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【読書メモ】パーパス経営: 30年先の視点から現在を捉える

パーパスを「志」としたところが本書の一番の主張です。

名和高司さんの著書に触れたのは10年以上も前。「学習優位の経営」が最初でした。日本企業ならではの現場で知恵を生みだしていく力こそが重要だという主張が印象に残っています。その時も問題意識として「失われた10年を抜け出したのも束の間…」といったことが冒頭に書かれていました。

本書においては、「失われた30年を経て」となります。そして、コロナ後の世界で、日本企業がどうあるべきかが語られています。その中での大きな主張は、失った「志」を取り戻せ、ということです。

印象に残ったことをひとつだけあげるとすれば

本書では、失われた30年は、3つの病の合併症によって引き起こされたとしています。

1つ目は「グローバルスタンダード病」。アメリカで流行ったものをそのまま取り入れるだけ、という病。

2つ目は、DXの本質を取違えていること。一つ目に似ていますが、手段としてデジタルを取り入れても機能しません。事業のあり方を変革することがDXの本質だ、という主張です。

そして、3つ目。

そして第三の病は、志の喪失だ。自分たちは何のために存在しているのか。自分たちしかできないことは何か。そんなほとばしるような熱い想いが伝わってくる日本企業は、絶滅危惧種となってしまった。昭和を疾走し、世界のトップランナーに躍り出た企業群ですら、平成に入ってすっかり去勢されたかのようだ。平成生まれのベンチャー企業の多くは今や跡形もなく、生き残ったところも世界に大きなインパクトをもたらそうとしている企業は皆無に近い。

1つ目、2つ目は、本質的な改革ができずに、安易に手段に頼っていることを指摘していますが、3つ目は「志の喪失」です。著者は、合併症と書いていますが、これがすべてだろうと思います。

本書のタイトル自体は「パーパス経営」です。この「パーパス」は、ちょっとしたバズワードになっているきらいがあります。そのパーパスを「志」と捉え、「資本主義」経営ではなく、「志本主義」こそが日本企業の本来の姿と主張しています。

失われた30年の入り口で「志」など考えてもみなかった

わたし自身、バブル崩壊後の氷河期に就職しました。「失われた」時代を歩いて来たことになります。

実際、大学を卒業すれば、普通に就職できるものと考えて入学しました。しかし、急に状況が変わりました。でもそれは、単に考えが甘い若者だったからです。「志」など、ありませんでした。

入試や就職活動でそれなりに志望動機は考えてはいましたが、漠然とした憧れだけです。就活においては、周囲が急に日経新聞を読み始めたり、面接の対策をしたりという状況についていけませんでした。どこか冷ややかな気持ちでそれを見てました。しかし、一方で、いざ面接となれば、なにか「正解」を言って認めてもらわなければならない、そんな気持ちに支配されていました。

社会に出るにあたって、多くの人が「志」に向き合うことなく、歳を重ねていったのかもしれません。バブルは終わったけど、成功体験の余韻がありました。そのうち良くなるだろうと思考停止に陥ります。いわゆるゆでガエル状態です。

志に向き合う機会を失っていないか

わたしは、いろんな縁に恵まれて、志の高い経営者と仕事をするようになりました。その共通の特徴は、慢心しないこと。経営者として難しい局面を乗り越えてきた方ばかりです。

その危機からの回復を振返ると、「BtoBからBtoCにシフトした」「コアとなる技術を徹底して磨いた」「ITを活用した」など後知恵で成功要因を見出すことはできます。しかし、当の本人からすれば必死だっただけです。会社をつぶしてなるものか、という必死さです。なかなか光が見えない、そんな中で、いったい「何のために俺は社長をやってるのだろう」と悩みつづけます。

この「何のために」が大切なのだと思います。真剣に向き合って、「これしかやり様がない、やるしかない」と覚悟を定めていくのです。多くの優秀な経営者から、そうしたターニングポイントを聴いてきました。

失われた30年の間には、危機も当然ありました。リーマンショックや東日本大震災、そして今回のコロナショックです。毎回、乗り越えてきてはいます。では、今回のコロナ禍の初動において、また、ワクチンの一連の政策について、震災や原発事故の教訓はどれだけ生きたのでしょうか。緊急時、危機時にアクションをする覚悟は育っていたのでしょうか。

本書の中では『「志」というと胡散臭い目で見られる風潮がある』という言葉があります。幸いにしてわたしの周囲には、「志」を大切にしている経営者ばかりです。何のための会社なのか、何のための社長のか、常に向き合い、志を高め、覚悟を育てています。その一歩一歩を共に歩むのが、わたしの「志」です。

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