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中森明菜「I MISSED "THE SHOCK"」

「I MISSED "THE SHOCK"」
作詞・作曲: QUMICO FUCCI 編曲: EUROX

1988年11月1日発売のシングル曲。

同時期のヒット曲は、
長渕剛「とんぼ」、少年隊「じれったいね」、光GENJI「剣の舞」、
中山美穂「Witches~ウィッチズ~」、徳永英明「最後の言い訳」、
吉幾三「酒よ」、Wink「愛が止まらない-Turn It Into Love-」、
藤井郁弥「Mother's Touch」、チェッカーズ「素直にI'm Sorry」、
浅香唯「Melody」、TM Network「COME ON EVERYBODY」等々。
光GENJI、Winkといった新たなアイドルが人気を席巻し、アイドル界も完全に世代交代となった。

中森明菜はもはや「アイドル」というカテゴリーから完全に抜け出し、本格的な「シンガー」、「アーティスト」への道を邁進している最中だ。
そして、艶と柔らかさとが共存した、一番歌声が綺麗な時期だ。

この曲は問題作であり、この時代にはあまりにも挑戦的な楽曲だった。
だからこそ、現在聴いても全く色褪せることなく、今でもなお、時代のもっと先にいるような楽曲である。

それもこれも、QUMICO FUCCI こと、
SHERBETSのメンバー福士久美子氏と、
前作「TATTOO」から編曲を担当しているロックバンド、EUROXのなせる技。
彼らのメロディ、アレンジがとにかく秀逸だ。
当時の中森明菜が、日本のトップを走るポップスシンガーだったからこそ、こんな退廃的かつ難解な曲を、シングルとして出せたと言える。

イントロから強烈な打ち込みサウンド。
まるでヨーロッパのプログレッシブロックだ。
そこに敢えて無機質な明菜の歌声。

サビから一気に深淵な世界が広がり、
彼女の歌声も一気に艶を増し、ただひたすら不安が膨大していく様を、歌い上げる。

そして、最後の「SHOCK!」の連呼。
一気に何かが崩れ去り、曲が終わる。
なんとも前衛的でアバンギャルドな展開の楽曲ではないか。
複雑怪奇、病んでいく人間心理をさらけ出すような、こんな危険な曲の良さなど、そんじゃそこらのライトリスナーなどには絶対に分かるまい。

1988年という年の中森明菜は、常に挑戦し続けた。
「AL-MAUJ(アルマージ)」「TATTOO」という
インパクトが強烈過ぎる曲を出した後。
一聴しただけでは意味もその良さもよくわからないものの、聴けば聴くほどその奥深さを思い知らされる「スルメソング」。
(そもそもタイトル自体が本人も口にしているように、意味不明。)

この曲をアルバムでなく、シングルとして出すこの心意気。
チャート1位を捨てた訳ではなかろうが、そのリスクを背負ってでも、この曲を出してきた彼女のチャレンジスピリッツ、お見事の一言に尽きる。

(追記)
あながち上記の推測は間違っていなかったよう。

2023ラッカーマスターサウンドで再リリースされた「BESTⅡ+5」に添えられた濱口秀樹氏によるライナーノートによると、当時のプロデューサー藤倉克己氏と明菜とで、何をシングルA面にするかで初めて意見が食い違った作品がこの曲だったようだ。

何しろ当時の明菜プロジェクトは、オリコン等ヒットチャートで1位になることを至上命題にされていた。この曲は明菜の隠れた魅力を引き出すがA面としては冒険的過ぎると藤倉氏は判断していたのだ。
一方の明菜は、確か伊勢丹のショーウインドウに飾られていた甲賀真理子氏の服に惚れ込み、「私が気に入った衣装でこの曲を歌いたい」と主張した。

結果的に藤倉氏が折れた上で本作がA面となり、実際オリコンチャートでは最高位3位止まりとなったが、ロングヒットとなりセールス的には前2作を上回って、明菜の表現世界を広げる結果となった。
(ちなみにその時の1位は長渕剛「とんぼ」、2位は浅香唯「Melody」。)

ちなみに当初A面になる予定だったのは、本作のカップリングである「BILITIS」。本作もA面候補だっただけあり、分かりやすいメロディ・アレンジのロックチューンで良い曲。

なお、この曲は難易度が高い曲なので、曲の知名度も含め、カラオケで歌うには相当の覚悟が要る。
多様な歌唱法を駆使して歌わねばならず、
余程この曲の意図を理解し尽くしていないと、まともな歌にならない。
まさに、中森明菜しか歌えない曲の一つ。
そして実は、僕が一番好きな曲なのだ。

(※この文章は、作者本人が運営していたSSブログ(So-netブログ)から転記し加筆修正したものです。)


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