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Twitterを見ていたら今の写真業界の問題点が凝縮されたツイートが流れてきたので、それに対する私見です。

こんにちは、フリーランスフォトグラファーのまちゃるです。

Twitterをあさっていると物撮りに関する気になるツイートが流れてきました。

スクリーンショット (20)

*アカウント名が直接出ないようスクリーンショットにさせていただきました。元ツイートは こちら をご覧ください。

Twitterなどでよくある「被害報告」的なツイートですが、引用リツイートやリプを含めて見ると、今の写真業界の問題点がいろいろと凝縮されているなと感じたので、少し私見を書いてみようかと思います。


だいたいの流れを説明すると

①ツイ主があるサイト(カメラマンマッチング)で、1時間9000円で自分のタルトの撮影を依頼。

②納品された写真を見て「あれ?微妙・・・」となる

③自分もiPhoneで撮ってみて、比較写真をTwitterにアップ

④プロカメラマンを含め、多くの賛否のコメント ←イマココ


撮影を仕事とさせていただいている私から見ても確かに、プロカメラマンが撮ったという左の写真は技術やコンセプト的にも問題があると感じます。

ただ、このツイートのリプや引用リツイートを見ていても分かるとおり、この背景にはけっこう根深い問題点があったりします。

個人的にはこのような問題点があると思っています。

①誰でもカメラマンとして仕事ができる環境になってきたことと撮影単価の安さ

②撮影単価の安さが一般の依頼者に伝わっていないこと

③「プロカメラマンにお任せすればいい写真が撮れるだろう」という幻想

④「いい写真とは何か」ということへの誤解・理解不足


①誰でもカメラマンとして仕事ができる環境になってきたことと撮影単価の安さ

近年では一定水準のカメラが手に入りやすくなり、それに伴って一定水準の写真技術を持っている人が一気に増えてきました。
そして週末など「副業」として写真撮影を請け負うアマチュアカメラマンも増えている状況です。

仕事を発注する側のサービスも増えてきて、今回の事例で仕事を仲介したようなカメラマンマッチングサービスが乱立している状況です。
しかしその中で起こっているのは「カメラマンの供給過多」「単価の急激な低下」という事態です。

単価が下がるということは依頼者の方にとっては喜ばしいことかもしれませんが、どんな職種を見ても明らかなように「安かろう悪かろう」という言葉があるように、料金と仕事の技術は比例します。
運良く単価が安くて、それなりの技術を持っている人に依頼が通ることもありますが、可能性的には低いでしょう。
(1時間9000円という単価がどうなのかは次の項で)

ちなみに今回問題になった「物撮り」という食品や商品を撮影するジャンルは、実はある程度専門的な技術が必要だったりします。
専用のセットだったり、照明(ライティング機材)技術、よりよい写真を求めるなら食品に対する知識も必要とされる「必要経費がかかる」撮影と言えます。

②撮影単価の安さが一般の依頼者に伝わっていないこと

ツイートのリプ等を見ていると1つの議論になっていたのが、「この写真で1時間9000円は妥当か?」という点でした。
その中でも一般消費者とみられる方のコメントはおおむね「この写真で9000円はひどい」というものでしたが、カメラマン(プロも含む)のコメントの中には「9000円という予算ではこんな写真になるのも仕方ない」という意見もちらほら見られました。

この1時間9000円という価格設定がどうなのかは判断が分かれるところです。

このタルトのみの1カット撮影なのか
⇒おそらくそんなことは無く、いろんなアングルや他の商品もあった複数カット撮影かと・・

撮影場所はどこなのか
⇒おそらく依頼者の自宅かカメラマンの自宅?

そのほか事前にどんな打ち合わせをして、どんなイメージを共有して撮影を行ったのか明らかにされていないので、予想するしかないのですがもし個人的にこの条件の依頼があればおそらく断ると思います。
(本来はこういう投稿をする場合は、事前の準備やイメージ共有についても掲載しておくべき)

あくまで予想にはなりますが、こういった商品の場合は移動で形が崩れる可能性があるので、依頼者のご自宅やお店に伺うか、料理スタジオのようなところで商品を作っていただいて撮影に入ることが多いです。

専用のスタジオでなければ、ライティング機材や背景セットなどはありませんのでだいたいがカメラマンの持ち込みになります。
そしてだいたいの場合は後処理(レタッチ)込みなので、撮影後も事前の共有イメージに沿って色や明るさ調整、不要物の除去を行います。

