見出し画像

大切なものは扱いずらい

追いかければ追いかけるほど遠ざかり
強く抱きしめれば消えてしまう。

本当に大切なものというのはそういうものである。

だからこそ、なでるようにして叩き
さするようにして掴まねばならない。

退くようにして進み
壊すようにして作らねばならない。


踊らされるようにして踊らせ
ひれ伏すようにして
思いのままにしなければならない。

為さずして自ずから然り。
それが本当に大切なものを手にする極意である。

天下を取りて之を為(おさめ)めんと将欲(しょうよく)するは、吾其の得ざるを見るのみ。天下は神器、為む可からざるなり。為むる者は之を敗り、執(と)る者は之を失ふ。故に物或いは行き或いは随ふ。或は呴(く)し或は吹く。或は強め或は羸(よわ)む。或は載せ或は隳(おと)す。是を以て聖人は、甚だしきを去り、奢を去り、泰を去る。  

『老子』(無為第二十九)

将欲(しょうよく):・・・したいならばの意
物:ここでは人の意
呴(く)す:息をかけて温める
奢(しゃ)、泰(たい):いずれも過度なこと

何事においても、自分の思惑で人為的になり過ぎると、うまくことが運べない。
天下は、人の知恵や力量を超えた神の力が作ったものであるから、人間ごときの力のみで思ったようにしようとしてもそうならないのだ。
人為は必ず失敗するし、自分のみの過信で取り仕切ろうとすると、すべてを失う結果になる。
だから、自分の力ばかりで行こうとすると、結局はうまく進めず、人の後に従うことになる。
寒い日には、手先を温めようと息を吹きかけるものだが、強く吹くと逆に冷えてしまう。
だから、強めようとすればするほど弱めることになり、たくさん載せようとすればするほど、載せたものを端から落としてしまう。
そういうわけで、聖人と呼ばれる人は、極端なことを止め、贅沢を捨て、驕ったことを行わない。

『老子 道徳経』田口佳史 一部改訂

【解説】
この章では、「無為の思想」に託して、大切なものの扱いづらさを説いている。

何事においても、人為や作為に頼れば頼るほどうまくいかないものである。先述のように「為さずして自から然り」が「無為」の極意である。

強く握りしめると壊れる。しっかりと抱きしめようとするとするりと逃げていく。力が入り過ぎるするとしらける。何事も行き過ぎは禁物である。

―なでるようにして叩く― かなり以前のことだが、政界の寝技師と謳われたある大物政治家が、政治の極意をそんな風に言っていたことを思い出す。

よい関係を築くためには自分が一歩退く、という対人の極意もある。大切なものを手に入れるためには「無為」であることが必要だ、ということなのかもしれない。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?