見出し画像

特定健診と予防医療

こんにちは!

KC看護アカデミア塾長の陀安です。

 暑い日が続きますね。みなさん、熱中症にならないように、くれぐれも健康にはお気をつけください。

 健康といえば「特定健診」。

 と無理やり話をつなげてみますが、私は近々「特定健診」を受ける予定です。

 「特定健診」とは「特定健康診査」の略称で、「メタボ健診」と呼ばれることもあります。現在、日本では「健康増進法」にもとづき、40歳以上の人は「特定健診」を受けるように定められています。

 今日は「特定健診」について少しお話してみようと思います。


「予防は治療に勝る」

 時代は戦後の日本にまでさかのぼります。

 かつて長野県に「農村医学の父」と呼ばれる医師がいました。若月俊一(わかつきとしかず)という医師です。優秀な外科医であった若月医師は、臼田町(うすだまち)という小さな町の佐久病院に赴任します。そして優れた技術で住民の怪我や病気を次から次へと治療していきます。しかし、農村の暮らしのなかで、彼は次のように思い至ります。

「住民自身がみずからの健康に対する意識を高め、生活を改善し、病気を未然に防ぐことのほうが、治療よりも大切なのではないか」

 そこで若月医師は農村中を出張回診し、全住民を対象とした健康調査を行いました。これは現在行われている「特定健診」のさきがけとなるものです。

 若月医師の思想は、「予防は治療に勝る」という彼自身の言葉に表れています。病気になってから医師にかかるのではなく、病気にならないように自ら生活を見直し、改善することのほうが大切であるという考え方です。

 若月に遅れること、およそ20年。世界保健機関(WHO)は「プライマリ・ヘルス・ケア」(PHC)という新しい概念を全世界に向けて提唱しました(1978年『アルマ・アタ宣言』)。

 「プライマリ」とは「前もって」「あらかじめ」という意味です。つまり、「プライマリ・ヘルス・ケア」とは「病気にならないように前もって自らの健康に留意すること」を意味します。これは若月の思想そのものと言えるでしょう。


予防医療

 その後、世界の医療は病気の予防を重視する方向に進みます。いわゆる「予防医療」です。

 予防医療は3つの段階から構成されます。

一次予防(健康増進)

病気にならないように、生活習慣を改善し、健康な身体づくりに努めること。

二次予防(早期発見・早期対処)

病気にかかったとしても、定期健診や検査でそれを早期に発見し、生活改善などを通じて病気の進行を防ぐこと。

三次予防(重症化予防・再発防止)

病気を治療する段階で、積極的にリハビリを行い、機能回復や再発防止に努めること。

 「特定健診」は、糖尿病、心臓病、脳卒中等の生活習慣病のリスクを評価するために行われる検査です。二次予防に該当します。検査の結果、リスクが高いと判定された人に対しては「特定保健指導」が行われます。「特定保健指導」の際には医師が生活習慣の改善(たとえば食事の見直し・禁煙等)をアドバイスします。

 「特定健診」と「特定保健指導」は、2008年から実施されるようになりました。会社勤めの人は、毎年会社から健診を促されます。自営業者なら自治体から健診の案内が郵送されてきます。

予防医療の意義

 こうした予防医療は、私たち一人一人にとって健康に過ごすために重要です。重症化してから大変な治療を受けるよりも、早期に発見し早期に治療するほうがよいのは明らかでしょう。

 また、医療費の抑制という観点からも予防医療には意義があります。病院や診療所で受診した際にかかる費用のことを医療費といいますが、国民全体の医療費の総計を国民医療費といいます。いま国民医療費は年間約44兆円にもなります。莫大な金額ですね。

 そのなかには大きな病気のための大手術の費用や、長期にわたる薬物治療の費用も含まれます。しかし、もし病気を早期に発見し、早期に治療を開始していたとしたらどうでしょう。小さな手術ですんだかもしれませんし、短期間の投薬治療で十分だったかもしれません。「特定健診」の狙いの一つはそこにあります。すなわち、病気を早期に発見することにより、かかる医療費を抑制することができるのではないか、という狙いです。

 医療費の抑制は、今後も高齢化が続く我が国にとって喫緊の課題です。高齢になればだれでも病気になるリスクが高まるからです。高齢化の進行とともに予想される国民医療費の膨張を抑えるという意味で、予防医療は国の医療政策にとって非常に重要なのです。

 今日は「特定健診」の背景についてお話しました。

 こんな話をしておいて恐縮ですが、とうに40歳を超えている私、じつは初めての「特定健診」です。予備校講師は自営業者なので自治体から案内が毎年送られてくるのですが、ついつい受診を怠っていました。

 自営業者の場合にはこのようなことがあり得るというのが、制度の課題なのかもしれませんね。

 今回も思いのほか長くなってしまいました。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。