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アンパンマンとバイキンマンが教えてくれる共生の知恵

会社の仲間と志や使命について話しているなかでひょんなことからアンパンマンの話になりました。

なぜならば、この歌が降りてきたからです。

なんのために生まれて なにをして生きるのか
こたえられないなんて そんなのはいやだ!

アンパンマンマーチの一節です。この歌詞は、自分の命をどう使うのか、ということを問うています。これは、アンパンマンのテーマソングです。そして、作者である、やなせたかしさんのテーマでもあります。

逆転しない正義

アンパンマンの使命は何でしょうか? 
バイキンマンをやっつけること?

…違います。
自分の顔を食べてもらって、みんなを元気にすることです。

アンパンマンの生みの親であるやなせたかしさんは著書にこのように書いています。

正義のための戦いなんてどこにもないのだ。
正義はある日突然逆転する。
正義は信じがたい。

ぼくは、骨身に徹してこのことを知った。これがぼくの戦後の思想の基本になる。
逆転しない正義とは、献身と愛だ。それも決して大げさなことではなく、目の前に餓死しそうな人がいるとすれば、その人に一片のパンを与えること。
                     出典:アンパンマンの遺書

これは、やなせさんが戦争と戦後の体験から悟ったことです。


アンパンマンとバイキンマン

やなせさんの思想は、当然のことながら作品に表れています。
アンパンマンが誕生する記念すべき第1話を仙台のアンパンマンミュージアムで見たことがあります。ジャムおじさんのつくるパンに命の星が宿り、彼が生まれます。彼は最初、この世に生まれた目的などありませんでした。

ある日、崖から落ちたジャムおじさんを救ったことで自分の使命に気づきます。自分に芽生えたあったかい心が、自分が大切にしたいことだと気づいたのです。

そして自分ができることをはじめます。困った人に自分の顔の一片を差し出す。本当に逆転しない正義の姿がまさに描かれています。

一方、バイキンマンの描かれ方は対照的です。バイキンマンはその誕生の時から「おれ様は、バイキンマン。アンパンマンをやっつけるために生まれてきたのだ。」と言っています。生まれながらにして自分の使命を理解しているように見えます。

ただし、彼の言っていることは利己的です。自分の欲求を邪魔するアンパンマンをやっつけようとしているのに過ぎません。彼が言うところの使命は、アンパンマンがいなくなったら成立しません。

そんなバイキンマンですが、子どもたちに人気があります。憎めないやつなのです。実際のところ、ドキンちゃんには頭が上がらなかったり、彼女に対して「献身」と思えるような行動もします。ドキンちゃんも身勝手でわがままです。そういう意味では、バイキンマンやドキンちゃんは誰の心にも備わっている「欲」の表れなのでしょう。

人類が紡いできた共生の知恵

やなせたかしさんは、別の著書でこのように語っています。

ばいきんまんの登場によって、アンパンマンに、もうひとつのメッセージが生まれた。「共生」だ。
 バイキンは食べ物の敵ではあるけれど、実は、パンだって酵母菌がないとつくれない。バイキンも、食べ物がないと繁殖できない。
 つまり、パンとバイキンは、敵だけれど味方、味方だけど敵という共生関係にあるわけだ。
 これは、われわれ人間にも言える。バイキンが絶滅すればいいのかというと、実はダメなのだ。人間も生きられなくなる。
 人の体内にはおびただしい数のバイキンが生きている。健康な人は、バイキンと戦いながら、両方が拮抗して、ある種のバランスを保って生きている。
 一度戦った細菌やウイルスに対して免疫ができる場合もある。だが、これで安心かというとそうではなく、次から次へと新型ウイルスが出現し、人は永遠にそれらと戦っていくことになる。
 そうした戦いをせずに、ウイルスや菌と共生する知恵、それがワクチンだ。こうして敵対するものとも共生していく。それが人間の知恵のすばらしさなのである。
               出典:やなせたかし 明日をひらく言葉

これは、初版が2012年の本です。今回の様なコロナ禍に見舞われる前から、やなせたかしさんは、このような言葉を残していました。その根底にあるのは、戦争体験を通じて捉えた「正義はある日突然逆転する」という思想でしょう。

それは、一方的な暴力をただ憎むということではありません。もちろんそれを肯定しているのでもありません。争いがおこるとすれば、共生する知恵が足りない、ということです。

私たちの日常には、受け入れられない事実や自分の中の矛盾、他者と分かり合えない葛藤などが、当たり前のように存在します。それらを素直に受け入れて共に歩むための知恵を紡ぐこと。それが、私のコンサルタントとしての使命です。

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