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「まずはじめに、適切な人をバスに乗せる」ことの真意とは

「パートさんに、すごく優秀な人がいてね、正社員になってもらわないと割に合わないなと思っていて。こういう人の給料ってどうやって決めます?」

ある経営者からそんなことを聞かれました。
この会社は味噌屋さんです。味噌そのものの販売はもちろん、自社の味噌を使った料理やスイーツをお店で手作りして提供しています。

そのお店で採用したパートの方が、とても料理が上手なのだそうです。味噌を使った手作りプリンやキッシュなどを次々に開発していくとのこと。そしてとうとう、お店を少し改装して、その人の背丈でしつらえたキッチンまで作ってしまいました。

なるほど、そこまで来るとパートというレベルではありません。
さて、ではお給料をいくらにするべきなのか。

直観的に「仮にその業務をアウトソースするとしたらいくら払います?」と問いました。少なくとも検討の起点にはなるだろうという発想でした。しかし、この問いを立てると、別の問いが立ちあがります。

「じゃあ、正社員と外注することの違いって何なんだ?」
外注は、仕事ありき。「こういう目的で事業をやるので、こんなアウトプットをください」ですね。

さて、正社員はどうでしょう? 仕事ありきでしょうか? 

仕事ありきだとしても、その仕事がいつまでもあるとは限りません。
美味しいスイーツで、お客さんも喜んでくれています。ただ、世の中も社会も常に変化します。
これは、仕事がなくなるということだけではなく、もっと良いものに発展させるということでもあります。

さらには、仕事は一人でやるわけではない。売れて行けば、業務を分担する必要も出てくるでしょう。そうなってくると、彼女には誰かを育てることも期待されます。また、誰かと協力し合ったら、また何か新しい事業のアイディアも出てくるかもしれません。

「社長は、この方を仲間にしたいと感じてらっしゃるのではないですか?」

そう問いかけると妙に納得されていました。社長が悩んでいたのは、給料をいくらにすべきかではなく、この方との関係性をどう築いていくかということだったようです。


話を続けていると社長から「まずは、適切な人間をバスに乗せろって『ビジョナリーカンパニー』にも出てきますよね」という言葉が出てきました。

偉大な企業への飛躍をもたらした経営者は、まずはじめにバスの目的地を決め、つぎに目的地までの旅をともにする人びとをバスに乗せる方法をとったわけではない。まずはじめに、適切な人をバスに乗せ、不適切な人をバスから降ろし、その後にどこに向かうべきかを決めている。要するに、こう言ったのである。「このバスでどこに行くべきかは分からない。しかし、分かっていることもある。適切な人がバスに乗り、適切な人がそれぞれふさわしい席につき、不適切な人がバスから降りれば、素晴らしい場所に行く方法を決められるはずだ

出典:『ビジョナリー・カンパニー2』ジム・コリンズ

この「まずはじめに、適切な人をバスに乗せろ」は、一読すると違和感があります。仲間と話していても、「ちょっと意外」「そんなことできるかな」など腑に落とすのが難しい一節です。

注意深く読むとバスの「目的地」を最初に決めるのではないとあります。つまり、「バス」はあるのです。ここでいう「バス」は会社です。どこへ行くか、目的地は決まっていないけど、ある理念や世の中への貢献意識から生まれた乗り物はあるのです。

社長との対話を振り返りながらこの一節を読むと、私たちのなかに「ある事業のために経営者が人を選ぶ」という隠れた前提があるように思いました。そうであるならば、アウトソースで良いのです。

社員として、つまり仲間になってほしいということはどういうことでしょうか。「一緒にバスに乗ってみたら、行くべきところが分かってきた、じゃあ、行ってみよう。あなたをバスに乗せてよかった。」ということなのだと思います。

会社というバスは、ある目的をもって生まれます。ただ、その目的地=ゴールは常に変わります。なぜなら、私たちが走る世界は常に変わるからです。また、私たちが走ることで世界の見え方も変わります。そして、「では、次はあそこに行ってみよう」「じゃあ、今度はあの人も乗せてみよう」となっていくのではないでしょうか。

ただ、残念ながらそのバスには座席が限られています。むやみに座席を増やしても機動力に欠けるでしょう。そして、時に「違う人を乗せてしまったな」という現実に直面することもあります。一方で、「このバスじゃなかった」と降りる人もいるでしょう。もしかしたら、経営者自身も「俺がいつまでも乗ってちゃだめだな」なんということもあるかもしれません。

そういう意味でも、そう簡単に腑に落ちる話ではないのだと思います。でも、大切なことを考えさせてくれる話です。もう少し、いろんな人と話しながら向き合っていきたいと思います。

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