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若者が口にする「自己実現」の不思議

「仕事で自己実現をする」という言葉を耳にすることがある。この場合の「自己実現」にはどのような意味が込められているのか。それにはまず、自己実現の定義が必要になる。会社員にとっての自己実現とは「昇進・昇格」「報酬」「研究」などが挙げられる。

これを落とし込めば次のようになるかも知れない。「昇進・昇格」=(例:30歳までに部長になる)、「報酬」=(例:年収1000万円を超える)、「研究」=(例:学会発表で表彰される)など。

社内に基準があれば規定することが容易である。自己実現の基準が決まったら、手に入れられるかは別として、目標に向かって行動するのみである。

しかし、これ以外のものが「自己実現」の対象になると厄介になってくる。自己実現の内容がわからないまま「こんなはずじゃなかった」「自分のやりたいことは違う」とフラストレーションだけがどんどん溜まってしまう。

若者と話をすると、会社の閉塞感や理不尽、人間関係の不満を口にする人が多いことに気がつく。現状に満たされていないのだ。社内で規定された「昇進・昇格」「報酬」「研究」の基準に価値を見出せていないことになる。

あくまでも経営の一般論として解説する。企業には資本の論理が存在する。だから利益を上げなくてはいけない。利益を増やすことでより豊かになるからである。利益が上がれば社会的信用が得られる。銀行から資金を借りる場合も好条件で融資が受けられる。

景気が悪くなっても、利益があれば不況の波に飲み込まれることもなく存続させることができる。利益があれば、より好条件の投資機会にも恵まれる。

誰もが、企業の論理と折り合いをつけるために努力をしている。会社に閉塞感があり理不尽が存在することは薄々わかっている。上司、同僚、部下との、人間関係に問題を抱えている人が少なくないことも事実だろう。

折り合いがつかない人は、次の言葉を口にする。

「この会社にいては自己実現ができない」

たしかにそうかも知れない。ところが、企業の論理はどの会社もそれほどは変わらない。いまの会社で難しいものが、他の会社で実現できる可能性はかなり低い。そのためには、どこかで折り合いをつけるしかない。

「転職」も悪くない判断だが、折り合いがつかない限り、同じことをくり返す。現状より、厚遇なポジション、報酬は得ることはできても、折り合いがつかない限り変わらない。そのために必要なことは、自己実現を明文化することである。

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尾藤克之(コラムニスト、著述家、明治大学サービス創新研究所研究員)
16作品目「頭がいい人の読書術」(すばる舎)を上梓しました。

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