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【書評】「失敗の本質」

昭和59年に出版された「失敗の本質」という本の内容をまとめたレビューです。敗戦から75年経ち、戦争を経験した世代はどんどん少なくなってます。「敗戦から日本は何を学び、それを活かしているのか」という視点で、この記事を読んで頂けたら幸いです。

本書は日本の敗戦から、失敗の本質を書いた一冊。
開戦した後の日本の戦い方と負け方を研究対象にしている。日本軍の組織的な失敗を、現代の組織にとっての教訓あるいは反面教師として活用してもらうことを目的としている。

それぞれの敗北の共通点
①作戦目的が曖昧
②中央と現地とのコミュニケーションが有効に機能しない
③情報に対して独善的に解釈
④戦闘では過度に精神主義が誇張された 

不測の事態が発生したとき、それに瞬時に有効かつ適切に反応できたかた否かが勝負を分ける。


1章 失敗の事例研究 

①ノモンハン事件 

日本軍にとってはじめての大敗北。
昭和14年、満州でソ連と戦争。
ソ連が大兵力を展開する事はないと言う先入観にとらわれていた。満洲の関東軍が独断先行し、中央本部と関東軍が対立。関東軍が戦況を楽観視しすぎており、損害は増え続けた。中央本部の指示は不明確なものが多く、成り行き任せ。また関東軍の地位を尊重して、作戦中止命令を出さなかった。敵を知らず、己を知らず、大敵を侮っていた。

②ミッドウェー海戦 

太平洋をめぐる日米戦のターニングポイント。
昭和17年、東太平洋での海上戦。
兵力差で劣っていた米軍は、日本軍の暗号解読に成功、攻撃を事前に察知。情報収集力が最初の明暗を分けた。攻撃判断のスピードがアメリカのほうがはるかに早かった。戦争は錯誤の連続である。計画と実際のパフォーマンスとのギャップをどこまで小さくできるか。真珠湾攻撃で逃れた米海軍を殲滅するための戦争だったのに、司令官の判断で目的がミッドウェー攻略になっていた。

③ガダルカナル戦 

陸戦のターニングポイント。陸戦で米国に初めて負けた。
昭和17年、南太平洋の島での戦争。
失敗の原因は、情報不足と戦力の逐次投入、陸軍と海軍がバラバラの状態で戦ったこと。米軍は水陸両用という新戦術を開発。日本軍は気づかず、敵は弱いと思い込んでいた。結果、大敗北し、新たに来た司令官たちは戦力差を認めようとせず、一度失敗した作戦を再度決行した。誤った情報が交錯。誰も撤退を明言しない。戦略的なグランドデザインの欠如。個人的な戦闘技術は日本の方が上、しかし通信システムや組織的連携では米軍が上。

④インパール作戦 

しなくてもよかった作戦。戦略的合理性がない。
昭和19年、ビルマの防衛戦。
イギリスとインド軍と交戦。敵を過小評価。防衛戦のはずだったのに、司令官の構想でインドへの侵略攻撃に変わってしまった(司令官の独断専行)。無謀な作戦を中央本部も認可、指示も曖昧で現場が勝手に解釈。軍事的合理性よりも、人間関係と組織内の融和を重んじてしまった。つまり組織内の忖度が働いた。合理性がない方針ありきで、勝利へのプランは辻褄を合わせるものに過ぎなかった。杜撰な作戦計画であり、コンティンジェンシープラン(不測の事態に備えた計画)がないため、作戦の柔軟性と堅実性を欠いていた。 

⑤レイテ海戦 

自己認識の失敗。
昭和19年、フィリピンのレイテ島で米軍を迎撃するための作戦。世界の海戦史上でも最大級規模。戦艦「大和」「武蔵」を投入。特攻も行われた。
日本海軍内における連絡不足による相互不信。誤った情報や不正確な情報に基づく司令官の想像によって、状況判断されてしまった。物的資源及び人的資源で、日本軍は米軍に比べ圧倒的劣勢の状況。作戦成功のための前提は、まず何よりも作戦目的の明確化、その目的が主要メンバーに共有されていること、目的遂行のための自分の任務の認識が正確になされていること。作戦の立案者と遂行者の間に戦略目的について重大な認識の不一致があった。

⑥沖縄戦 

終局段階での失敗。
昭和20年、沖縄の防衛戦。日米最後の激突。
相変わらず作戦目的が曖昧。中央本部と沖縄の現地軍の間に認識のズレがあり、意思が統一されていなかった。沖縄軍と他の日本軍と間で不信感。中央本部は航空戦至上主義、現地軍は地上戦重視主義と「あるべき姿」論と「生の姿」論が違っていた。現地軍の中で、作戦を維持するか変更するか内部分裂した。中央本部は机上の空論に終始し、希望的観測が多かった。


2章 失敗の本質 

戦略上の失敗要因分析 

①曖昧な戦略目的

目的と手段とは正しく適合していなければならない。目的を明確にしリソースを集中するのが大切。作戦目的に関する全軍的一致を確立することに失敗。妥協による折衷案を採用。アメリカと違い日本は常に曖昧な目的で戦っていた。

