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砂田政美さん個展、終わりました。ありがとうございました。また3年後に会いましょう。

砂田政美さん個展『芽吹き』、無事に終わりました。
会期中お越しくださったみなさん、SNSで見守ってくださったみなさん、ほんとうにありがとうございました。今回想像していたよりはるかに多くの方がきてくださって、おそらく半分ほどの方が県外から来てくださいました。
遠いところだと山梨や東京、四国方面からも。「草々を目指してきました」と言われるたびにびっくりして、ありがたい気持ちでいっぱいでした。

実は砂田さん、帰ってからギックリ腰になったのだそう。
山梨⇄奈良の長距離運転がこたえたみたいで..。先ほど電話で恥ずかしそうに言っていました。色々ホッとしたのもあったのかもしれません。

砂田さんと今回の個展について振り返っていたのですが、砂田さんは「みんなの滞在時間が長いこと」にとてもびっくりしていました。みんなうつわを眺めたり話したりしながら、ゆっくり楽しんでいた。今まで色んなところで個展をやってきたけどこんなにお客さんの滞在時間が長いところはなかった、と話してくれました。

確かに、今回の個展もそうだったけれど草々にくるお客さんは全体的に滞在時間が長いかもしれません。何往復もしながら迷ったり、テラスでひとやすみしたり、居合わせたお客さん同士で会話が盛り上がったり。それぞれが自由にたのしんでいて、私はその様子を見るのが好きなのですが、砂田さんに言われてあらためてそうかもなぁと思いました。

今回すごいなぁと思ったことは、砂田さんのうつわを10年、18年、20年以上愛用していますという方が何人かいたこと。

たとえばあるお客さんは18年前に長野県のギャラリーで砂田さんのうつわに出会って、今もこの豆皿をすっごく愛用していると興奮気味に見せてくれました。

丁寧に折り畳まれた布からこのうつわが出てきたとき、グッとくるものがありました。砂田さんも目を細めてうれしそうに話を聞いていたのが忘れられないです。

また別のあるお客さんはこのお茶碗を12年愛用していると話してくれました。

それから色々お話していると、このお客さんは最近大きな決断をして、これから新しい道に進むということ、12年前にこのお茶碗に出会ったときも、ちょうど今回みたいに節目のときだったという話をポツリポツリとしてくれました。

この話を聞きながら、そういえば私も同じお茶碗を愛用していることを思い出しました。
奈良に移住したばかりの頃、ずっと好みのお茶碗を探していて、触れた瞬間これだー!と思って、作家名見たら砂田政美さんでびっくり。砂田さんとはもともと知り合いだったから、こんな偶然ってあるのだなぁ..と。あのときの不安と隣り合わせのワクワクを思い出したら、なんだかこのお客さんのことも他人事ではいられなくなった。持っている柄までこのお客さんとまったく一緒で、今回を機にさらに思い出深いお茶碗になりました。

トークイベントも盛況でした。
砂田さんが実際に今回の個展への想いや、実際にうつわを見せながら制作のことを色々お話してくれて、側で聞いている私もほんとうにたのしかった。

参加者からもいくつか質問が届いて、

最近1番うまくできた!と嬉しくなった作業や工程はなんですか?

という質問に対しては、「磁器でマグカップの取手をつけることはとても難しいので、今回それがうまくできたのがうれしかった」という話をしてくれたり、

逆に失敗作と感じるものはありますか? あればそれはどんなものですか?

という質問に対しては、「手作りだからまったく同じものはつくれないんだけど、失敗作はここには持ってきていませんよ(笑)」など。

特にいいなぁと思ったのがこの質問でした。

モノづくりに関して、「売ることは、作ることと同等もしくはそれ以上にむつかしい」と常々感じています。 作ることと売ることの関係について、これまでの40年でお感じになったことがあればお聞かせください。

これについては前日から砂田さんと話していたのですが、結論「むつかしい」となりました。でも砂田さんが何度も言ってくれたのは、お店側は「いい陶芸家と出会うこと」であり、陶芸家は「いいお店と出会うこと」が大切という話をしてくれました。それは、有名であるかどうかは関係なく、いいものをつくる陶芸家のうつわを置いていれば、時間はかかるかもしれないけれど絶対長く続くお店になる。
「売ること」が一番の目的ではなくて、自分が「楽しいこと」や「楽しんでもらうこと」を大切に細々と続けていればいいお店になる。

そんな話を表現を変えながら、2日間を通して何度も話してくれました。

さらに、

同業者の作品を見てどう思いますか?(嫉妬とかないのでしょうか)

という質問に対しても、同業者のだめなところを見つけるよりもいいところを見つけて参考にするようにしている、と砂田さんは言っていました。
なるほど、なんだかここまでの話を聞いていると、砂田さんの人柄と作風に納得感が増してくるようでした。

最後の方はうつわの使い方や磁器の魅力についてお話してくれたのですが、特に印象的だったのは砂田さんがつくるうつわの、「ほのかに青みを帯びている」理由について。これは、釉薬(うわぐすり)に「桜の木の灰」を混ぜているから青くなっているのですが、後である参加者からこんなDMをもらいました。

