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暮らしを丁寧にやってみたかった。ー陶芸家・タナカシゲオさんがたどりついた、「表現」とは。

指定された住所をナビに入れて、奈良市内から南の方面、明日香村(あすかむら)へ。

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ここは飛鳥時代に都があったところ。
日本の「はじまりの地」「こころの故郷」とも言われる、歴史深い村。

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のどかに広がる田園風景、その中にポツリポツリとある古墳群。
この場所に立つだけで、土地のパワーがビリビリと伝わってくるようで。懐かしいような新しいような、不思議な感覚に包まれた。

この場所で作陶する陶芸家がいる。タナカシゲオさんだ。

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タナカシゲオさんがつくるうつわは、見た目も手触りも素朴で柔らかい。
使い古された骨董のような佇まいで、食材をおおらかに包み込んでくれる。

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到着した瞬間、「すごいところに来てしまった..」と思った。


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鳥の声、川のせせらぎ、扇風機のまわる音。

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座ると、時間の感覚がなくなってしまうようだった。

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インタビューが始まる前なのに、タナカさんが前にいるのに、冒頭、無言でぼーっとしてしまった。

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置かれているうつわたちも、違和感なく空間に溶け込んでいて。気持ちよさそうに呼吸をしているようだった。

タナカさんは、約150坪ある敷地で、築280年の古民家を改装して暮らしている。

この場所で、どんな暮らしをしているのか。
暮らしの中で陶芸にどう向き合っているのか。

たっぷりお話を伺いました。

タナカシゲオプロフィール:
1963年 京都生まれ。31歳から陶芸教室に通いはじめほぼ独学で陶芸を学ぶ。李朝や桃山茶陶などの古い陶磁をお手本に作陶し、40歳のときに初個展。2007年に、奈良県の明日香村の集落に移住し、穴窯、倒炎式薪窯を自分でつくる。白磁、焼締、粉引、オンギ、黒伊羅保(くろいらぼ)、堅手(かたで)などのうつわをつくっている。

使ううちに、宿っていく。

ーこのお家、素敵なのですが、だいぶ古いつくりですね。もしかして雨漏りとかしますか?

(タナカ)えぇ、雨漏りしますよ。あっちの屋根は穴があいていて..。空が見えるんです。
*そう言って、隣の建物を指差すタナカさん。

ーえっ。

(タナカ)だから、下にプールを置いてるんです。修理したいのですが、家の横には川が流れているので足場をつくれなくて..。落ちたら危険なので、そのままになっています。

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ーあぁ。この川があると、足場をつくるのは難しそうですね。
・・改装にはどのくらいの時間がかかったのですか?

(タナカ)ちゃんと住めるようになるまでは、2-3年かかりました。この家はしばらく誰も住んでいなかったので。来た当初は掃除と片付けがとにかく大変でした。湿気もすごくて、色んなものがすぐにカビてしまうし..。

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ー話を聞くだけで、それはもう大変なことです。タナカさんはそもそもなぜ、明日香村を選んだのでしょうか?

(タナカ)ここに来るまでは京都にいたのですが、ずっと薪窯(まきがま)でうつわを焼けるような広い場所を探していたんです。もともと古いものが好きだったのと、マンションに住むというよりも、こういう古民家に住んで、季節に合わせて暮らしながらうつわをつくってみたかった。そうしたら、ネットでこの場所を見つけて。14年前に引っ越してきました。

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ー工房も自分でつくったとお聞きしました。たしか、、「ストローベイルハウス」でしたっけ?ぎゅっと詰まった藁(わら)を積み上げてつくったという。

(タナカ)はい、そうですね。あの工房がそうです。ここは最初はなにもない庭で、木がボーボーだったんですよ。

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ーかわいらしい建物。えっ、あれを自分でつくったのですか?

