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令和の中学校月報⑧伝統的体育大会から「達成感・充実感」を重視した取り組みに。


はじめに

体育大会は、これまで多くの学校で勝敗を競う場として位置づけられてきました。しかし、現代の教育においては、ただ勝つことよりも、生徒一人ひとりが達成感や充実感を得られることがより重要視されています。この達成感は、努力の過程や仲間との協力を通じて得られるものであり、勝敗だけに焦点を当てる従来のやり方から、学級全体の一体感や生徒個々の成長を促す機会として再考する必要があります。

この記事では、体育大会を通じて、生徒たちが主体的に学び、協力しながら成長できる新しいアプローチについて考察します。また、教師や保護者がどのようにしてこの成長をサポートできるかについても提案します。生徒たちが競技を通じて得る達成感や自己肯定感が、今後の学校生活や社会においてどのように役立つかを一緒に考えていきましょう。


1.文科省中学校指導要領による体育大会の位置づけ

中学校学習指導要領による体育大会の目的は、主に次のような点に焦点を当てています。

1.体力・運動能力の向上

体育大会を通じて、生徒の体力や運動能力を高め、健康的な成長を促進します。さまざまな競技や活動を通じて、体を動かす楽しさや運動の重要性を学びます。

2.協力や団結の精神の育成

体育大会ではチームプレイやクラス全体での取り組みが重視されるため、他者と協力し、団結して目標を達成する経験を通じて、協調性や連帯感を養います。

3.自己肯定感の向上

体育大会を通じて、生徒は目標を達成する達成感や、努力を重ねることの大切さを学び、自己肯定感を高めます。勝ち負けだけでなく、個々の成長やチャレンジする姿勢が重視されます。

4.健全な精神の涵養

体育を通じて、規律を守り、公正な態度を持って競技に臨むことが求められます。フェアプレイの精神や、他者への敬意を持つ姿勢が育まれます。

5.学校全体としての一体感の醸成

体育大会は、学校全体での大規模なイベントであるため、生徒同士の交流を深め、学校全体の一体感や連帯感を強化します。

これらの目的は、生徒の心身の成長を支援し、社会性や協調性を育むために重要とされています。

2、従来の体育大会の課題

2-1 勝敗が強調されすぎると

従来の伝統的な勝敗にこだわる体育大会は、多くの生徒にとってもはとても盛り上がる行事です。日頃の学校生活では目立たない生徒が活躍することもあります。しかし、クラスで「勝つぞー」となればプレッシャーを感じる生徒も増えてきました。とくに集団競技の大縄跳びやムカデ競争が入ると、「自分のせいで勝てない」と思って欠席を続ける生徒も出てきます。

また、勝敗にこだわることは、競技に向けての推進力になります。一方で、「勝たないと意味がない」というように、勝敗にこだわりすぎると、体育大会が終わった後、勝った方も負けた方も祭りの後のようにしらけた雰囲気になります。その後の体育大会での学びが薄くなる印象があります。これでは、せっかくの生徒の成長の機会なのにもったいない気がします。

2-2 特定の運動能力に依存することがある、

従来の勝敗を強調された学校の体育大会では、陸上競技など特定の運動能力に依存する競技が多いことがあります。そのため競技に勝てなかった時など劣等感を持つ場合があります。その反対に、日頃目立たないけど、特定の運動能力で華々しい活躍をする生徒もいます。

2-3 多様性の不足

今は、オリンピック・パラリンピックでも競技が増えていることから見ると、中学校の体育大会は、多様性の配慮という点では不足しているようになりました。教育改革の流れからも、多くの生徒が、活躍できる機会が求められています。

3.達成感・充実感を重視する体育大会の意義

中学校の体育大会において、従来の体育大会より生徒の達成感や充実感を重視することで、より多くの生徒に、次のような生徒の成長が期待できます。

1.自己効力感の向上

生徒が目標に向かって努力し、それを達成する過程で、自分自身の力を信じる「自己効力感」が高まります。これは学業や他の活動にもポジティブな影響を与える可能性があります。

2.自己肯定感の向上

成果に対する達成感を味わうことで、自己肯定感が育まれます。体育大会における充実した経験は、「自分もできる」「仲間と共にやり遂げた」という感覚を強化します。

3.協力の大切さの理解

体育大会では、個人の努力だけでなく、仲間との協力が重要です。チームとして共に成果を達成する経験を通じて、生徒は「協力することの価値」を学びます。

4.粘り強さの習得

競技やリレーなどで予期しない困難に直面することがありますが、その場での粘り強さや挑戦する姿勢が身につくことで、他の困難な場面でも前向きに取り組めるようになります。

