつけられます。
カタツムリの渦巻きが持つ怪しい霊力、をフックにして、人の真心が持つ力強さが語られていく物語とも感じました。
私が、この小説の一番素晴らしいなと思う点は、戦争の時代を生きる人々のことが繊細に描かれていること。
後世から見てどんなにその時代の酷さが語られようが、そのときには多様な人が…優しい人も意地悪な人も…いて、それぞれが精一杯幸せを求め生きていた。いつの世も変わらない人間の性(さが)が、丁寧に表現されています。
集団疎開の子供たちがどんなに寂しかったろう不安だったろうということも、深く伝わってくる…昔漫画で読んだ、巴里夫さんの漫画を思い出しましたよ。
どんな状況であっても子供は成長する。庇護されて育つ子供から自立した大人へと。そして、人の心は変われるし、本人の意志で変えていくこともできるのです。
10代の子供たちに超オススメしたい1冊。取り巻く社会情勢は違えど、共感できる部分が多々あるはず。とっくに大人の私でさえ、心に響いてきました。
優しい大人たちの言葉と態度がすてきです。集団疎開先のお寺のおばあさんとかね。
清子とリツは、きっと幸せな人生を築いていったはず。そう、信じます。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?