草々で「金継ぎサービス」をはじめます。
100年残るうつわを本気で届けたい。
今までふつうにあったものが、いきなりそうでなくなってしまうときがある。
パリンッと割れてしまったり、ピキッと欠けが入ってしまったり。
それが、思い入れが強いものほどショックが大きくて呆然とする。
そうなってしまったものはしょうがないのに、悔やむ。悔やむ。
いつか直そうと思って押し入れにしまってそのまま放置。年末の大掃除で見つけては、また同じ位置にそっと戻す。
そんな経験ありませんか?はい、わたしはよくあります。
草々をはじめたとき、大きなテーマに「100年残るうつわを届けたい」と決めた。自分がおばあちゃんになっても飽きないもの、次の世代にもよろこんで使ってもらえるもの。
しかし、草々で扱っている陶器・磁器は割れるものだ。
どれだけ丁寧に扱っていても、どれだけうつわを割らないと巷で有名な人でも、割れるものは割れる。私なんて、先週思いっきりどんぶり碗を割ってしまった。春だからボーッとしていたのだろう。わぁぁぁというエコーがかった絶叫の声と、スローモーションになったような画で手から滑り落ちていった。そう、割れるときは割れるのだ。
だから、「金継ぎ」をしたいなぁとずっと思っていた。我が家には、思い入れがないうつわがない。どれも、1つ1つ買ったときのことを覚えている。あのときあんな気持ちであのお店で選んだな、とか、あの人と出会ったのはこのうつわからだったんだな、とか。だから、多少お金をかけてでも直したいとずっと思っていたし、同じような人が多いんだということをお店をはじめて実感した。
そして「直したい」と思う人には共通点があることがわかった。価格や作家名よりも、「思い出」に価値を置いている。人と人がつくる関係性のように、人とうつわの間に絆のようなものが生まれている。それは、表面的には測れないものでもある。
そんな思い出深いもの、大切な一点を、せめて100年は残したいじゃないですか。私がお店をはじめた動機のひとつもここにあるなぁと。だから、今日から正式に草々のサービスとして『金継ぎ』をはじめることにしました。
草々が提案するのは、「いのち」を吹き込む伝統的金継ぎ
..といっても私は金継ぎができないので、京都に住む金継ぎ師「稲多加恵」さんが専属でやってくれます。
やさしそうなお方ですね。実際とてもやさしいです。
また、草々の金継ぎは、合成樹脂を使う「簡易」的なものではなく、本物の漆のみを使う「伝統」的なやり方、つまり本漆金継ぎです。
簡易と本漆、一番の違いは「素材」です。本漆はウルシの木から採れる天然の樹液を使います。今回、漆のことを色々調べていくなかでわかったのは、1本のウルシの木から採れる樹液はわずか約200グラムほど。またその木は10年〜20年ほどかけて育てられるのだそう。樹液を採る方法は、ウルシの木に傷をつけて滲み出た樹液を採取し、そのあとウルシの木は枯れてしまうのだ..そう..。
なんだか書いていて、ウッとなりますね。続けます。
だから、漆を使うということはウルシの木から「いのちを分け与えてもらっている」とも言えます。濁りのない朱色。その上に金箔をほどこして、装飾したのが『金継ぎ』なのです。
そう考えると、壊れたうつわを漆で再生するということは、ただ「直す」「元に戻す」ということだけではないのかもしれない。あたらしくいのちを吹き込む。そこに、使い手や、金継ぎ師さんの想いが加わっていく。できあがったものはきっと、何十層もの心が重なったうつわになる。
さらに、実用的なことをいうと、本漆でおこなう金継ぎは、「耐久性」と「安全性」が大きく違います。
漆は一度固まると、酸にもアルカリにも石油系の溶剤にも溶けることはない丈夫な塗膜をつくります。抗菌作用も持ち合わせているので、口につけたり食材を盛る食器として使っても安心だといわれています。「お重にいれると食べ物が腐りにくい」といわれるのは、このためですね。
見た目でいうと、「色」も違います。
すこし専門的な話になりますが、作業の工程で、麦漆(接着剤)、刻苧漆(パテ)、錆漆(ペースト)と3種類もの漆を重ねて層にしているため、どっしりと重みがあるような色合いです。耐久性がある理由、ここにもありそうな気がしています。
日本で漆が使われるようになったのは、縄文時代。食器や装飾品などからはじまって、それから漆の技術が発達し、茶道やハレの日に使われる道具として活躍してきました。
一方で、陶芸の歴史も縄文時代の土器からはじまったものの、日本で盛んにつくられるようになったのが鎌倉時代からなので、そう考えると漆の歴史はさらに深いことがわかりますね。
金継ぎ師、稲多加恵さんのこと
さて、今回草々で金継ぎを担当してくれる「稲多加恵」さんを紹介します。
彼女は京都の岩倉で活動する金継ぎ師さんです。
