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『人生の救い』 車谷長吉

人生相談の本です。

2009〜2012年にかけて、朝日新聞土曜版に「悩みのるつぼ」として掲載されたものを再構成したものです。
わたしも当時読んでいました。


人生の救い

タイトルに騙されて、うっかり救いを求めたら、手痛く裏切られるでしょう。


この世に救いなどないのだと、傷口に塩を擦り込むような苛烈さで教えてくれる車谷長吉くるまたにちょうきつ先生。


ご自身は 生まれつき鼻から息が出来ないという遺伝性の病気を抱えておられました。

二度の大手術でも完治せず、三度目の手術を行うなら、目の神経を切断しなければならない。
つまり鼻からの呼吸と引き換えに、盲人になるかという究極の選択を強いられたのです。


自分が人間に生まれたこと自体が、取り返しのつかない不幸なのだ。

これが根本にある考え方なのです。


この本の雰囲気を味わっていただくために回答編より、一部抜粋してみます。

 嘆くというのは、虫のいい考えです。考えが甘いのです。覚悟がないのです。この世の苦しみを知ったところからまことの人生は始まるのです。
 この世の生き物は、すべて死にます。しかるに、いずれ自分が死ぬことを知っているのは人だけです。これが人間の最大の不幸です。(中略)
 人はいずれ自分にも死が訪れることをあらかじめ知っているので、自分の死後も自分が存在したことを明示したいがために、芸術・哲学・文学の作品を、この世に残そうとします。


中でもわたしが一番興味深く読んだのが、

「小説が書きたいです」
という、年金生活者(71)の相談。ヒマに任せて、ということのようです。

回答編は「善人に小説は書けません」というタイトルです。

 人の頭脳は四種類に分けられます。頭のいい人、頭の悪い人、頭の強い人、頭の弱い人。
 この中で絶対小説を書くことができないのは「頭のいい人」です。ほかの三種類には書くことができ、一番向いているのは「頭の強い人」です。

趣味ならいいですが、作家になるには書くこと以外のすべてを捨てる必要があります。これは絶対必要条件です。それは苦痛を伴いますが、苦痛を感じれば人は真剣になります。心に血がにじむからです。

noteをやっていらっしゃる方の中には、プロを目指す方もおられます。


わたしはこの本を読んで、自分の座右の銘でもある

身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ

という言葉が思い浮かびました。

プロの作家になるということは、かくも険しい道なのでしょうか。

これを読んで怖気づくようでは、おそらく作家には向いてないのでしょう。

書くことが好きなこと、得意なことは大前提ですが、頭も心も強靭な人しか真の作家にはなれないのかもしれません。














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