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災害大国日本が抱える遊休資産「神社の活用法」

※本記事は202年7月26日の一部記事を再転載しています。
 全文はこちら。“嘘が氾濫する時代に、ファクトで生き抜く”

 ワクチン忌避論がネット上に溢れていますが、“なんだか怖い”や “なんとなく避けたい” というような感情論ではなく、ワクチンによる副作用の歴史や現代のワクチン精製技術、公共衛生上の価値など、ファクトに基づく判断が情報化社会を生き抜く上で必要な価値観となっています。

 これは自然災害でも同様で、災害大国であるにも関わらず、そのリスク分析が曖昧な状態で許容され、活用可能性を秘めた歴史的事実やインフラが見逃されてしまっています。本日は、そのような感情的忌避論というバイアスを取り除きファクトにフォーカスをした災害インフラについて考察してみたいと思います。(この前文は21/8/11に追記しました)


■災害大国日本が抱える遊休資産「神社の活用法」

 日本の災害対策インフラにおいて、感情的忌避論から活用されていない有効なファクトとは “神社” のことです。

 近年、環境問題と併せて世界各国では異常気象が取り沙汰されていますが、日本では古来より自然災害大国として災害と向き合ってきた歴史があります。映画 “天気の子” でも“観測史上初は精々数十年の観測に過ぎない”と表現されていたように、現実でも歴史的文献や地質学から地震、噴火、津波、洪水、台風など、近代的計測以外の “歴史的記録” が存在します。

 例えば熊本県を襲った令和2年7月の大洪水でも規模は今回が最高だったものの、約55年前に類似の災害が発生していました。この件によって、政府もハザードマップの周知及び、不動産販売時のリスク周知義務を設けましたが国土の狭い日本では、災害リスクよりも経済性や故郷という感情が優先されてきました。

 しかし、人命の観点ではもちろんのこと、自然災害の度に必要となる復興財政負担を鑑みると、経済的、感情的リスク(コスト)として従来通りの “リスクを無視してに住む”のではなく、数十年の科学的集積と経験の集積である歴史的ファクトの両方を用いて、歴史的集積、有効な既存インフラを活用してみてはどうかということです。

 特に神社は災害の度にメディアで、“神社の奇跡”などと形容されてしまうため宗教として扱われてしまいますが、古来よりある神社は自然災害後にファクト情報(実際の被害)に基づいて建てられているケースも多く、歴史的経緯と災害時のインフラとしての2側面で潜在的可能性を有しています。

 歴史的経緯の側面では、東日本大震災で大津波が発生した時、津波の境界線に位置していた神社が話題となったように、過去の災害に基づき、建てられている点があげられます。例えば、東日本大震災時の津波でも、ヤマタノオロチの退治で有名なスサノオノミコト(治水や疫病のカミ)を祀る神社や縁の深い出雲系神社などは浸水を回避しており、さらに神社の表参道沿いの昔からある集落は浸水しなかったことに対して、新規の住宅地は浸水してしまいました。他方、農耕を司る稲荷系神社は開けた土地に位置するケースが多く浸水もあったようです。

 これは不思議な力でも神の御業でもなく、ヤマタノオロチが大洪水の蛇に例えた伝承を元にしているため、神社や周辺の住居が高台に位置しているのに対し、稲荷系は太陽が降り注ぎ農耕に適した場所(つまり開かれた低い土地)に位置しているという歴史的ファクトによるものです。この詳細研究は、 “東日本大震災の津波被害における神社の祭神とその空間的配置に関する研究” という論文を参照ください。興味深い内容です。

 そもそも災害大国でありながら神社は100年−1,000年と原型が保たれているケースも多く、上記の論文を元に地質学調査を行った上で、避難所や緊急インフラ所として神社を活用する試みは現実的だと考えています。

 このインフラとしての側面では、全国に神社が約8万社、寺院も含めると約15万社以上と、コンビニ約5万店の約3倍程度の数が存在するため、科学的根拠と併せ最低限のインフラ備蓄を行えば大きな “災害対策資産” を手に入れることとなります。また、前述にもあるように神社と住居との距離や関係性が近いため、現行の住民へ大幅な住居移動を要請せずとも“可能な限り神社側の居住区への移動”で抑えられますし、災害地区であっても、神社の存在が周知されていれば避難目標としても活用が容易になるでしょう。



 このように、宗教だと忌避したり、目に見えぬ噂を元に忌避するのではなく、ファクトや歴史を元に情報を取捨選択するだけで、私たちの大切な “人命” を守ることに貢献することができます。日本は今後、縮小経済へ向かうとされている中、忌避論を元とした資産の遊休化は避けなければならない課題です。氾濫する情報に溺れずにもう一度、先入観を捨てて情報に向き合ってみることが大切ではないでしょうか。


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-参考・参照-

”東日本大震災の津波被害における神社の祭神とその空間的配置に関する研究”

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