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お客様と共に紡いだ言葉で進化してきた

研修などのトレーニング理論の第一人者に、ロバート・パイクさんという方がいます。彼は、5段階で学習レベルを定義しています。

第1段階は「意識していないし、できない」
第2段階は「意識しているのにできない」
第3段階は「意識してできる」
第4段階は「意識しなくてもできる」です。

興味深いのは、最後の第5段階目。

意識しなくてもできることを意識レベルに落としこむ」です。

何かを身につけようとするとき、最初は意識する必要があります。そして、意識しなくてもよくなると身についた、ということになります。「じゃあ、その身につけたことを説明できますか?」 というのが第5段階の意味するところです。

自らのパフォーマンスの言語化が進化を促す

イチロー選手は、かつてインタビューの中で「自分の体がどのようにして球を捉えているのかを言葉にする意識的な積み重ねが今の自分をつくった」と言っていました。つまり、「意識しなくてもできることを意識レベルに落としこむ」のです。その積み重ねによって、彼が進化する瞬間がありました。彼はメジャーに行ってすぐ、ちょっとしたスランプになり、その時期に彼の代名詞だった振り子打法をやめています。メジャーのピッチャーに対応するために、踏み出す右足を振り子のように使ってつくるタメを「削除した」のです。これは、試しにやめてみたのではなく、明確な意図を持ってやめたそうです。

やっていることを言語化すると、進化につながります。イチロー選手の例は、自分の体のことについてです。感覚的になるところをあえて言葉にしたのですね。経営やビジネスにおいても、直観や感覚は大切ですが、一方で、あいまいな感覚を言語化する努力が大切です。言葉にすることで自分と向き合うことができます。それをしないと成功体験に捕らわれて進化が止まってしまいます

お客様の言葉をひたすら模造紙に書くという支援

コンサルタントとして駆け出しのころ、「課題ヒアリング」という取組みをしていました。毎日のように模造紙を持ってお客様のところへ行き、ひたすら課題を聴いて帰ってくる、という活動です。特徴的なのは、お客様のところへ模造紙とマジックペンを持っていくということです。会議室の壁一面にお客様がお話になったことを書いていきます。

図1

おおむね20~30枚。この際、何かのフレームにまとめたりしません。構造化もしません。聴いたことをそのままひたすら箇条書きで書いていきます。ほぼ一言一句に近い状態です。お客様も最初のうちは、「20枚も行くかなあ…」というのですが、少ない方でも15枚は行きます。お聞きするのは、経営や仕事のことですが、ご自身でも驚くくらい色々と出てきます。普段こういう時間を持てていないのですね。

だいたい、1時間くらいして、模造紙が15枚を超えてからが本番です。そのあたりから、本音がでてきます。お客様が模造紙を見ながら振返っているうちに「そういえば、○○とさっき言ったけど、それって実は…」のような言葉がでてくるのです。そこからが、自分と向き合う本質的な時間になっていきます。2時間ほどで終了しますが、「あっという間だった」「すっきりした」という感想をいただきます。こうした場を共有すると、こちらも相手の考えや価値観がよく分かります。聴きながら「あるある」と共感したり、他のお客様でも似たようなことがあったなあ、とか、逆に、他のお客様とはここが違う、なるほど、といった発見があります。

もちろん聴いて終わりではありません。発言をもとに課題を分析してレポーティングします。模造紙を持ち帰ったら、まずは、文字に起こします。そして発言を分類したり、発言間の因果関係を整理したりします。発言を分類する行為は、コンサルタントの解釈と言えます。そのことで、お客様が抱えている課題の本質や、目指したい本当の姿を見出していきます。

メモの魔力

最近、「このあたりは、自分でもまだ言語化できていないのですが…」といった発言に出会うことが増えたと感じています。なんとなく気になって「言語化」で検索したらこの本が紹介されていました。

例によって、Kindleで買って斜め読みしてしまっていた本です。改めて読んでみると著者の前田裕二さんはすさまじいメモの達人です。彼のメモは、「ファクト→抽象化→転用」という知的な活動を支える大切な習慣になっています。

よく「事実(ファクト)と意見を分けなさい」と言われます。これは聞く側からそのように指摘されることが多いと思います。ただ、このことは伝えるうえでの話だけではないのですね。自分の考えを進化させるためにも大切な習慣なのです。わたしが、課題ヒアリングで行っていたのは、お客様の「ファクト→抽象化→転用」の支援であり、また、自分自身の「ファクト→抽象化→転用」の実践でもあります。

そして聴き手側として大切なのは、共感的に聴くことです。これはもちろん、相手の視点に立つためですが、それとは別の効果があります。自分以外の視点にたって抽象化し、転用することが、自分にとってあらたな発見を生むのです。

紡いだ言葉が自分の仕事の信念になる

振返ってみると、駆け出しのころにやっていた活動によって、共感的に聴く技術とその積み重ねによる課題解決の知恵が進化していった実感があります。また、わたし自身が大切にしたいスタイルを発見することができました。それは「お客様の世界一のファンになる」ということです。もう少し深掘りして言語化すると、お客様が知らないお客様の強みを見出し、前に進むための知恵を生み出すこととなります。

noteを書くことも魔力がありますね。これからも、お客様から学んだことを紡いでいきたいと思います。

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