桜の灰の釉薬のお話が心に残っています。
桜という具体的なワードから広がるイメージがプラスされて、不思議とうつわがまた違った見え方でみえてきて。
だからこんな妙に落ち着く普遍的な美しさというか、優しい色になるのかなぁと思いました。

これを読んだとき、あぁそうか..としみじみ思いました。

個人的に桜の木の灰の話はたまに砂田さんから聞いていたことだったのですが、他の人が聞くとここまでの広がり方になるのかぁと。この数行で、感動が伝わってきたのです。

さらにこの方、砂田さんのお話を直接聞いて人柄に触れられたおかげで、もともと持っていた砂田さんのお皿に対する愛着が一層わいてきて、さらに「特別なお皿」になったのだそう。使っていると砂田さんの笑顔を思い出すらしく…。

あぁ。なんだかこれを書きながら涙が出てきそう。
トークイベントやってよかったなぁと心から思いました。

去年の秋、参加者の息子くんがお母さんにプレゼントしたチケットで選んだ砂田さんのうつわ。これが今回のトークイベントでさらに「特別なお皿」になったのだそう。

砂田さんは、「長く使える工夫」についても話してくれました。せっかく買ったうつわ、帰ってすぐに欠けてしまったら悲しいよね。そうならないように、焼きや厚みを気にしている、と。なるほど、だから今回10年以上使っていますというお客さんがたくさんいたのかぁ..と納得。

初日に来てくれたロクマル珈琲さん、Le trefleさんの焼き菓子もとてもよかったです。

当日は暑かったのでアイスコーヒーを欲する方も多かったのですが、サイフォンでつくる様子はまた格別。草々のオリジナル商品「カップ&ソーサー」にコーヒーを注いで、テラスでゆっくり味わう時間を見ていると、あぁこのうつわをつくってよかったなと心から思いました。

お客さんがコーヒーをひとくち飲んで「最高…」と小さく呟く後ろ姿を見たり、このカップで飲んだらおいしかったと感想を言ってくださる方も多くて、感激。

顔馴染みの人たちもたくさん来てくれて、私もロクマル珈琲さんもうれしい気持ちでいっぱいでした。

そうそう!オープン前に草々のテラスから「彩雲」が見えたのです。写真には撮らなかったんですが、ロクマル珈琲さんと一緒に空を見上げて感動して、そこから今回の個展ははじまったのでした。


..実は個展がはじまる前、私はすごく緊張していました。
砂田さんから素敵なうつわがドンドコ届くたびに、うれしいのですが焦ってきて「人来なかったらどうしよう..」と少し不安でした。でも砂田さんは去年からずっと電話をするたびに「大丈夫だよ」と言ってくれました。大事なのはそこじゃないから。来てくれた人がたのしんでくれれば、たとえ少なくても、大丈夫。ぼくは気にしないですよ、とずっと言ってくれました。

次第に砂田さんの言っていたことがわかってきました。
砂田さんが届けてくれた「いいうつわ」が、人を笑顔にさせたり、旅立っていく様子を見ていると私の心持ちも変わってきました。こんなにいいうつわをつくってくれたんだから、絶対に大丈夫。いや、これは砂田さんの仕事ぶりに自然に動かされたといったほうがいいかもしれません。それくらい、ポジティブなエネルギーを感じたのでした。

蓋をあけてみたら、個展期間中はほぼ途切れることなく人が来てくれました。みんなすごくたのしそうに、選んだものを愛おしそうにしてくれていて、いい仕事が、いい場所をつくることを学びましたし、いい仕事が、人を動かすことを砂田さんから教えてもらったような気がします。

最終的に数えてみたら砂田さん、今回総計で500以上ものうつわをつくってくれていました。
そして2日間山梨から実費できてくれて、ずっと色んなお客さんと話してくれました。小さな心遣いも側でたくさん見せてもらいました。これからお店をやっていくうえで大事な指針もたくさんもらいました。

今回の個展を通しての砂田さんへの「ありがとう」の気持ちは計り知れないものです。そして、すぐに芽は出なくても数年後にしっかりお返しできるようにがんばりたい。そういう意味で草々にとって、今回の個展は大きな大きな『芽吹き』となったような気がします。

最後に、砂田さんがこんな話をしてくれました。

ほんとうにね、今回楽しかったです。ありがとうございます。また3年後あたりにやりましょうか。ぼくも陶芸いつまでできるかわからないから、目標があるとまたがんばれるんですよ。またたのしいこと、やりましょう。集いましょう。そのときに会えるのをたのしみにしています。

ということで、3年後あたりにまた会えたらいいですね。

みなさん初めての個展にお付き合いいただきほんとうにありがとうございました。

【完】


この後山梨へ帰った砂田さんはギックリ腰になりました..

▼今回の個展のうつわ、オンラインショップにいくつかアップしています。6/5(月)中までの期間限定で、発送は3-4日以内にいたします。ぜひチェックしてみてくださいね。


砂田政美プロフィール:
1957年 山梨県生まれ。1982年に陶芸家 桂木一八氏に師事し、兄弟子に上泉秀人氏。2年ほど関西の窯場でお世話になったのち、1990年に独立。現在は山梨県に工房をかまえ、柔らかくてやさしい白色が特徴の磁器をつくっている。



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