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洋服からうつわの世界へ。TSUNEブランドデザイナー:田中恒子さんのお話

新宿の伊勢丹へふらっと行ったときのこと。私は、このうつわの前で立ち止まってしまった。

この、ありそうでなかった「新しさ」を感じるうつわは何なのだろう。和食器なんだけど、洋っぽくもありモダンな感じがする...と惹かれて手に取ってみると心を掴まれ、ほくほく気分でレジへ直行することに。

この素敵なうつわ、どんな陶芸家さんがつくっているのかなと気になり、後で調べてみたら『TSUNE』というブランドで、田中恒子(たなかつねこ)さんという方がうつわをデザインしているということが分かった。

え! うつわを......デザイン??

正直なところ、最初はその意味がよくわからなかった。
デザインをしているということは、職人の方(陶芸家)は別のところにいて、デザイナーさんが指示をしてつくっているってことなんだろうけど、そもそもデザイナーと職人が分かれているところって大量生産するために機械でつくっているところが多い印象だ。でも、このTSUNEというブランドはどうやら、しっかり手仕事でつくりあげているんだそう。
これだけのもの(数が結構あったんです)を、どうやってデザイン指示しているのか、職人の方は何人いるのか、気になることがたくさん出てきた。

さらに調べてみると、デザイナーの田中さんはもともと「洋服」の仕事をしていたんだそう。洋服をつくる仕事から、なぜうつわのデザイナーに??

奈良に行く前に、ぜひ話を聞いてみたい。引っ越しの準備とか色々あるけど、そんなことより何よりお会いしてみたい。
そんな個人的な興味から、ダメ元で連絡をしてみたらなんと時間をとってもらえることに。

北参道にあるギャラリーを訪問させてもらい、たっぷりお話を聞いてきた。

ー今日はお時間をいただきありがとうございます。とても素敵なギャラリーですね。

(田中)ありがとうございます。このギャラリーは不定期でオープンしているんですよ。

ーそうなんですね。季節を感じるコーディネートが素敵で、見ていて気持ちが高まります。今の時期なら(9月後半)栗やいちょう、秋の装いになっていますね。


きっかけは『陶器のビールグラス』

ー他のインタビュー記事で見ましたが、田中さんはもともと洋服の仕事をされていたみたいで。そこから、うつわのデザインに転向された経緯にとても興味があります。

(田中)そうなんです。私は文化服装学院を卒業した後、『ヨーガンレール』で働いていました。

ーヨーガンレール!有名なファッションブランドですよね。そこで洋服の仕事をされていたんですか?

(田中)ヨーガンレールではパタンナーとして、デザイナーの描いたデザイン画をもとに型紙(パターン)を起こす仕事をしていたんです。今はパソコンを使って型をつくりますが、当時は立体裁断をしてから平面(紙)に起こし、また立体裁断をしながら直していく…などの繰り返しで複数のパーツを組み合わせて型紙をつくっていましたね。手間がかかる、大変な作業でした。
また、ヨーガンレールには、世界中からトップレベルの技術者や感性が研ぎ澄まされた人ばかりが集まっていたので毎日がとても刺激的で勉強になりました。


(田中)洋服づくりの仕事はとても楽しかったのですが、「より生活に密着したものをつくりたい」という気持ちが出てきて。陶芸を学んでいたこともありうつわの世界に興味がわきました。洋服もうつわも、素材やできあがりが変わるだけでどちらも身近な生活の一部ってことがわかったんです。

ーへぇ。洋服もうつわも「変わらない」んですね。とても興味深い話です。

(田中)そうなんです。そんなときにタイミング良く、主人がレストランをオープンさせることになり、お店で使ううつわを私が手掛けることになったんです。そうしたら、ある陶器でつくった『ビールグラス』がお客さんに人気で「欲しい!」とリクエストをもらったのですが、それがきっかけでTSUNEブランドを立ち上げることになりました。当時、陶器でできたビールグラスは世の中に出回っていなかったので珍しかったのだと思います。

ーへぇ!ビールグラスがきっかけだったんですね。当時、田中さんはご自身でもうつわをつくれたと思うのですが、なぜ「陶芸家」ではなく「デザイナー」としてうつわのデザインをやろうと思ったのですか?

