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ストーリーで酒を飲む

まずは自分のことを話したい。
20歳になってお酒を飲めるようになってからというもの、家では基本的に一切お酒を飲まない。基本的には、ただの一滴もだ。

お酒が嫌いなわけじゃない。お酒での失敗は数あるけれど、別にそれが影響しているわけでもない。タバコなどと同じ嗜好品のように感じていて、興味や習慣が薄かったり無かったりするから、そもそもあまり飲もうと思わないのだ。

家にお酒はある。食器棚には飲みかけの杏露酒にウイスキー、リビングの床にはなぜか山形の地酒。冷蔵庫には350ml缶のビールが冷やしてある。冷蔵庫のわきには、6缶セットのビールが既にスタンバイしているくらいだ。
むしろ他の家と比べて量は多いんじゃないかと思っている。それでも自分は一滴も飲まない。酒好きの親が飲むのだ。

そんな自分がまさに昨日、自分のためにビールを買い、家でビールを飲む。何年に一度あるか無いか、本人ですら若干驚くくらいの経験をした。

きっかけは、牧野圭太さんのツイートだ。

買ったのは、まさにツイートにもある『サッポロ 開拓使麦酒仕立て』。
パッケージにスペルミスがあったことが発覚し、一度発売中止を決めたビールだ。
当時、追ってねとらぼの記事も読んでみたが、確かにパッケージの中央左側、「LAGER」の字が、「LAGAR」になっている。

発売中止を決めたことに、潔さと言うか、(言い方が正しいか分からないが)酒販メーカーとしての意識の高さを感じた。が、率直に強く思ったのは、牧野さんの言う通り「もったいない」の方だった。
販売上の成分表示等には問題なく中身も良いものなら、このスペルミスが発覚した今、逆に手に取りそうだな。というのが、自分の意見だ。

後日、発売中止は取り消され、2月に発売されることが決定した。
既に製造されたビールはどうなるのかを心配する声や、発売を求める声が多く寄せられたことが要因とのこと。自分の些細な意見も含め、発売を希望する多くの声が、こんな結果を招くこともあるのだと、ちょっと感激だった。

発売までにはいろいろな経緯があったようだが、

ついに2月2日、この『サッポロ 開拓使麦酒仕立て』が発売。
「スペルは間違えたけど、味は間違いなし!」、発売された今となっては、逆手にとって開き直ったポップが、若干心地良いくらいだ。

発売を知ったのは早かったにも関わらず、発売日にはそれをド忘れしていた自分は昨日、コンビニをはしごしていた。

無い。
無い・・・無い・・・
酒が・・・・・・無い!!!

内心こんな気持ちでファミリーマートの中を歩き回っていたのだが、大丈夫。自分は大酒飲みでもなければ、酒に溺れてもいない。繰り返して言うが、基本的に家では一滴もお酒を飲まない。

いざ買おうと思ってファミリーマートに足を運んだのだが、1店舗目ではそもそもお酒の棚に置いている素振りすら見られない。
気を取り直して2店舗目に行くと、陳列棚に商品のポップは見られたが、見事に売り切れ。350ml缶・500ml缶を置いているであろうどちらの棚も、はっきりと棚の一番奥までクリアに見通せた。
まぁ話題の商品だから、しょうがないよな・・・・・・発売してすぐだし、売り切れるってこともある。棚の前で数秒そんなことを考えていると、そんな自分を不思議そうに見てくるお客さん。
気にしないで、大丈夫。自分は大酒飲みでもなければ(略)

さぁ、ここで3店舗目に行くか、諦めて帰るか。歩きながら考えて、3店舗目に行き、ここでなかったら今日は諦めようと決めた。
最後のファミリーマートに向かう道中、テイクアウト専門のから揚げ屋に出くわす。うわー・・・・・・絶対ビールに合うんだろうなー。ビール買えたら、奮発してから揚げも買っちゃおうかなー。そんなことを考えながら、既にビールとから揚げの口で、3店舗目に入店。