(タナカ)はい。当時、子どもが通っていた学校の同級生のお父さんがアメリカ人の大工さんだったんです。彼に教えてもらいながら、一緒に工房をつくりました。中はこんな感じです。

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ーすごい。立派なつくりですね。

(タナカ)「ストローベイルハウス」は、藁(わら)のブロックを積んで、表面に土を塗ってつくります。アメリカで採用されているやり方で、1度建てたら100年くらい続く建物なんです。

ー100年も。

(タナカ)はい。この工房は、外壁は漆喰で、中は土壁になっているんです。呼吸しやすく気密性が高いのか、温度と湿度がちょうどよく保たれる。土が乾かないので、作陶するにはちょうどいい環境なんです。

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ー藁(わら)の工房って、イメージがわかなかったのですが、実際に見てみるとしっかりしたつくりなんですね。タナカさんは、工房だけじゃなくって、土も釉薬も窯も、すべて自分でつくっていますよね。あえて、「時間と手間がかかる環境づくり」からやっているのはなぜでしょうか。

(タナカ)あぁ。どうせやるなら、すべて自分でつくってみたかったんです。使ううちに、宿っていくんでしょうね。ぼくがイチからつくったものなので。それは、つくったときから意識があるかもわかんない。

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「違う」がはっきり分かる。

ータナカさんがうつわに興味を持ったきっかけを教えてください。

(タナカ)学生の頃から骨董を集めるのが好きだったんです。古いものに興味があってアルバイトをしたお金で、イギリスのアンティーク家具やうつわを買ったりしていました。ただ、いいなぁと思ううつわに出会えても1枚しかなかったり、数が揃わなかったり。それで、自分でつくってみようかなぁと思ったんです。

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ーほしいうつわを求めて、陶芸をはじめたんですね。

(タナカ)はい。あとは..そうですね。もっと、「ホンモノ」を見極められるようになりたかった。骨董屋さんに騙されるのが嫌やったんです。ニセモンもあるので。それも、自分でつくってみたらわかるようになるかなぁと思って。

ー騙された経験、私にもあります。連れて帰ってみたら、なんだか違う..みたいな。タナカさんが言う「ホンモノ」って、実際にわかるようになるものでしょうか。

(タナカ)つくることで、見る目を養えるようになりましたね。パッと見ていいなぁと思っても、使っていくうちに違いがわかるんですよ。ネットで見ても、ホンモノかニセモノか、すぐに分かりますよ。

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(タナカ)本当にいいものとは、こう..なんか、違うんですよね。艶がなくってポテッとしているというか。

ー艶がなくポテっとしている。それって具体的にどういうものなんですか。

(タナカ)骨董をたくさん見ていても、「昔の骨董」と「いまの骨董」と、全然違うんですよ。釉薬の感じが全然違う。光の入り方も違う。使っていくと育ち方も違う。水に濡らした手が吸いつく感じも、違う。

ーすべて、「違う」がはっきり分かるんですね。

(タナカ)はい。なぜ違うのかをたどっていくと、それは、「呼吸しているうつわ」っていうことになるのかな。

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(タナカ)昔のうつわって、今みたいに合成物を入れないで、灰などすべて天然の素材でつくっていたんだと思うんです。それが「違う」理由になるかは、はっきりとはわからないのですが、やっぱりいいうつわって、見た感じと肌に触れたときの感じ、使っていったときの育ち方が、ぜんぜん違うんです。

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(タナカ)そんなものをたくさん見る中で、初期の頃にぼくがつくったものはすべて失敗でした。自分がいいなぁと思うものと全然違う。なんでこんなに下手くそなんかなぁ、やっぱり素材が違うのかなぁと思いながら、土も自分で混ぜて、釉薬も灰を混ぜてつくったりと、色々試しました。

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ー私はまだ、パッと見てはっきり「違い」が分からないのですが、タナカさんのうつわを家で使っていて、不思議に感じたことがあります。コテコテに調理された料理よりも、シンプルな食べものを盛る方が映える気がするんですよ。ありのままの姿に近い、フルーツや野菜をポンッと置いたり。お互いが良い空気を持っていて、引き立てあっているというか。今の話を聞いていて、その理由が少しだけわかったような気がしました。