(田中)陶芸家としてやることも考えたのですが、1人でやると持てる窯(かま)は1つか2つだろうし、焼き方も技法も限られてしまいますよね。1人で色んなものをつくることができない理由はたくさん出てきて、自分の思考や行動が制限されてしまう。そうなってしまうのが嫌で、デザイナーとしてやっていこうと決めました。

細部へのこだわり

ーTSUNEのうつわって、仕上げ方に精度の高さを感じます。例えば、この蓮の花、

花びらの部分(ライン)がとてもきれいに仕上がっていると思うんです。色も、繊細なグラデーションがリアルさと少しのはかなさを感じさせてくれています。

(田中)そうですね、仕上がりの精度については洋服をつくっていた経験が関係しているかもしれない。

ー洋服の経験?

(田中)ヨーガンレールで働いているときって、細部にとてもこだわりを持ってやっていたんです。例えば、洋服のヘム(スカート・パンツ・ジャケットなどの裾や袖口の折り返し部分のこと)の仕上げ方。二つ折りにするか三つ折りにするかで見た目の印象や機能性が変わるから普通より、ひと手間ふた手間かけて「裏の縫製」をきれいに仕上げることに力を入れていました。

今日も自分でつくった洋服を着ているのですが、この部分の話ですね。

※田中さん、自分の洋服の裾をめくって説明してくれました。

ーへぇ、見た目ではわからないところにそんなにこだわりがあるなんて知らなかったです。二つ折りか三つ折りかで何が変わるんですか?

(田中)重さが変わるから、スカートだったら落ち方が変わるんです。あとは、風が吹いたときの浮き具合など。

ーとても細やかな次元の話ですね。田中さんが着ている洋服も自分でつくられたなんて。とても素敵です。

(田中)ありがとうございます。きょうこさんが今日来ているワンピースは、えっと.......二つ折りですね。
※この日、わたしは黒いワンピースを着ていました。

うつわも洋服と同じなんですよ。いかに細部までこだわりを入れていくのか。その小さな積み重ねが仕上がりの精度を変えていくんです。職人の方に伝えるときは口元の仕上げ方や色、かたちなど細かく指示をしているのですが、洋服をつくることで養われた美意識が、今のTSUNEブランドをかたちづくっているのかもしれないですね。

ーうつわと洋服はつくる過程も似ているんですか?

(田中)似ていますね。まず、つくりたいと思ったものの絵を描きます。つぎに制作の段取りを考えて職人の方への指示書をつくり、話しながらつくっていくのですが、うつわも洋服も、つくる流れは同じなんです。共通点が多いから、洋服の経験を活かしてやれていることが多いですね。

毎日話す、職人の方

ーTSUNEブランドのうつわをつくる職人の方は全国にいるって聞きましたが、何人くらいいるんですか?

(田中)全員で15人ほどですね。職人の方たちとはね、ほぼ毎日、話をしているんです。

ー毎日ですか!?

(田中)そう、家族と同じくらい話をしています。全国に散らばっているからやり取りの大半は電話ですが、頻繁に会いにも行きますね。TSUNEブランドは同じかたちのうつわを複数つくっているから、「クオリティを維持しながら同じものをしっかりつくれる技術」が必須になってくる。これはとても難しいことで、高いプロ意識をもつ、伝統工芸の中でもトップレベルの技術をもつ職人の方たちが集まってTSUNEのうつわをつくってくれているんです。だからこそ、職人の方なら誰でもいいってわけにはいかないですし、大切な存在なんですよ。

ーそんなにすごい方たちが、全国でTSUNEのうつわをつくっているんですね。

(田中)しかも職人の方と話をすると、それぞれTSUNEへの思いがありながら向き合ってくれていることを日々感じるんです。皆さん、高い技術をもつプロフェッショナルだから当然、TSUNE以外にも多方面からオファーが来ているはずなのですが、他の仕事を控えてTSUNEのうつわをつくってくれているのを見ていると真摯な気持ちが伝わって、職人の方やうつわへの思いが深くなるんですよ。

ーデザイナーと職人の方が別々のところでやっていると、どうしても関係性が分断されてしまいまそうですが、田中さんと職人の方のやり取りを聞いていると、1枚1枚のうつわをちゃんと人間同士がつくりだしているあたたかみのようなものを感じます。

