映画『ミッドナイトスワン』の魅力 (1)ーリアルなバレエシーンと『白鳥の湖』
9月25日公開予定の映画『ミッドナイトスワン』(内田英治監督、草彅剛主演)で重要なファクターになっているのが「バレエ」だ。
内田英治監督は、元々バレエ公演やバレエ映画を見たり、バレエ漫画を読んだりするほどバレエに関心があり、今作のバレエシーンにもリアリティを求めて、バレリーナを目指す一果役のオーディションはバレエ経験者のみを対象にして実施したという。
実際、一果役に抜擢された服部樹咲は4歳からバレエを始め、さまざまなバレエコンクールでの入賞経験もある実力者で、そのバレエシーンの説得力には監督自身、胸を張る。
また、一果の親友であり、バレエのライバルでもあるりん役に同じくバレエ経験者の上野鈴華、一果の才能を見出し育てるバレエ講師・片平実花役に宝塚歌劇団出身の真飛聖というバレエ巧者を配していることからも、今作におけるバレエシーンがいかに重要かがわかる。
もちろんそれは、単に監督がバレエ好きということだけでなく、この『ミッドナイトスワン』の核となるメッセージをバレエが象徴しているからに他ならない。
この映画のメインテーマである「母性」がそうであるように、今作における「バレエ」もまた、人々を惹きつけてやまない美しさと、「金がかかり異常に厳しく残酷」(内田監督談)という光と影の両面を持つ。
『ミッドナイトスワン』のタイトルから連想されるように、今作ではバレエ『白鳥の湖』が重要な役割を果たしている。
劇中、一果が初めてのコンクールの演目に選ぶのが、『白鳥の湖』からオデットのヴァリエーション。
凪沙が、勤務するショーパブの仲間たちと踊るのも、バレエもどきの『白鳥の湖』。
そして、凪沙と一果につかの間訪れる穏やかな日常にも、この『白鳥の湖』のイメージが印象深く登場する。
バレエ『白鳥の湖』で、呪いによって昼間は白鳥、夜は元々の王女の姿に戻ることのできるオデットは、王子ジークフリートの愛によって試練を越えて解放される(いくつかある解釈の一つ)が、『ミッドナイトスワン』では捕らわれの王女を解放するために奔走する王子は登場しない。
『白鳥の湖』で、「白鳥」の姿は呪いの象徴だ。
『ミッドナイトスワン』では、登場人物たちは「なぜ私だけが」と置かれた場所を呪い、そうさせている運命を呪い、いつかそうありたい自分=「白鳥」になることを願いながら、そうはできない自分に、させない周囲に抗い、疲れ、倦み、諦めている。
しかし都会の夜は、そんな彼女たちをほんの一瞬「白鳥」に変える優しさを持つ。
昼間の光は運命に抗えない自分自身を容赦なく突き付けるが、真夜中はその暗さで素顔を隠し、つかのま「白鳥」になれる。
新宿に来る前の一果には昼も夜も闇であり、「白鳥」になれる夜はなかった。
いつか彼女にも、昼も夜も「白鳥」となって羽ばたける日は来るのか ー。
バレエを愛する人はもちろん、私のようにバレエに馴染みのない人も必ずや魅了するバレエシーンと、そこに込められた深く、美しく、あたたかく、切なく、そして時に残酷なメッセージを、ぜひ映画館で受け取ってほしい。
(追記)
内田英治監督から、この記事へのコメントをいただきました。
「全然違う!」と言われなくてホッとしました。
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