5.充実感からのモチベーション維持

体育大会で得られる充実感が、生徒にさらなる挑戦意欲を与えます。これは学校生活全体に広がり、学業や部活動など、他の領域でのモチベーション向上にもつながるでしょう。

6.人間関係の強化

クラスや学年の仲間と共に目標に向かって取り組むことで、連帯感が強まり、人間関係がより深まります。これにより学校生活全般が充実し、集団での一体感が得られます。

これらの成長が、生徒にとって中学校生活全体を豊かにし、卒業後の社会生活にも影響を与える基盤となります。

4.実際の取り組み方と具体例

従来の体育大会でも取り組みはあったと思いますが、強調するという意味でも参照にされてください。

・すべての生徒が「勝った負けた」の目標ではなく、「バトンをつなげた」「最後までやり抜いた」「協力した」など、勝敗以外の個人目標を設定する。

・協力型の競技の導入をする。全員リレーや大繩飛び、ムカデ競技など。(ムカデ競技についての話が、中学1年生の道徳の教科書にあります)

・競技以外の大会運営や応援にも役割と責任を持てるようにする。そこでの教師からのフィードバックは、生徒のモチベーションや達成感が高まります。

・振り返りの場を設ける。学年集会や学年通信を通じて、生徒が感じたことや学んだことを共有します。

5.各学年での達成感・充実感の感じ方

中学校の3年間を通じて、生徒が達成感や充実感を味わう方法やその感じ方には、一般的に以下のように言われています。

5-1 中学1年生

新しい環境での小さな成功体験: 中学校に入学したばかりの生徒は、環境の変化や新しい友人関係に適応すること自体が挑戦となります。この時期の達成感は、授業に慣れたり、部活動に参加したりする中で、比較的短期的な目標を達成した際に感じられます。例として、授業で初めて高い評価を得たり、部活動で簡単な技術を習得したりすることが挙げられます。

他者からの承認が大きな役割: 自己評価が未成熟なため、教師や親、友人などからの褒め言葉や承認が大きな影響を与え、達成感や充実感につながりやすいです。

5-2 中学2年生

挑戦的な目標への取り組み: 中2になると、自己認識が進み、自分の強みや弱みを理解し始めます。この時期には、学業や部活動で少し難しい目標に挑戦することにより、達成感を得ることが多くなります。たとえば、学年全体での発表や、長期間にわたるチームでのプロジェクトなどが達成感の源になることがあります。

仲間との共感や協力: 仲間との関係が深まる時期でもあるため、チームでの成功や協力し合って目標を達成する経験が、個々の達成感に強く影響します。たとえば、体育祭や文化祭などでクラス全体で何かを成し遂げた時に、大きな充実感を得ることができます。

自己探求の中での充実感: また、自己アイデンティティの確立が進む中で、自分自身の内面的な成長や自己表現の機会を通じて、充実感を味わうようになります。これは、単なる外的な成果だけでなく、内的な成長や自己の理解が進むことでも満足感を得られるようになることを示しています。

5-3 中学3年生

長期的な成果への満足感: 中3では、より長期的かつ高難度の目標に取り組むことができ、その達成に対して深い達成感を得られるようになります。たとえば、高校受験に向けた勉強や、部活動での大きな大会での成果などがこの時期の重要な達成感の源となります。

自己成長への認識: また、この時期には自己成長を自覚する力が強まり、自分がどれだけ成長したかを振り返ることで深い充実感を得ます。中学生活全体を通しての成長を実感し、達成感を感じることが増えてきます。

内面的な充実感: 他者からの評価に依存するだけでなく、自分自身で努力を認識し、自己評価によって充実感を味わう傾向が強くなります。内面的な満足感や目標に向けた努力そのものを楽しむ力が高まります。

中学校生活を通じて、生徒たちの達成感や充実感の感じ方は、外部からの承認に頼る段階から、自己成長や仲間との協力を通じた充実感、さらには自分自身の努力や長期的な成果に対する内的な満足感へと移行していきます。この変化に合わせて、教師や親が適切なサポートを提供することが重要となります。

6.事例 3年生の取り組み

6-1  学年当初の取り組み

中学3年生が、上記のように、自己成長や内面的な成長を願うということを踏まえて、年度当初から環境つくりを始めました。生徒のなかには、チャレンジしていくことに「無理」「やっても無駄」ということを言う生徒がいます。このような言動がでると、集団が一つになることを阻害することもあるので、自己成長や内面的な成長を促すことに重点を置きました。自分の可能性を広げるために、3年生には、自分自身だけのことにとどまらず、他者のことやできることにも目を向けられるようにしました。

3年4月学年通信2号より抜粋

具体的には、「自分にできること」を見つけて増やし、教師がフィードバックを与えていき強化していきました。個人的には、「傾聴+オープンクエスチョン+ささやき」を使います。「傾聴+オープンクエスチョン+ささやき」は別記事に詳細を書いていますので、よろしければご覧ください。

・傾聴:「⑥傾聴を使い、生徒の自立を促し母子分離を図る」

https://note.com/keen_toucan9168/n/n5cf11a8f4cce

・メンバーシップとリーダーシップ:「⑦中学生のメンバーシップの育成」

https://note.com/keen_toucan9168/n/n4dda3ba54497

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