お酒の棚を探すと・・・・・・ある!めっちゃある!350ml缶も500ml缶も、棚の奥まで見事に並んでいる。
テンションが上がった自分は、350ml缶を2つ購入。買えたことに満足しすぎて、帰りにから揚げを買うことなんてすっかり忘れていた。

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帰宅して改めてパッケージを確認。「LAGER」の文字は・・・・・・

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うん、「A」だな。間違いなく間違ってる。これを自分の目で確認したくて、買ったんだよな。目的を達成して満足したとともに、同じような思いで買った人も少なくないんだろうなと感じていた。

そのまま実際に飲んでみたが、久々のビールですぐに気持ちよくなってしまった。お酒に詳しいわけではないので、味はしっかりと表現できないが、美味しい。そして飲み会などの場で普段飲むようなビールより、ちょっと濃い感じがするのかな?
家にあった、残り物の鶏ももの焼いたものと、ポテトをつまみにゆっくりと、でも1缶全部飲み干してしまった。

もう1缶は、酒好きの親にあげた。普段お酒を買って帰ってくるなんてまず無いことなので、「もらい物」と言って。若干恥ずかしかったけど、コミュニケーションのきっかけにもなって良かったよ。

自分が家でお酒を飲むのって、どんな時があったかなと考えた。その経験自体が少ないけれど、頂き物のお酒は、家でしっかりと大事に飲んでいた。
ある職場の契約を終えたときに、良くしてもらった方から頂いたスコッチウイスキー。グレンディフィックの12年だ、今も覚えている。
その方は業務で直接関わることは少なかったのに、よくご飯を一緒に食べたりと、本当によく接してくれる方だった。そんな方がくれたお酒だから、アルコール度数が高くて(40度)驚いたけれど、ゆっくり大事に飲んだ。

今回の『サッポロ 開拓使麦酒仕立て』は全然経緯が違うけれど、一連の経緯が分かったからこそ、珍しく自分で買って飲んだのだと思う。
発売されて気づいたケースもあっただろうけど、それだと買わなかったかもしれない。考えてみれば、スペルミスがあの箇所だったから発売も出来たわけで。成分表示等の記載ミスであれば、そのまま発売は出来なかったんじゃないだろうか。

きっとスペルミスが見つかった当時、メーカー側は想像もつかない程、絶望に近い気持ちがあったと思う。売り出そうと思った製品を、製造をほぼ済ませた段階でミスに気づき、発売しないという決断まで下す。会社の業績にも大きく響くし、製造に関わった人たちは相当肝を冷やしたに違いない。
ただそれに気づいた段階で、(その時には)最適だと思う判断を下し、潔く発表したからこそ、今回の発売まで漕ぎ着けた。
その一連のストーリーに、自分は購買意欲をかき立てられたのだ。

新商品が出ても、珍しい味が発売されても、お酒にほとんど見向きもしなかった自分。
でも、お酒にストーリーがあれば、そのストーリーに惹かれれば、そんな自分もお酒を買って家で飲むのだ。

多分、飲み会などでお酒を飲むのも、近いような理由があると思う。お酒を飲みたいから行くというよりは、その場でコミュニケーションを取りたい・楽しみたい方が、自分の中では優先される。
最悪、コミュニケーションが取れるのなら多分お酒はいらない。ティーパーティでも中華でメシ会でもいいはず。でもお酒があれば話は弾むし、コミュニケーションの場は盛り上がる。だから飲み会ではお酒を飲むのだ。


今回のことを通して、多分自分はお酒そのものの味などが一番じゃない。ストーリーでお酒を飲む。お酒との向き合い方みたいなものを、改めて知ることが出来た。

一歩間違えたらと考えると、スペルミスがあったということを全くの美談にするつもりは無いけれど、本当に販売されて良かったと思う。
普段お酒を飲まない自分にとっては、ストーリーを感じられるお酒が出てくると、もっと家で飲む機会が増えるかもしれない。(自分がストーリーに目を向けられていないものも、いっぱいあると思うけど)

今後もお酒を飲むペースは変わらないのだけれど。
ストーリーが見えてくるお酒が、もっと自分のもとにやって来ることを、少し期待している。

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