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(タナカ)あぁ..そういうことを意識しながらつくっているわけではないけれども、素材も環境も、できる限り自然のものを使ってつくっているのが大きいのかもしれない。違和感ないように。

意思を持つ、窯。

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ータナカさんは、「穴窯(あながま)」という、原始的な窯でうつわを焼いていますよね。その焼き方に、とても興味があります。

(タナカ)穴窯はこの家から少し離れた場所にあるので、今度また案内しますね。10年前につくったのですが、穴窯がおもしろいのは、同じ土、同じ釉薬でも、置く場所によってできあがりの色が全然違うんです。
火が一方向からいくので、火が当たったところに模様ができたり。

たとえばこういう、底にある赤い部分ですね。

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ーわぁ、本当だ。これって全く同じものをつくるのはやっぱり難しいのですか?

(タナカ)はい。難しい..というか、できないですね。火の力にまかせて、勝手に動いている、ゆがめているので。

ー火に、ゆだねるのですね。

(タナカ)穴窯は、思い通りにいかないことが多くて実際は大変です。薪の湿り具合で温度が変わってしまうので。大きなうつわを焼いても、できあがりは片っぽは溶けていて、片っぽはカサカサになっちゃうことなどよくあります。
でも、自然な照りが出たり、灰がかかって釉薬が垂れたり。想像できない表情が生まれるのが、穴窯のおもしろいところですね。

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(タナカ)穴窯をはじめたのは、自分の理想に近づくためには、火の力が大事かなぁって思うようになったからです。それで昔から伝わる基本の方法やから、やってみたんです。

ー穴窯で焼いたとしても、タナカさんのうつわって、主張が強く出すぎていないですよね。力強さというか、荒々しさというのか。できるかぎり自分の意思で消しているような印象があります。

(タナカ)えっ、力強さがないですか?笑

ーいや、あの、悪い意味じゃなくって。「どうだぁ、俺の!」感がないというか。主張を薄めて、自然にゆだねているような。そんな気がするんです。

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(タナカ)あぁ、そこへ意識を向けないようにしていますね。成形するときも、うつわを「見る」と意識してしまうので、見ないでろくろを挽いているんです。ある人に「目を瞑ってやってみたら?」と言われたことがあって。実際にやってみたら、視界から入る雑念がなくなって、指先の感覚がよく分かるようになって。より土と対話できるようになったような気がするんです。

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ーなんだか、瞑想みたいですね。

(タナカ)瞑想に近いのかな。見るけど、見ない、みたいな感じで。そもそもうつわをつくるときは、「こうやってつくるぞ」と意気込んではいませんね。意気込むと、つくれないんですよ。料理でもなんでも。

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ー確かに。意気込んでなにかをやると、やりすぎになっちゃうことがよくあります。

(タナカ)前にとある男性から、「あなたの窯(かま)は意思を持っている」と言われたことがあるんですよ。

ーへぇ、意思を持っている。

(タナカ)「炎も意思を持っている。あなたは窯から愛されている」、と。そう言っていただきました。うれしかったですね。それからもっと、窯と対話しながらうつわをつくってみようと思ったんです。

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内側から出てくるもの。

ーあの、変な質問になってしまいますが、タナカさんは陶芸をやっていて楽しいですか?

(タナカ)えっ。うーん、楽しいかと聞かれたら、なにが楽しいって..よくわからない。まぁ、他のことをしないってことは楽しいんでしょうね。楽しくないってことはない。

ーいやになることもないですか?

(タナカ)いやいやにもならない。仕事っていう感覚もない。ご飯食べたり眠るときと似たような感覚かな。

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ーこの質問をしたのは、タナカさんの話を聞いていると「陶芸が暮らしの一部」って感じがしたからなのです。毎日の暮らしって、「楽しい!」ってハイになる瞬間ってあんまりないと思っていて。毎日が淡々と流れていく中でじんわりよろこびを積み上げていくような。今日タナカさんの家を訪ねて、話を聞いて、陶芸への向き合い方もそんな感じなのかなぁと思ったんです。

