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「か・け・ふ」の捉え方に表れる経営者のマインド

先日とあるところで「か・け・ふ」という言葉が出てきました。これは、伊藤忠商事の岡藤会長の言葉です。「参考にして経営を進めてきた」と若い経営者の方がおっしゃっていました。ただ、あのミスタータイガース掛布雅之選手のことは知らないようでした。

伊藤忠商事の商いの三原則

この「か・け・ふ」とは、岡藤会長の説く商いの三原則で[稼ぐ・削る・防ぐ]の頭文字をとっています。伊藤忠商事のホームページにも出ています。

すこし抜粋してみます(太字はわたしによるものです)。

伊藤忠商事が掲げる商いの三原則『か・け・ふ』。
それは「 稼ぐ・削る・防ぐ」を意味しています。
稼ぐは商人の本能。削るは商人の基本。防ぐは商人の肝。
その3つが支え合って成立するものです。

3つそれぞれについての解説は以下の通りです。

かせぐ
精出して、働くこと。働いて、お金を得ること。
総合商社において、商人になる者は
まるで走るために生まれた駿馬(しゅんめ)のように、
根っから稼ぐことが好きであるのが望ましい。

けずる
少しずつ減らすこと。とりのぞくこと。
総合商社において「削る」は商いの基本。
余計な支出。無駄な会議。不要な接待。多すぎる残業。
削る、削る、トントン削る。

ふせぐ
さえぎって、食い止めること。
害を受けないようにすること。
総合商社において「防ぐ」ということは
なにを隠そう「稼ぐ、削る」ことより難しく、最重要。
これこそ商いの肝となる。

これが社内で共通言語になって徹底されていると強いですよね。与えられた仕事をするのではなく、自らの働きが会社を成り立たせているという使命感を持てるように思います。

商いの本質は損得勘定ではない

冒頭の若い経営者は、「か・け・ふ」を引用して、「うちは稼ぐのは得意。売上にこだわっている。一方でコスト意識が低い。ミスも多く支出を防ぎきれていない」という話をしていました。実は、この話にわたしは違和感を覚えました。「果たして、コスト削減の話だけで『か・け・ふ』捉えて良いのだろうか」と感じたのです。

伊藤忠商事には、「三方よし」という考えもあります。「売り手よし、買い手よし、世間よし」という近江商人の商いの心得です。

こちらも伊藤忠商事のホームページから引用です。創業160周年の2019年の正月広告です。

創業者、初代伊藤忠兵衛は、この「三方よし」の哲学を
160年前の創業時から大切に唱えつづけ、一生をかけて実行した人だった。
「商売道の尊さは、売り買い何れをも益し、世の不足をうずめ、
御仏の心にかなうもの」
という共存共栄の精神である。
これを実践するにあたり、彼はまず働く者を家族のように大切にした。
毎月1と6のつく日に社員にスキヤキをふるまい、
自宅に住まわせ、教育に尽力した。
この家族主義経営は色あせることなく、むしろ今の時代にも適う
普遍的な精神として、創業160年目の現在へと受け継がれている。
一人ひとりが健康で合理的に働き、正しく稼ぐことができれば、
結果、世の為になる
。今、取り組んでいる働き方改革も、
この考えの延長線上にあるんじゃないかと思う。
「三方よし」は、みんなを未来へと運んでいく。

商売人としてまっとうに働くことを通じて、世のため人のためになろうという精神が根底にあります。したがって、「か・け・ふ」をただの損得勘定と捉えてしまうとその本質を見失います。

松下幸之助さんは著書「実践経営哲学」の「使命を正しく認識すること」という項の中で以下のように述べています。

 確かに利益というものは、健全な事業活動を行なっていく上で欠かすことのできない大切なものである。
 しかし、それ自体が究極の目的かというと、そうではない。根本は、その事業を通じて共同生活の向上をはかるというところにあるのであって、その根本の使命をよりよく遂行していく上で、利益というものが大切になってくるのであり、そこのところを取り違えてはならない。

経営者しての使命を一歩踏み込んで考え続ける

確かに利益は大切。売上を高めて、コストを下げて、ムダを省いて…これも間違いなく大切。特に社員にはそういう意味合いで「か・け・ふ」といった方がインパクトがあります。これが、現場のマネジャーなら、まあ良いでしょう。ただ、経営者としては物足りない。何のために、稼ぎ、削り、防ぐのか、そのことによってどのようにお客様の役に立ちたいのか、その使命に立ち返りたいものです。

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