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【後編】陶芸教室と、もう1つのキャリア。陶芸家:川松弘美さんのお話

このnoteは、陶芸家 川松弘美(かわまつひろみ)さんにインタビューしたお話です。
前編では、陶芸をやっている中で一番楽しい時間の話や、今の作風にたどりついたきっかけについて語ってもらいました。

前編はこちらをご覧ください↓

後編では、川松さんが先生として教えている陶芸教室のお話や、今の状況、そしてこれからについてお聞きしました。
※川松さんは私が通っている陶芸教室の先生なので、インタビュー内では「先生」と呼んでいます。

つくること、触れること

ー先生は調布市の仙川と世田谷区の用賀で2つの陶芸教室をやっていますね。教えるのは好きなんですか?

(川松)うん、教えるのはほんとうに楽しいね。一番いいなぁと思うことは、本当に好きでうつわをつくっている生徒の様子を見るときかな。楽しそうにやっている姿を見ると元気をもらうわ。
個性も人それぞれで、できあがりの作品には作り手の性格があらわれるなぁって見ていて本当にそう思う。

マイワールド全開の人だったり、もう少し殻を破って新しいことに挑戦してほしい人だったり。私は生徒の個性を大事にしたいからなるべく手は出さずに見守っているけど、みんなの成長を見ているのは楽しいよ。

ーへぇ、私が通っている仙川の教室も個性豊かですもんね。え、先生......ドキドキしながら聞きますが、ちなみに私の作品はどんな印象ですか?

(川松)そのままでいいわ。そのままで。日頃色々見ているものが作品にあらわれているから、そのまま真っすぐ行きなさい。

ーありがとうございます。そう言ってもらえると少しだけ自信になります。なかなか、思ったようにうまくつくれないんです。頭ではしっかりイメージしていても、どんどん重くなったり分厚くなってしまったり。陶芸を始めてものづくりの難しさが分かりましたし、逆に自分がうつわを選ぶとき、「見た目と触ったときの感覚が一致すること」ってすごく大事なんだなぁということを学びました。

(川松)分かる分かる。工芸品ってさ、「触れて初めてわかること」ってあるよね。最初に見たとき、想像するじゃない?このうつわだったら、このくらいの重さでこういう手触りなのかな、と。
ただ実際に触ると、「あ、違うな」とか「これは予想を超えていい」とかいうことが分かるのよね。だからこそ、今はネットで簡単に買うこともできるけどぜひ手に取って触って感じてみてほしいって思うの。

ー私も、前まではネットで買っていました。でも実際に触るようになってから、自分の中での「感覚」が少しづつ形を変えながら定まってきたように思えます。

(川松)いいものをたくさん見ているとね、感覚が研ぎ澄まされていくのよ。よくないものが分かるようになって、自分で選べる幅が広がるようになる。私にとってのいいものは「品がある」ものかな。うつわだったら口や高台に出やすいのよ、作り手の品格みたいなものが。それは普段の佇まいからもあらわれる気がする。

もう1つのキャリア

(川松)きょうこさん、私のさ、もう1つのキャリア教えてあげようか?

ーキャリア? 陶芸はじめて43年の他にまだ何かあるんですか?

(川松)私ね、「がん」キャリアが今年で17年目なのよ。

ーえ! 先生ががんを患っているのは知っていましたが、そんなに長く.....。しかも「がん」を「キャリア」で語る人はじめてです。

(川松)もう長い付き合いだからさ。48歳のときに発症して、それから17年、色んな場所に転移しながらがんと闘ってきた。最近、抗がん剤を変えてからとうとう髪の毛が抜けるようになってきて。もう、ハゲ状態は3回目なの。面倒くさくて嫌だわ、今はウィッグをつけてごまかしているのよ。

(川松)がんになってから、色んなことが変わった。もちろん、生活も仕事もそう。陶芸では、新しいこと(技法など)にもチャレンジしたいと思っているけど今こんな状況だから...どうかなぁ......。
でも来年の4月には銀座で個展をやる予定があるし、前みたいに量を多くつくることはできないけど、1つ1つの作品を丁寧にじっくり、品格がある、完成度の高いものをつくっていきたいわ。まだまだこれから!


