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強さの裏側にある弱さ

力づくの天下取りを仕掛けた信長は
高転びに転んだ。

英才を集めたはずの陸軍参謀本部が
日本を破滅に追い込んだ。

強きものは脆く
賢いものは過ちを認められない
歴史がそれを教えてくれる。

常勝は人の怨みを買う
賞賛はこころの緩みを招く。

スポットライトが
当たっているように思える時にこそ
危機が迫っていることを
肝に銘じなければならない。

人知れず汗をかき
黙って後始末を引き受け
手柄を人に譲る

そういう人間になりたいものだ。

道を以て人主を佐(たす)くる者は、兵を以て天下に強くせず。其の事好く還(かえ)る。師の處(お)る所には、荊棘(けいきょく)生ず。大軍の後には、必ず凶年有り。善なる者は果なるのみ。敢えて以て強を取らず。果にして矜る勿かれ、果にして伐る勿かれ、果にして驕る勿かれ、果にして已むを得ざれ、果にして強なる勿かれ。物壮(さかん)なれば則ち老ゆ。是を不道と謂ふ。不道は早く已(や)む。  
【老子】(儉武第三十)

師(し):ここでは軍隊の意
荊棘(けいきょく):いばら

相手の気を読み、無理なく自然の力を活用することを「道」から教えられている人は、武力や権力で天下をもぎ取るようなことはしない。だから自然な形で好結果を得られる。
力の象徴である軍隊が駐屯した所は、当分の間農地として使えないので、いばらだらけの荒地になってしまう。軍隊が動いた後の年は凶作が続き、民を飢餓に陥れる。だから本当に賢い者は、結果を良くしようと思えば、腕ずく、力ずくの強引なやり方を取らない。結果が出たとしても、業績を自慢したり、能力を誇示することをしない。自分以外の人をばかにするようなこともしない。つまり強さを示さないのだ。
ものごとの勢いが盛んになれば衰えに向かうのであり、このことは道にかなっていない、ということだ。道にかなっていないから早く滅びる。
『老子道徳経講義』田口佳史 抜粋

細かい部分は別として、大筋の意味はわかりやすいだろう。 ー驕れる者は久しからず、盛者必衰の理ありー を諭していると理解してよいのではないか。

「師の處(お)る所には、荊棘(けいきょく)生ず。大軍の後には、必ず凶年有り」という一文が入っているところが老子らしいと思う。

平家物語のように強者の衰退そのものにスポットを当てるのではなく、強者の強引、驕慢の裏側で起きている真の悲劇のど真ん中を射抜いている。

源平が覇を争った争乱の世は、天災頻発の世でもあった。
同時代に生きた鴨長明が著した『方丈記』は、傑出した「災害文学」としても知られている。平安末期から鎌倉初期の京都を襲った地震・風水害・火災を活写してやまない。覇権を巡る争乱の世は、荊棘が生じ、凶年が続いた時代でもあった。

グローバル金融資本主義の真っ只中で、コロナ禍に襲われた現代の世界を、老子が見たら「物壮んにして荊棘生ず」と言うかもしれない。
強さの裏には、必ず危機が潜んでいることを肝に銘じたいものである。


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