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謙虚の効用とメカニズム

謙虚な人には、誰もが心を許す
そこには平和な時間が流れる。

謙虚な人には、誰もが話しかけたくなる
そこには、多くの情報が集まる。

謙虚な人には、誰もが本音を明かす
だから、何が真実か見えてくる。

小さな弱い者にとって
謙虚であることは生き延びる術である。

大きくて強い者にとって
謙虚であることは長く続く知恵でもある。

大地は
天から光と水を受け入れる。

人間は
大地から自然の恵みを受け入れる。

天は
人間から美しい物語や調べを受け入れる。

生命の循環とは、謙虚の循環でもある。

大国は下流にして、天下の交(こう)なり。天下の牝なり。牝常に静を以て牡に勝つ。
静を以て下ることを為せばなり。故に大国以て小国に下れば則ち小国を取り、小国以て大国に下れば則ち大国に取らる。
故に或は下りて以て取り、或は下りて取らる。大国は人を兼ね畜はんと欲するに過ぎず、小国は入りて人に事(つか)へんと欲するに過ぎず。夫れ両者は各々其の欲する所を得。大なる者は宜しく下ることを為すべし。    
『老子』(謙徳第六十一)

天下の交(こう):上流から水が集まってくるように人々が帰順すること
天下の牝(ひん):この世界を生み出す大いなる母性のこと
人を兼ね畜(やしな)ふ:人々を併せ養うこと
人に事(つか)ふ:人に仕えること

大きな人物になるということは、上流に行くのではない。すべてが集まる下流になることである。この世の物事、人々の交流の場になるということだ。
それはまるで天下の女性のようである。多様なもの事が集まり交流する事から、次々と多くの新しいもの事が生まれる。
その時大切なのは、大きな人物、つまり交流を見守る立場の者は、常に冷静でなければいけないということだ。そうすることで、勢いや強さで押し切ろうとする男性に勝つことができる。
常に冷静さを失わず、誰に対してもへりくだっていることだ。
大きな人物(大国)が、いまだ小さな人物(小国)にへりくだるから、小さな人物(小国)と親しくなることができる。小さな人物(小国)もそれに習ってへりくだるから、大きな人物(大国)と親しくなることができる。へりくだることで、都合よく取ることもできるし、願っていたように取られることにもなる。
大きな人物(大国)は、なるべく多くの人々と親しくなりたいと思っているにすぎない。小さな人物(小国)は、大きな人物(大国)の引き立てを受けたいと思っているにすぎない。両者とも自分の願いをかなえることができる。
大切なのは、大きな人物(大国)、社会的な地位や富を持った者がまずへりくだることだ。
『老子道徳経講義』田口佳史

この章でいう大国・小国という表現は、田口先生の訳によれば、人物像の比喩と受け止めるのがよいようだ。

大国は強き者・持てる者、小国は弱き者・持たざる者ということである。

また、何度も出てくる「下る」という言葉は、へりくだる、という意味である。

言うならば「謙虚の効用・メカニズム」を説いた章と言えるだろう。

国家であれ、企業であれ、個人であれ、他者に対して謙虚であるにこしたことはない。

すべての国が謙虚であれば世界は平和になる。
謙虚な経営姿勢の企業にはよい情報が集まる。
謙虚な人間にこそ相手は本音を打ち明けてる。

それが謙虚の効用とメカニズムである。

謙虚は、小さき者が生き延びる知恵であり、大いなる者が長続きする知恵でもある。

そう考えると、地球の生態系そのものが謙虚の循環のようなものであることに気づく。

人間が小さき者なのか、大いなる者なのかを問うことに意味はないであろう。小さくもあり、大きくもある。
いずれにしろ謙虚の循環を構成する重要な役割を担っているはずだ。

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