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令和の中学校月報⑤発達障害非行の取り組みの明暗 少年院までの過程

割引あり

はじめに

中学校、警察、家庭裁判所が連携して非行に対処する中で、適切な理解や支援が提供されるかどうかが、非行の再発や更生において決定的な役割を果たします。この記事では、二人のケースを通じて、どのように対応の違いが彼らの人生に影響を与えたかを探ります。一人は支援を受け、更生の道を歩むことができた一方で、もう一人は適切なサポートを得られず、悪循環に陥ってしまいました。これらの事例から、発達障害を持つ非行少年に対する社会や学校、家庭の役割について考えます。


1.非行に対する中学校・警察・家庭裁判所のつながり

1-1 中学校の役割

初期対応と教育的指導: 中学校は、日常的に生徒を観察し、問題行動や非行が発生した場合に最初に対応します。教師や生徒指導担当が、生徒の行動について指導し、必要に応じて保護者と連絡を取り、改善策を講じます。

警察への通報: 非行が学校内の指導で解決できない場合や、犯罪行為が疑われる場合には、警察に通報する義務があります。

再発防止: 学校は、警察や家庭裁判所の介入後も、生徒の行動改善や更生を支援するために、教育的なアプローチを継続します。

1-2 警察の役割

犯罪の捜査と取り締まり: 警察は、学校から通報を受けた場合や独自に犯罪行為を発見した場合、未成年者の非行について捜査を行います。証拠を集め、必要に応じて未成年者を逮捕したり、取り調べを行います。

家庭裁判所への送致: 警察は、未成年者が犯罪行為を行った場合、捜査結果を基に家庭裁判所に事件を送致します。これは、警察が直接処分を下すのではなく、家庭裁判所での審判を求めるためです。

1-3 家庭裁判所の役割

審判と処分: 家庭裁判所は、警察から送致された未成年者の事件について審判を行います。未成年者が非行に及んだ背景や状況を総合的に判断し、適切な処分を決定します。これには、保護観察、児童自立支援施設への入所、少年院送致などが含まれます。

更生支援: 家庭裁判所は、再発防止のために未成年者に対して教育的、福祉的な支援を提供し、更生を促します。

1-4つながりと連携

情報共有

・中学校は、非行が発覚した場合や警察に通報した場合、その後の経過を警察や家庭裁判所と共有することがあります。これにより、未成年者に対する適切な対応が可能になります。

連携した支援

・中学校、警察、家庭裁判所は、各自の役割を果たしつつ、連携して生徒の更生を支援します。特に再発防止や社会復帰に向けた指導が重要となります。

地域の協力: 地域社会や教育委員会も、これらの機関と連携して、非行防止や未成年者の健全な育成に努めることが求められます。

このように、中学校、警察、家庭裁判所はそれぞれの役割を持ちながらも、未成年者の非行に対して協力し、包括的な対応を行うことが重要です。

2.少年院の発達障害を持つ生徒

発達障害の中学生が少年院に送致される場合、発達障害の特性が非行や行動に影響を与えていることが考えられます。以下に、発達障害を持つ少年が少年院に送致される場合の特徴や、どのような問題が現れるかについて説明します。