稲多さんは、幼いころから手を動かすこと、とくに「直すこと」が好きで、洋服の繕いからイスの張り替えなどに夢中になっていました。
それは、お母さんの影響が大きいといいます。
稲多さんのお母さんはよく、あらゆるものをつくったり直したりしていました。身の回りの小物はほぼお母さんの手作りで、洋服は破れたら縫い直してまた着る、電化製品も壊れたら修理して使う。傘も、近所の傘屋さんに直してもらった記憶があるといいます。
当時は今よりも「もの」がなかった時代。暮らしのなかで色々な工夫をしながら遊ぶこと、楽しむことをお母さんの背中から教えてもらったと稲多さんはいいます。一つのものを長く大切に扱うこと、そこから得た経験や学びは大きかった。そうして自然とたどりついたのが、「金継ぎ」でした。
稲多さんは金継ぎ師を目指すために、京都市内の金継ぎ教室へ通い学びながら、陶芸の訓練校にも通いました。金継ぎを極めるためにはやはり、陶磁器の知識も必要だと感じたからです。
しかし、そこでは予想外のことが起こりました。たくさんのうつわが廃棄されていく現実を見たのです。学生たちがろくろで挽いて焼いて失敗したうつわがどんどん積み重なり、捨てられていく。土は一度焼いてしまったらもう元には戻らない。つまり、自然に返すことができないので捨てるしかないのです。
そんな現実を見て、ますます「直すこと」を仕事にしたいという想いが強まった。そこから、本格的に金継ぎ師として独立しました。
私が稲多さんに初めて会ったとき、朗らかな人だなぁという印象でした。しかし、金継ぎ師としてうつわに向かっているときの表情はまったく違ったものでした。
小さな欠けに何時間もかけて向き合う。細かく手を動かし、ときにはうまくいかないこともありながら、冷静に補修の工程を進めていく。
稲多さんは、こういいます。
本気でうつわを直したい人、ぜひお問合せください
ということで、今日から草々で金継ぎを受け付けます。
その前に一つだけ「知っておいてほしいこと」があります。
それは、本漆金継ぎ(伝統的金継ぎ)は、とにかくたくさんの時間がかかるということです。私も実際に体験してわかったことなのですが、道具の準備からはじまって、漆をこねて接着剤をつくり、壊れた部分につけては削り、つけては削りの繰り返し。漆はすぐにつかないので、一つの作業が終わるごとに1週間〜2週間ほど寝かせる。どんなに早くても確実に1ヶ月以上はかかります。
先日陶芸家さんが「陶芸より時間かかるやんか!」と突っ込んでいたけど、まさにそうなのです。
だから、料金もそれなりにかかります。たとえば、3-4千円で買ったうつわの数センチの欠けを直したい場合、簡易金継ぎなら千円などでできるうつわも、本漆金継ぎの場合は買った値段よりアップする可能性が高いと思います。
それをふまえて、もし本気で直したいうつわがある人はぜひぜひ私たちに託してもらえたらうれしいです。
【問い合わせ方法】
こちらのアドレスに、
sousou.nara0408@gmail.com
・お名前
・電話番号
・直したいうつわの欠け、または割れのサイズ(円周をメジャーなどで測ってください)
・写真
をご記入の上、タイトルに「金継ぎ見積もり依頼」と記載ください。納期と金額をお知らせいたします。草々で購入したうつわでなくてもOKで、遠方の方でも郵送で受け付けてみようと思います。また、お店に持ってきていただいても大丈夫です。お預かりして後日ご連絡いたします。
初めてのことで、色々あたふたすることもあるかもしれませんが、あたたかく見守ってくださるとうれしいです。心を込めてお直しします。
毎度長くなってすみませんが、さいごに一つ、密かに思い描いている夢の話をしていいですか。
数年後には、いつか草々で「金継ぎだけの展示会」をやりたいんです。欠け、割れ、ヒビ..それぞれの表情が沁み込んだうつわの物語を、同じ場所に集わせる展示会をやってみたい。価格もつけられない、世界にひとつだけの「一点もの」を集めてみたい。はぁ、なんだかすごくないですか。想像するだけでもワクワクしちゃいます。やりたいやりたいやりたい..。
ということで、どしどしお問合せお待ちしています。
草々からたくさんのうつわの物語がはじまりますように。
過去の修繕例はこちらのインスタグラムにのせています↓
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うつわと暮らしのお店「草々」
住所:〒630-0101 奈良県生駒市高山町7782-3
営業日:木・金・土 11:00-16:00
▼インスタグラム
https://www.instagram.com/sousou_nara/
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