(タナカ)あぁ。陶芸への向き合い方でいうと、もともと、「暮らしを丁寧にやってみたい」と思ってここへ来たんです。表現というのは、内側から出てくるものが現れると思うので、暮らし方から丁寧に一つひとつやってみたかった。そんな、暮らしの中からしかできないうつわをつくりたかった。
もともとぼくは弟子入りとかもせずにここまできたから、生き方から変えてみようと思ったんです。

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あとがき:
インタビューのあとタナカさんは、普段使っている窯や土や釉薬のストック場所など、離れにある工房を案内してくれました。

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タナカさんはうつわを焼くとき、穴窯だけではなく、倒炎式の薪窯や電気窯(薪還元式)も使っていました。個展がある度に「どうやったら効率よく焼けるのか」を考えながらカスタマイズしたり、工夫している小さなこともたくさん話してくれました。

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▲倒炎式の薪窯。両脇から薪を燃やして炎が天井に上がり、真ん中から下に降りて後ろの煙突へと出ていく方式。全体がほぼ均一に焼けるので食器などを焼くのにちょうどいいそうです。


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▲電気窯。薪還元(薪を使って窯の酸素を少なくして焼く)ができる構造になっています。


工房もあらゆるところに窓をつけたり壁を修理したり。
タナカさんの工房はどこをとっても、すべてにオリジナリティがあって「そのまま使っている」というものがありませんでした。

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工房の屋根では、ニラを育てていて、その横では奥さんが洗濯物を干していました。

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とくにキッチンでみた風景が、忘れられません。

かまどがあったり、井戸水を汲み取っていたり、奥さんと二人でお茶やおやつを用意してくれたり。

ひと昔前の生活ってこんな感じだったのかなぁ..と、座りながら、ぼんやり考えました。

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そして、タナカさんお手製の、「オーガニックバナナスコーン」も登場。自家焙煎のコーヒーとともに、おいしく味わいました。

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スコーンは、水やバターは一切使わずに、バナナの水分と菜種油、スペルト小麦や全粒粉など、身体にやさしい素材を使ってつくったのだそう。

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これは本当においしくて、身体がよろこぶってこういうことかと。
というか、焙煎もおやつ作りも、なんでも自分でやってしまうタナカさんのマルチさに、嫉妬すらしました。

ものをつくることへの心の向け方。

そんな大切なことを、私はタナカさんから学んだ気がします。



最後に、タナカさんが別のインタビューでお話していた言葉を紹介します。

” 名前がなくても、ものを見て、人の心が動かせるものをつくりたかった "


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今回も長いインタビューを読んでいただきありがとうございました。

毎回ドキドキしながらアップしていて思うのは、読んでもらうだけでうれしいのに、感想までいただけるのは本当にありがたいなということです。
「この部分が共感した」とか、「職業は違うけど通じるものがある」など、ツイッターのシェアやnoteのコメントを通して気付かされることも本当に多いです。1日の中で大事な時間をつくって読んでもらえることの大きさを感じながら、毎回陶芸家さんと向き合い、楽しみながらnoteを書いています。

いただいた感想やコメントはすべてタナカシゲオさんに伝えますので、なにか感じたことなどありましたらぜひお気軽にいただけると嬉しいです。

また、今までやっていたプレゼント企画ですが、これからはひとりでも多くの方に実物のうつわを見てもらえたらいいなぁと思い、奈良でお店をはじめる予定です。ただいま準備中で、決まったらまたこのnoteでお知らせしますね。

〈タナカシゲオさんのインスタと展示会を紹介します〉

インスタ↓


2021年の展示会予定↓

【 タナカシゲオ 個展 】
日程:2021年10月23日(土)~10月31日(日)
場所:ギャラリー うつわノート
〒350-0036 埼玉県川越市小仙波町1-7-6


▲現在、うつわノートさんのyoutubeでタナカシゲオさんの動画が公開されています。よかったら見てみてくださいね。

【グループ展】
日程:2021年10月15日(金)~10月31日(日)
場所:RITMS
〒840-0203 佐賀県佐賀市大和町梅野159-1

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