1. 行動や感情のコントロールが難しい

•発達障害の特性として、衝動的な行動や感情のコントロールが難しい場合があります。このため、突発的な問題行動や暴力行為に発展することがあるかもしれません。

2. 社会的ルールや規範の理解が不十分

•発達障害を持つ少年は、社会的なルールや規範を理解しづらいことがあります。その結果、無意識に違反行為を繰り返してしまうことがあります。

3. コミュニケーションの困難

•発達障害によって、他者とのコミュニケーションがうまく取れず、誤解や対立が生じやすくなります。これが原因でトラブルがエスカレートすることがあります。

4. ストレスや環境の変化に対する過敏さ

•環境の変化や予測できない事態に対して、過敏に反応することがあります。少年院での生活は、規律や環境が大きく変わるため、適応に苦労する可能性があります。

5. 自己評価の低さや不安感

•発達障害を持つ少年は、自己評価が低くなりがちで、自己肯定感が乏しいことがあります。これが、さらに問題行動を助長する原因となることもあります。

6. 適切な支援が不足している可能性

•発達障害を理解した上での支援がない場合、少年は自分の行動をうまく調整できず、結果として問題行動が増え、少年院送致の判断がされることがあります。

7. 更生プログラムの適応

•少年院内での更生プログラムが、発達障害に適応したものかどうかが重要です。発達障害に対応した支援が行われることで、少年の適応や更生が促進される可能性があります。

8. 重度な場合は特別な対応が必要

•発達障害の程度が重度である場合、通常の少年院のプログラムが適応しにくいことがあり、特別なケアや教育が必要となることがあります。

藤川洋子氏「非行と広汎性発達障害」参照

3.事例:保護観察から試験観察、少年院へ行ったS君

3-1 入学前

S君は、小学校6年生の時に、I君と二人でライターを使い公園の遊具のロープに火をつけて警察に補導されました。寒かったので衝動的に火をつけたということです。この件はテレビニュースでも報道され、この遊具はしばらく使用不能になりました。突発的な衝動で動いたと考えられます。

3-2 喫煙登校

中学校に入学当初は、服装や髪型は違反をするようなこともなく登校をしていました。1カ月を過ぎたあたりでS君、I君、U君の3人が堂々と喫煙をしながら登校していることが学校に地域から通報がありました。すぐに呼んで尋ねると、悪気もなく喫煙を認めます。

3-3 違和感を覚えたところ

指導の中で、S君は「自己責任で、誰にも迷惑かけていないからいいんじゃないか」と言います。反抗的な態度もさしてなく「吸いたいから吸った。人からどう見られるのかとか関係ないし知ろうとも思わない」という態度です。周囲の目や法律など全く関係ないという、どこでも好きな時に好きなことをする態度に違和感を覚えました。

3-4 家宅侵入

今度は、帰りにマンションの樋をつたってのぼり
2Fの空き部屋のベランダに侵入して喫煙をしていました。通行人から警察への通報で発覚しました。警察からも保護者ともども指導がありました。反抗的な態度や穏やかな言動なので厳しくといった感じではなかったようです。保護者も「家庭でも注意はしているのですけどねー」という感じです。

これまでの喫煙指導では、非行傾向にある生徒は、どこか反抗的であったり投げやりな態度だったりが見られました。S君はそのような態度がなく、むしろ穏やかな態度で話を聞きます。その態度から、年齢相応な社会的なルールや規範の理解がないのだと思うようになりました。

3-5 教室、授業の様子

I君、S君とも、授業の内容は全く理解できません。授業中は落ち着かず、周囲としゃべったり立ち歩いたりします。注意をしてもなかなか止まることはありませんでした。

ひどいときは、他の職員に来てもらい、別室でクールダウンをさせることがありました。これまでの生徒指導では、うそをつくことはあまりなく、自分の非は認めます。これは、正直というよりは、嘘をつきとおす能力がないのだと思います。このようなことから、二人とも何らかの特徴を持っていると確信するようになりました。

3-6 受診の勧め

1年生1学期の保護者会のあと、個別に病院での診断を勧めました。教師は受診をすすめることは「いけないこと」ではないのですが、慎重にあるべきというルールがあります。保護者から相談があれば、勧めるというスタンスです。

今回は、支援学級の教師から聞いていた「このようなことがあったら、受診しよう」というリーフレットを提示しながら相談しました。保護者はほぼ該当するというので、保護者に受診を勧めました。話を聞くと、S君もI君も、すでに小学校で発達障害の受診を遠回しに勧められたということでした。

3-7 未受診のS君と受診したI君

S君は、本人が拒み受信しませんでした。しばらくして自宅にもどりましたが、受診前日の夜に家を抜け出して行方不明になりました。一方、I君は受診をしてADHDの診断を受けました。それに伴って病院でのカウンセリングと投薬をすることが決まりました。

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