②短期決戦の戦略志向

長期的な見通しがない。決戦に勝利したとしてそれで戦争が終わるのか、また万が一にも負けた場合にはどうなるのかは検討されなかった。攻撃に特化しすぎて情報、諜報、索敵、補給、兵站を軽視。

③主観的で帰納的な戦略策定

日本軍の戦略策定は情緒や空気が支配し、合理的な議論はされなかった。日本軍には初めからグランドデザインがなく、状況ごとに場当たり的に対応して結果を積み上げていく思考方法が得意であった。客観的な現実を直視せず、戦略の修正を迅速に行わなかった。近代戦に関する戦略の概念も海外から輸入した。問題は、そうした概念を十分に咀嚼し、自ら血肉にせず、そこから新しい概念を創造する力が欠けていたこと。 

④狭くて進化のない戦略オプション

日本軍は兵士の連動を高め、アメリカは科学技術を駆使した。日露戦争で勝利した戦術から日本軍は何も変えなかった。環境変化に適応して戦略を進化させる必要がある。兵器は、零戦などの航空機は世界でも高水準、銃などは時代遅れであり、総合的なバランスが悪い。(ガラパゴス化) 

組織上の失敗要因分析 

①人的ネットワーク編重の組織構造

明確な命令を行わない(微妙な表現ばかり)。陸軍では幕僚制によって、意思決定が遅い。日本軍の組織構造上の特性は「集団主義」。対人関係への配慮が優先され、目標や達成のための合理的な追求をしないため、判断がアメリカに比べて圧倒的に遅い。アメリカは人事配置も柔軟、日本は序列を守る。

②属人的な組織の統合

陸軍・海軍・空軍がシナジーを発揮せず、むしろ対立していた。両者を統合させるためのコントロール機関が存在しない。トップの個人による統合がなされたが、原理原則を欠いた組織運営になり、計画的かつ体系的な統合はできなかった。 

③学習を軽視した組織

日本軍は、失敗のデータの蓄積や伝播を組織的に行うシステムが欠如していた。失敗から学ぶ姿勢がなく、物事を科学的かつ客観的に見るという基本姿勢が決定的になかった。軍人の教育においても、大事にされるのは方法や手段であり、目的や目標については重視されなかった。

④プロセスや動機を重視した評価

責任を問わない組織。責任の取り方は転勤という手段で行われた。しかし転勤しても、その後要職についていた。結果よりもプロセス、やる気が評価された。個人責任の不明確さは、評価をあいまいにした。評価の曖昧さは組織的な学習を阻害し、論理よりも声の大きな者の突出を許した。


3章 失敗の教訓 

組織的な環境適応の失敗の原因 

環境、戦略、資源、組織構造、管理システム、組織行動、組織学習が組織のパフォーマンスを決める。戦略や資源や組織が環境に適合していないことが分かっても、自己変革を遂げることができなかった。組織は環境の変化に合わせて、自らの戦略を主体的に変革する必要がある。 

①日本軍の環境適応 

逆説的だが、日本軍は環境に適応しすぎて失敗した。戦略や戦術の原型が、組織メンバーの共有された行動様式にまで徹底して高められていた。
昇進システムは年功序列。米軍のような能力主義による思い切った抜擢人事はなかった。年功序列型の組織では人的つながりができやすく、リーダーの過去の成功体験が蓄積されやすい。その結果古い価値観が伝承され、日常化されやすい。組織が新しい環境変化に直面した時に最も困難の課題は、これまでの組織文化をどう変革するか。 

②自己革新組織の原則と日本軍の失敗 

適応力のある組織は環境を利用して、絶えず組織内に変異、緊張、危機感を発生させている。米軍は現場に自律性を与える代わりに、業績評価を明確にしていた。現状に対して創造的破壊を続けられる組織が強い。日本軍には悲壮感が強く、余裕や遊びの精神がなかった。イノベーションは異質なヒト、情報、偶然を取り込むところに始まる。日本軍は異端者を嫌い、異端や偶然の要素を徹底的に排除した。失敗の蓄積や伝播を組織的に行うリーダーシップとシステムがなかった。日本軍の最大の失敗は、特定の戦略原型に適応しすぎて自己革新能力を失ってしまったこと。


レビュー

★5つ!

日本軍の失敗は残念ながら、現代の会社組織に当てはまる点が多い。ガラパゴス化はガラケーが象徴。失敗の蓄積と共有ができてない点は、働きながら感じている。果たして日本は、敗戦という最大級の失敗を教訓にできているのだろうか?


この本を読んで、第二次世界大戦についてもWikipediaで調べてみました。レイテ海戦、そして戦争終期には特攻という常軌を逸した自爆攻撃が常態化した日本。そんな特攻隊に初めて任命された関行男さんの言葉に心を動かされたので、最後に掲載しておきます。

報道班員、日本もおしまいだよ。僕のような優秀なパイロットを殺すなんて。僕なら体当たりせずとも、敵空母の飛行甲板に50番(500キロ爆弾)を命中させる自信がある。僕は天皇陛下のためとか、日本帝国のためとかで行くんじゃない。最愛のKA(海軍の隠語で妻)のために行くんだ。僕は彼女を護るために死ぬんだ。最愛の者のために死ぬ。どうだ。素晴らしいだろう。              -関行男

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