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柔弱は剛強に勝つ

人は高く飛び上がる時に
身体を屈めて強く大地を蹴る

それはどういうことか。

大地に加えた力と同じ大きさの力を
大地から返してもらっている、ということだ。

大地を蹴る力を身体に感じることはできるが
大地から返してもらう力を感じることはできない。

実感できない、その力の存在に気づくことを
洞察という。

裏を読む、先を読む
流れを読む、心を読む、手の内を読む

洞察を語る言葉がたくさんあることの意味を
洞察しなければならない。

之を歙(ちじ)めんと将欲せば、必ず固(しば)らく之を張る。之を弱めんと将欲せば、必ず固らく之を強くす。之を廃(はい)せんと将欲せば、必ず固らく之を興(おこ)す。之を奪はんと将欲せば、必ず固らく之に與(あた)ふ。之を微(び)明(めい)と謂ふ。柔弱は剛強に勝つ。魚は淵より脱(だっ)す可からず。国の利器(りき)は、以て人に示す可からず。  
『老子』(微明第三十六)

将欲(しょうよく)せば:〇〇したいならばの意
微明(びめい):奥深い洞察力で、深謀遠慮の意味に近い
利器(りき):便利な武器のことで、ここでは権力による統治のこと

道の働きは「陰陽」である。陰(遠心力)があれば、必ず陽(求心力)がある。何かを縮めようとすれば、必ずまず引っ張って広げることから始める。何かを弱くしようとすれば、必ずまず強くすることから始める。
何かは廃止しようとすれば、必ずまず興して活発にする。
何かを奪おうとすれば、必ずまず与えることから始める。
この奥深い洞察力に満ちた働きを「微明」という。
柔らかでしなやかな方が固く強い方に勝つ。魚は水を脱しては生きていけない。国は権力に任せた統治をすれば人々の支持を失う。
『老子道徳経講義』田口佳史

ここでも「強ならば弱、進ならば退」という逆説的な真理を比喩的に続けたうえで「柔弱は剛強に勝つ」と言い切っている。

この章の鍵となるのは「微明」という言葉であろう。奥深い洞察力、深謀遠慮を意味する表現だが、私は、物理で習った「作用・反作用の法則」を想起した。

人が壁を押す力(作用)は、壁が人を押し返す力(反作用)である、という物理法則である。

これは頭では理解できても、感覚的に納得するのは難しい。壁を押す力は実感できるが、それが押し返す力でもあると知覚的に認識をすることが出来ないからである。

「微明」というのは、体感として理解できないものの存在を、奥深い洞察力で見抜き、背中を押したり、力を抜いたりする働きを意味するのかもしれない。

私達は、「微明」とまではいかないものの、奥深い洞察を意味する表現をよく使うことがある。
「裏を読む」「先を読む」「流れを読む」「機微に触れる」等々。

明示的でわかりやすいHow Toに収まらないものを大切に思っているからに違いない。

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