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春待つ人

数々のライブやイベントが中止・延期となっている今、アーティストやその活動を支える方々が負っている負担は計り知れない。そのことを思うと、あまり楽観的なことを軽々しく口にはできない。だけど、ここ数日で何組かのアーティストの「配信ライブ」を観ながら、私はずっと希望に似た何かを感じていた。音楽の持つ不思議な力を目の当たりにして、心底「音楽があって本当に良かった」と思った。
今日はそんな音楽の力について、少し書いてみたいと思う。

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視聴者の数を示す数字がどんどんカウントアップされていく。当初予定されていたライブとは違う形で開催が決まった「無観客ライブ」や「配信ライブ」の"会場"に、音楽を求めて、人々が集まってくる。
普段のライブ前とも少し違った独特の高揚感に、画面の前で私はひとりソワソワする。世界の何処かで同じように"開演"を待っている人が居るのだろうな、なんて想像してみたりしながら、炭酸ジュースとポテトチップスを側に用意して、その時を今か今かと待っていた。

画面にアーティストが登場すると、動画配信サービスのコメント欄やTwitterなどのSNSには"歓声"や"拍手"が鳴り響いた。
各々が本来のライブが中止となったことを残念に思う気持ちを持ちながらも、目の前のアーティストの"初の試み"に、緊張と興奮が混ざり合い、今から始まる特別な音楽の時間に向けて、自然と気持ちが高ぶっていく。

そして、いざ演奏が始まってみると、これが、想像していた以上に楽しい。
コメント欄やSNSにはリアルタイムで、「最高!」「この曲大好き!」「癒される」「今画面の前で踊ってる」「元気出た」「配信してくれてありがとう」など、歓喜や感謝の声が飛び交う。中には、曲と曲の間のMC中にそうしたオーディエンスの投稿に目を通しながら喋るアーティストもいて、普段のライブでは生まれないコミュニケーションが新鮮でワクワクしながら、アーティストとオーディエンスの心が徐々に近づいていくのを感じた。

更に、時折起こる現象としてコメント欄上でのシンガロングも面白い。それぞれ離れた場所に居ながらも、一つの音楽を中心にこんな風に人は繋がり熱くなれるものなのかと、音楽の持つ底力を垣間見た気がした。

ライブの間、画面は間違いなく一つの"場"として機能していた。全世界をリアルタイムで結ぶその"空間"は、「熱気」としか言いようのない大きなエネルギーと、アーティストや音楽そのものに対する愛で溢れていた。

勿論、普段のリアルな空間でのライブと比べたら、音響や臨場感、熱気など、どれも大きな差があるだろう。
それでも、どうやら人には、どんな条件の下でも楽しみを見つける力、可能な限り今を楽しむ能力が備わっているらしい。私はいつの間にか目の前の「配信ライブ」に夢中になっていて、これはこれで特別で素敵な音楽体験だと思いながら「あぁ、音楽って最高だー…」と画面の前でしみじみ呟いていた。

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とある"会場"には、気づけば5万人を超えるオーディエンスが集まっていた。東京ドーム1個分を埋める程の数だ。

それ程多くの人が、音楽を求めている。

音楽は、人を癒す。元気付ける。幸せにする。

これは理想論でも夢物語でもなくて、ここ数日の幾つもの"ライブ"が確かに証明してくれている事実だ。

アーティスト側はそれなりの追加コストをかけてでも「配信ライブ」を実現し、私たちに無償で音楽を届けてくれた。そういうアーティストに感謝の気持ちを返すために、一人の音楽好きとして、今の自分に何ができるだろう、ということを考えずには居られない。

例えば、好きなアーティストが投げ銭システムでも用意してくれたなら、喜んで支援したいと思っている。
けれど色々考えてみても、結局、今すぐに自分一人の力で出来ることは限られている、というところに考えは行き着く。

だから今は、どんなに平凡で地道なことだとしても、大好きな音楽をサブスクを駆使して沢山聴いて過ごそうと思う。

そして、イイと思う音楽は、人に勧めたい。
自分自身も新しい音楽にもオープンな気持ちで居たい。

そんな風にして音楽の輪を広げながら、春を待とうと思います。

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ということで最後に、ここに私のお気に入りの一曲を、そっと置いておきます。春の花咲き誇る景色が見えてくるような一曲です。

●初花凜々/SINGER SONGER

今続いているこの状況が1日でも早く収束しますように。出来る限りの手洗いうがい等の予防を徹底しつつ、皆さまどうかご自愛ください。

Kei

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