(川松)ただ、そんななかね、陶芸をやっていて嬉しいなとしみじみ思うことがあってね。これ、見て。 
※スマホの画面を差し出す

ーうわぁ、おいしそうなトウモロコシ。これ、のせているのは先生のうつわですか?

(川)そう。今回、がんが再発したことがわかったとき友だちがこの写真を送ってくれたの。私のうつわ、「普段から愛用しているよ」って。料理を盛った写真やうつわだけの写真をたくさん送ってくれた。陶芸をやっていてよかったなぁと心から思ったし、どんな言葉やプレゼントをもらうより今の私にとって1番の励ましになった。

ー素敵ですね。このお団子もおいしそう。きれいに盛られています。

え!! この方が使っているコップなんて、
アップにしてよくみると……

こんなに色が剥げるまで使っているー!

(川松)あはは、そうなの。絵付けしなおすよ~って言ったんだけど、「俺はこのままがいい」って言ってきたの。この剥げた感じに愛着がわいているんじゃない?嬉しいわよね、ここまで使ってくれているなんて。
今回、きょうこさんにがんの話をするのは迷ったんだけど、ありのままの自分を書いてほしいって思ったから全て話してみた。それが、「今の私」だからね。

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先生は、ご自身の病歴がわかるメモも渡してくれた。その内容は私の想像をはるかに超えていて、2年前からは乳がんから転移して肺がんに、そして現在は骨にも転移し抗がん剤治療をしている。

正直、私は先生ががんの話をしているときはどういう相槌を打ったらいいか、どういう言葉をかけたらいいか分からなかった。私はがんになったことがないし、身近でなっている人にも会ったことがほとんどない。先生の陶芸人生の中では、きっとがんによって出来なくなったことが多くて、悔しい思いもたくさんしたんだろうと思うと複雑な気持ちになるし、先生が話す言葉から本当の気持ちを汲み取れないことも多かったんだろうと思う。だから今回のnoteでも、がんの話を書こうとすることすら、けっこう迷った。
でも、「寧ろ書いてよ!」と、明るく話してくれる先生の姿をみて書いてみようと思ったし、何より、友だちから送られたうつわの写真たちから、先生への愛情が溢れていて、泣きそうになった。取材中だし泣いちゃいけないし、と私はおせんべいを食べてごまかした。(この日、私たちはおやつを食べながら話をしていました)

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ー今日は先生にお話を聞けて良かったです。ほんとうにありがとうございました。あ、なにか最後に一言ありますか?

(川松)なにそれ、唐突すぎる(笑)
あ、「旦那には感謝している」って入れておいてほしいわ。

ーあの優しそうな旦那さんのことですね。

(川松)結婚はいいわよ。旦那がいないと私、生きていけなかったって思うもの。ずっと支えてくれて、今でも大事な存在。きょうこさんも奈良でちゃんと良い人見つけて、1回は結婚しなさいね!

ーは、、はいっ!

※世田谷の工房にある電気窯の前で撮影しました。いつも陶器を焼いている場所、川松先生にとって一番落ち着く大好きな場所。本当にありがとうございました。

★おまけ

先生はその他にも工房で普段使っている機械やつくり方など解説してくれました。

絵付けで使う色は「擂潰機(らいかいき)」という機械でつくっているということ、

特に赤い色を出すのって本当に大変なんだそう。
この機械で毎日5時間、2ヶ月かけて混ぜることできれいな発色の赤色ができあがるのだけど、手作業になると6ヶ月は混ぜる必要があるんだそう。目が回る作業だ…。


本焼きする前の、絵付けした作品も見せてもらった。

焼くと色が黒→金に、赤が緑に色が変わる不思議。おもしろいな。

インタビューはこれで終わりです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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〈川松弘美さんのインスタを紹介します〉

インスタグラム↓

2回にわたってお届けしたインタビューについて感想などありましたら、コメントいただけると嬉しいですし、川松先生にお伝えさせていただきます。
また、2020年4月には銀座のギャラリーで個展をやる予定です。また私のtwitterでご案内します!

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