(田中)そうですね。たまに体調崩している中でも頑張ってつくってくれている職人の方の姿を見たりすると、その気持ちを受けて私ももっと頑張らなきゃって思いますね。

ーなんだか、田中さんの話を聞いてうつわをデザインするということへのイメージが変わってきました。

これからのTSUNE

(田中)TSUNEをやっていて良かったなと思うことは、色んな方々と出会えたことだと思っているんです。職人の方がいてつくってもらって、欲しい人へ届けて使ってもらう。顔を合わせなくてもうつわを通してつながっているのはありがたいことだと思いますし、長く使ってもらえたら本当にうれしい。これからも人が「いいな」と思えるものをつくり続けていきたいなぁと思います。

ー人との出会いとありがとうの気持ち。それって、当たり前のことのようでいてとても大事なことですよね。

(田中)うつわをやり始めてからありがたい出会いが本当にたくさんあって。だからこそ、大事にしながら今自分のできることを一生懸命やろうという気持ちでいます。

ー田中さんは、これからTSUNEのブランドをどう展開していきたいなど考えていることはありますか?

(田中)これからのTSUNEを考えるときには「自分はこうです」、と私の作風を主張していく方向ではなく、日々の生活で感じる「あったらいいな」や「小さな喜び」を拾い上げてかたちにしていけるようなうつわづくりをしていきたいと思っています。そして、そこから生まれる広がりを大切にしていきたいですね。


(田中)また、今までやってきたテーブルコーディネートも引き続きやっていきたいと思います。

ーうつわって単体で買ったはいいものの、家に帰ってさぁ使うぞというときにどういうクロスや机と合わせたらいいか、いつも難しいなって悩むのでコーディネートの提案があるのはとてもいいなぁと思います。TSUNEのギャラリーや展示会を見ていると実際に使うイメージが華やかに膨らみます。

(田中)そうですね。私たちは生活の一部としてうつわを使ってもらいたいと思っておりますので、そうやって想像を膨らませてもらえると嬉しいなと思います。あとは、今まで勉強したり仕事をしてきた洋服もつくり続けていきたいなと思っています。うつわに限らず、感性がいいなと思うもので生活の一部になるものは扱っていきたいですね。

ー洋服もいいですね。これからのTSUNEも、楽しみにしていますね。

***

私は田中さんの話を聞く前までは、「デザイナー」と聞くと、かっこいいけど崇高なところから監修してつくりあげている、冷たく機械的なイメージがあった。でも、田中さんと会ってみて、職人の方との関係性やお客様の声を大事にしながらつくっていることを聞いて、人間同士が関わりながらつくりあげる体温のようなものを感じてうれしい気持ちになった。
また、田中さんは「普段づかいしてほしい」ということで価格も手の届くライン(私から見て安いと感じるものがたくさんあります)で設定している。この精度の高い仕上がりから見ると大変な企業努力をしているんだなと思うし、根底にあるのは強くて太い、田中さんと職人の方との信頼関係が生み出しているんだなと思うと、TSUNEブランドへの親しみがさらにわいてきた。

インタビューはこれで終わりです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

★プレゼント企画★
今回、田中さんには色々お話を聞きましたがやっぱりうつわって使ってみなければわからない!絶対にそう思うのです。
そこでなんと!今回、わたしが選んだTSUNEの作品を1名の方にプレゼントします。このnoteをみて、何らかのリアクションをしていただいた中から独断と偏見で選ばせてもらいます。
当選者の方には、直接お届けするか郵送でお送りしますので楽しみに待っていてください!

そして、できればそのうつわを使った写真と感想を送ってほしいのです。

今回プレゼントするうつわはこちら↓

冒頭でご紹介した秋を感じる、栗といちょうの小皿です。栗は豆皿として、いちょうは箸置きとしてお使いいただけますし、食卓に置いたりうつわの上に置くことで秋を感じることができるのです!ぜひこのうつわを通して秋を感じていただきたいと思っています。

〈さいごに、TSUNEのサイトを紹介します〉

TSUNEのホームページ↓

TSUNEのインスタ↓

新宿伊勢丹、西武池袋に常設があります。また、今回私が訪問したギャラリーも自由に見学ができますので興味ある方、ぜひ遊びにいってみてください。

★催事情報★
2019年10/2 (水)〜8(火)に大阪、「阪急うめだ本店 7階」にあります「手仕事ギャラリー 」にてTSUNEの催事があります。作品がたくさん並びますのでお近くの方、興味ある方ぜひチェックしてみてください。私も、どこかで遊びにいきます!

感想もいただけるととても喜びます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

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