見出し画像

研究開発思考から始める「自走人材教育」

※本記事は2020年7月12日の一部記事を再転載しています。
 全文はこちら。“社会変革のための、義務教育トランスフォーメーション”


■研究開発思考から始める「自走人材教育」

 最後に義務教育の研究開発思考について簡単に触れたいと思います。研究開発というと大学での教育を連想されますが、そのような高度な設備や専門課程を目指すということではなく、ここで指している研究開発思考とは“課題発見、本質の特定、分析、解決能力”のことです。

 現状の義務教育では前述(ファイナンスリテラシー)したように軍事教育を基礎とした一元化教育として、いわゆる“指示待ち人材”を育成する設計となっています。しかし、一度社会に出ると “自分で考えて動く” “柔軟な発想を持つ”など、真逆の思考が求められてしまい、多くの企業は教育コストがかさみ、新社会人にとっては矛盾解消という無駄なコストを払い、社会全体では競争力の低下に繋がります。この無駄を生む乖離を埋めるために、義務教育課程で研究開発思考を養う必要があると考えています。

 具体的には、自身で取り組む社会課題を設定し(類似調査を含む)、能動的サーベイ(調査)、ケーススタディ(事例研究)を行い、それを論文にまとめ公表する、それだけでも有用です。この教育のポイントは、学校からテーマを与えられて行う受動学習ではなく、生徒主導による能動学習にあります。単純な基礎学習であれば受動学習の方が効率的ではありますが、それだけでは能動生が求められる実社会では通用しません。

 また、自由研究のような“おまけ”的な位置付けではなく、明確に進路に関わる評価として毎期ごとの作成を求めて良いと考えています。もちろん学年によって質に振れ幅は合ってもいいと思いますが、小学生には無理と決めつけずにチャレンジしてもらうことこそが、多様性や自走力を養う研究開発思考の本分だと思います。教育者側が能力主義の一元化教育に拘っていては、子供の将来の目を積むこととなってしまいます。

 そして研究開発思考の評価で面白い点は、単純に暗記による能力測定ではない、思考力を測定できる点にもあり、これは飛び級のない年功御序列制度にも関係してくるポイントです。義務教育の年功序列制は乱暴な表現ではありますが、誰も特をしないシステムです。習熟度が遅い子供は浅い理解度のまま卒業を迎えますし、習熟度が早い子供は時間を浪費してしまいます。そしてそれは精神年齢や思考力でも同じで、“暗記が得意で成長速度が教育速度に合っている人”というとてつも無く限定的な子供以外にとって得のない環境なのです。

 飛び級制度については優秀な人材の優遇システムのように指摘されますが本来なら、習熟度が高い子供は飛び級を行い能力に合った繋がりを持ち、研究開発や自身の時間を確保することで社会貢献ができるでしょうし、なにより習熟度が低く精神的にも成長が遅い子供でも、一定の年齢になるまでしっかりと基礎学習を高めてから卒業することができるので、一元化しない方が学習の苦手な子供に寄り添った教育ができるようになるのです。他にも同世代以外との交流のように利点は多くあります。

 当然ながら、飛び級による格差やイジメ問題もあるでしょうが、現行の一元化教育でも同じ問題は抱えていますので、それは飛び級を反対する理由にはならないでしょう。

 このように評価軸を基礎学習と研究開発に分け尚且つ、年功序列制度を廃止し、実社会に寄り添った教育を行うことで、本質的な学力(基礎要素の暗記と思考力)を養いつつ子供の人生、社会全体の成長に貢献できるのではないでしょうか。


 本日はここまでです。ファイナンスリテラシー、デジタルリテラシー、研究開発リテラシーと考察してきましたが、この問題の本質は “少子高齢化社会における日本全体の生存戦略” であり、学校教育への不満や子供だけの課題ではなく、老若男女にとって理想的ないわゆる豊かな生活を送り続けるために必要なテーマです。教育の低下は国力の低下に直結しますし、若年層のスペックを高めなければ高齢者が永遠に労働し続けなければなりません。当然、競争力のない教育を受けた若年層は国際競争で脱落するでしょう。大変ネガティブな見方ではありますが、真実を形作る一つの側面であることも事実だと思います。

 教育改革は政治的、利権的にすぐに変えることが難しいテーマですが、その時がきた時に備えて、広く議論や思考実験をしておく必要はあります。


※記事を読んで下さる皆様へ.本稿の内容に興味をお持ち頂けたなら、大変に光栄です.有難うございます. お気軽にTwitterで交流をして下さい.

[黒川 和嗣(Kazushi Kurokawa)Twitter ]

[はてなブログ「勾玉日記」]

Top Photo by Dragos Gontariu on Unsplash

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?