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[創作ショート] 畑野さんのジョージ

あーーー、頭おっもい。

身体をベッドから無理やり引き剥がす。
朝だというのに空気はよどんでるし、工事の音がうるさい。

不眠三日目、とにかく身体がだるい。
こんな日はあいつが来てしまう。

『わいやねん。ジョージやねん。』

いや、誰?

『自分、呼び出しておいてそれは酷ない?』

ベッドの下から黒い霧の塊が現れる。

本当はわかってる。
寝不足になると現れるのが、自称ジョージ。
うさんくさい関西弁を話す黒い塊だ。

ジョージは寝不足により生み出された、わたしの幻覚、妄想だった。

エセ関西弁なのは、テレビでみる芸人の真似をしているから。
わたしは関東出身だ。



「おはようございます…」

寝不足ゆえに声を出す元気がない。
出社して、細い声で挨拶していく。

「畑野さん、おはようー。」

『同じ課のエースの北川さんやん。美人なのに成績もええなんて、神は罪やなあ。』

ジョージが話す。

「おはよう畑野さん。そういえば、あの仕事どうなった?終わった?」

『上司の佐藤さんやな。せっついてきて、うっさいわ。そんなん自分でやればええやん。』

黒い塊が佐藤さんの顔にかぶさる。

会社に来てもこれだ。
仕事にならない。

ジョージは口調こそエセ関西弁だけど、わたしの気持ちを代弁している。

会社はいわゆるホワイト企業。
同僚のみんなも悪い人じゃない。
なのに、さまざまな悪態がわたしの代わりにジョージの口から出てくる。

わたしは何に追い詰められているんだろう。

「はたのさん。」

デスクについて仕事をしていたら、安西さんから肩を叩かれた。

安西さんは2つ上の先輩。課が違うからほとんど話したことがない。

黒い塊がわたしの横にきて口を開こうとする。
口はないけど。

「大丈夫?顔色悪いようだけど。」

安西さんの顔をみた。
心配そうな瞳とぶつかった。

ジョージは口を開くことなく横にいる。
なぜか、おとなしい。

「あ…大丈夫です。」

思った以上にか細い声がでた。
恥ずかしい。

安西さんは少し考えると、わたしの手を取った。

「手も冷たいし、体調悪いみたいだよ。」

安西さんはもう一度考えるように下を見てから、

「大丈夫だよ。」

そういった。

「大丈夫。ゆっくり休んでいいんだよ。体調わるいときは無理しないでね。」

安西さんの手は温かい。
思わず泣きそうになった。

『…ええやつやん。』

小さくジョージの声が聞こえた。
横を見ると、何回か震えて、そして黒い塊は消えていった。

結局、会社を早退することにした。
よっぽど顔色が悪かったのか、すんなり休みが取れた。

家に帰ってベッドに入る。

温かい布団に包まれて目を閉じた。

「大丈夫。」

つぶやいてみた。

『大丈夫。』

もう一度こころの中で。

うん。今日はよく眠れる気がする。


おわり。

(1077文字)
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おわれ。

半ばパニックになりながら書きました。
ショート書くなんて、なんで言ってしまったんや!と。

今回は、ピリカさんしゅしゃい(動揺が隠せない)のピリカルーキーへの応募作品です。「睡眠」をテーマに800~1200文字のショートショートを募集されています。

創作の逃げられない感はすごいですね。
丸裸です。(どういうこと。)

ジョージはさておき、半分は実話です。
寝れないって辛いんですよね。

ただ、辛いときには必ず優しくしてくれる人が現れるので救われます。
そんな話を書いてみました。

ピリカさん、企画のお誘いありがとうございました(^^)


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