こうなると写真の納品までに撮影費だけではなく、事前の打ち合わせ費用、出張料金&交通費、機材費、場所代(レンタルする場合)、レタッチのための作業費が当然かかってきます。
移動関係の費用は距離に応じて、その他の費用もそれぞれ数千円ずつ見るとすれば9000円ではプラスマイナスゼロもしくは赤字になる可能性が高いと思います。

あまりカメラマンに依頼した経験がない一般の方には、撮影費以外の部分が見えにくいため、1時間9000円と言うとそれなりの費用だと感じられると思います。
その点が撮影前後の準備・後処理、その他必要機材の予算も含めて単価を想定しているカメラマン側と依頼者のコメントの違いに現れているのではないでしょうか。

③「プロカメラマンにお任せすればいい写真が撮れるだろう」という幻想

ツイートのリプ欄では少し「イメージ共有は事前にしたか」という点も触れられていました。この依頼者はどの程度までイメージ共有をしていたのかまでは分かりませんが、事前にカメラマン側に一定のイメージは伝えていたそうです。

ツイートの写真比較を見るとカメラマン側の写真にライティングや影の処理、後処理の技術的問題が見られますが、それ以外にもカメラマンと依頼者でイメージ共有が出来ていないようにも感じます。

カメラマン側の写真は全体的にピントを合わせた説明的な写真になっているのに対し、依頼者側の写真は手前だけにピントを合わせたイメージ的な写真になっています。リプ欄ではロゴにピントが合っているかも指摘されていました。

背景の処理の仕方などを見てもこの2枚を比較すると、写真の使用用途やトリミングを前提としたものかなどの共有が出来ていたのかも少し疑問を感じます。

今回の事例では一定のイメージ伝達はあったようですが、「いい写真」を撮るためには依頼者とカメラマンの綿密なイメージ共有・打ち合わせが大切であるという理解が広まっているとはなかなか言えません。
(いい写真とは何かというのは次の項で)

④「いい写真とは何か」ということへの誤解・理解不足

最後に今回のツイート問題の前提になっている写真自体への評価についてです。

確かに繰り返し書いてきたように、カメラマン側の技術的な問題や事前のイメージ共有不足が大きな原因です。
これに加えて「いい写真とは何か」ということへの誤解・理解不足もリプ欄でいろいろと意見が出された原因ではないかと思われます。

確かに依頼者がiPhoneで撮ったとされる右のような写真は、昨今のSNSなどでよく目にしますし「映える」という類のものなのでしょう。
イメージ写真としては大いに目を引きますが、商品写真として正解かと言えば疑問符が付きます。

ロゴがはっきりと写っていない点や全体的なサイズ感が伝わりにくい(背景のボケ量が多い)という点が挙げられるからです。

これは商品写真として発注したか、イメージ写真として発注したかで適正な写真かの判断が分かれるところであり、「依頼者が想定する使用目的に合っているか」が写真の出来=いい写真であるかの判断基準となります。

「インスタ映え」が言われるようになって久しいですが、もともと「映える」=「多くの人にウケる」というのは結果でしかない以上、撮影段階では写真の使用用途や視聴者の層、写真を通じて訴えかけたいことなどを総合的に勘案して、イメージを組み立てるしかありません。

よって今回のような写真を判断するうえでも、カメラマンが依頼者の意図をしっかり理解し、意図に沿った提案を行いながら写真を完成させていったかが問われるべきことだと思います。


最後に

いろいろと長々と書いてきましたが、やはり今回のような問題の背景には「写真業界という特殊な世界がまだまだ一般消費者には理解されていない」という点に尽きると感じています。

どこの業界も内部事情というのは一般消費者にはなかなか理解されないものですが、写真業界というのは業界人と一般消費者との意識の違いがいっそう大きい業界なのかもしれません。

もともと商売道具としてほんの一握りの人だけが持っていたカメラを多くの人が手にするようになりました。そうなると写真撮影は「特別なスキル・技術」から「誰でも出来るもの」という理解が広まるのは必然です。
ライティングや安定した構図づくり、独特の後処理などいまだにプロカメラマンだから出来る技術もありますが、それらに対する理解はなかなか一般層には広まっていません。

カメラそのものの急速な発達・普及と同時に本来は広まっていくべき、撮影技術の奥深さ、プロカメラマンが持つ技術の特殊性がより多くの人に理解いただけるよう自分もより頑張っていきたいと思えるのが、今回の出来事でした。

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