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本を出して、議論して、もっと人事の仕事と向き合うことにしました

「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」のマネジメント部門『拝啓 人事部長殿』をエントリーしました。

この賞は一般読者の投票で決まるものです(メールアドレスがあれば誰でも投票可能です)。多くのベストセラー作品に囲まれて、果たしてエントリーする意味があるのかとも思いましたが、「日本企業が抱える『閉塞感』をなくしたい」という理想をもっと世の中に広げていきたい、という思いから参加しています。共感いただける方は投票いただけると幸いです。

読者の熱量に圧倒された半年間

昨年6月に出版した本書ですが、おかげさまで累計1万部、Amazonレビューも140件越えと、人事の専門書に近い本としては、かなり好調な売れ行きです。本当にありがとうございます。

発売後の反響も大きく、賛否両論、さまざまな意見をもらいました。

<ポジティブな意見>
・若手が組織に感じている違和感を理解できた
・日本企業の人事の歴史や問題点を概観できた
・サイボウズも含めた13社の事例が参考になった

<批判的な意見>
・企業規模や業種、売上高が異なる企業を比較しても参考にならない
・他社インタビューが人事部門へのヒアリングに留まっており表層的
・サイボウズ社内のもっと生々しい部分が知りたかった

批判的なご意見は真摯に受け止め、今後ぼくがやっていきたいこと(後述)の中で、解消したいと思っています。

こうして沢山のご意見をいただく中で、今回、特に印象的だったのは読者の方々の熱量です。

前職の先輩はもちろん、人事歴30年を超えるベテランの方や企業経営者の方、はたまた東大で名誉教授をされているような方まで、実に幅広い層の方々から長文のメッセージをいただきました。中には3枚に渡ってびっしり感想が書かれた便箋をくれた方もいらっしゃいました。

また大企業や省庁の役職者、人事領域の研究者、若手人事の方などから「ぜひ議論したい」とメッセージを頂いて直接意見交換をしたり、様々な企業の人事部長クラスの方が集まる会に呼ばれたり。

複数の大企業の人事で集まり、本書のフレームワーク(人事の10領域)に沿って自社の人事制度の歴史をまとめ、これからどんな風に変えていくのがよいのかを議論する勉強会なども開催されました。

沢山の議論から見えてきたこと

さらに、この本を書いて良かったことの1つに、沢山の識者と対談する機会を頂いたことがあります。

<対談相手>
佐々木俊尚さん(フリーランスジャーナリスト、作家)
三島茂樹さん(パナソニックグループCHRO)
海老原嗣生さん(雇用ジャーナリスト)
小熊英二さん(慶應義塾大学総合政策学部教授)
三澤園子さん(千葉大学医学部附属病院 脳神経内科 准教授・医局長)
中野円佳さん(東京大学男女共同参画室特任研究員)
兼松大樹さん(株式会社マネーフォワード 人事労務部長)
濱口桂一郎さん(労働政策研究・研修機構労働政策研究所長)

佐々木さんとの対談からは組織におけるテクノロジーとの上手な付き合い方を学び、中野さんとの対談では「女性の働き方」という視点で企業の人事としてできることを再認識しました。

また、海老原さん、小熊さん、濱口さん(『拝啓 人事部長殿』の主な参考文献の著者)との対談も刺激的でした。

海老原さんから頂いた「一つの企業の中で多様性を追求するのもいいが、社会全体として多様な企業(選択肢)が生まれるといい」というコメントは仰るとおりだなと思いましたし、小熊さんとの対談では、雇用に関する問題は統計的な事実をもとに議論しないと頓珍漢な解決策が生まれてしまうということを痛感しました。

「ジョブ型」「メンバーシップ型」という言葉の生みの親である濱口さんとの対談では、「ジョブ型」は世界的に見ても既に古臭いものになりつつあること、「メンバーシップ型」には特有の良さがあること、一方で顕在化してきた「メンバーシップ型」の問題には確実に対応しなければならないこと、そして、情報技術の進化で可能になる新たな雇用システム(濱口さんの表現を借りれば「ギルド的なメンバーシップ」)と、ぼくが本書で提案した「インターネット的な会社」には親和性があることなど、興味深いお話を伺うことができました。

さらに、三島さん(大企業のCHRO)、兼松さん(ベンチャー企業の人事労務部長)、三澤さん(医局長)といった、業種や人数規模も異なる組織で人事領域を担当されている方々と話して改めて感じたのは、人事機能のあり方・変革の仕方は、組織によって全く異なるということでした。

一方でどの組織にも、個人(特に若手)の価値観の変化に対応しないと選ばれなくなるという危機感を持っていること、そうした問題を解決するためには「制度」だけでなく「ITツール」もうまく活用し「風土」を変えていく必要があることなど、共通する部分も見られました。

足りなかったのは「生々しさ」

本を出版し、沢山の意見をもらい、次は何をしようか。

そう考えた時に思い浮かんだのは、改めて人事の仕事に向き合うことでした。具体的には社外向けの仕事は控えめに、サイボウズの人事担当者としての仕事(本業)に今まで以上にコミットしていきたいと考えています。

というのも、今回本を出してみて、結局、ぼくの理想(日本企業の閉塞感をなくすこと)を達成するには、それが一番の近道だと思ったからです。

今回、この本をきっかけに「新しい取り組みにチャレンジしたいので実際に運用していくにあたって具体的な話をヒアリングさせてほしい」という問い合わせを多数いただきました(そして、実際に取り組み始めたというお話も聞きました)。

そんな風に各社の人事の方とお話しする中で感じたのは「人の心を動かし、社会を動かすには、自分自身が常に問題と向き合い続ける必要がある」ということでした。

まず大前提として、どの会社にも企業特殊性というものがあります。

企業理念、人数規模、業種、ビジネスモデル、事業規模、会社の成り立ちの経緯、経営陣の考え方、働く人達の属性、使っているITシステム、ヒエラルキーの構造、組織の分け方(事業部制、職能制、外注化、etc…)、発言力の強い(弱い)部門、過去の判断事例(整合性)、どんな表現が好まれるか(好まれないか)、などなど。

そんな何もかもが異なる環境で働く方に、表面的な制度の概要だけを伝えても「それはサイボウズさんならできるけど…」と言われて終わりです。もちろん、だからこそ本の中に12社分の事例を載せたのですが、それも「その12社ならできるけど…」で終わってしまうのが現実でした。

それでも、話していく中で「ヒントになった」と言ってもらえる(そして実際に会社の変革につながった実感がある)ものが一つだけありました。それは、ぼく自身が自社で人事施策を企画・実行する際に悩んだり、葛藤したり、決断したりした経験でした。

ある制度や施策を進めるにあたって、どんな段取りを組んで、最初に誰を巻き込んだのか。オープンに意見を募ると言っても、無数に来る意見にどこまで対応したのか。公開しにくい種類の情報は、どんな工夫をして公開しているのか。経営会議にあげるとき、どんなストーリーラインで、どの部分の表現にこだわったか。コストと効果はどうやって見積もったのか。反対意見はなかったか。あったとすれば、どんな風に妥協点を見出したか。複数のステイクホルダーの意見がぶつかった時、何を根拠に、どの意見を諦めたのか。経過措置はどのくらい行ったか。社内プロモーションはどんなチャネルを使ったか。システム改修は行ったか。なぜ、そんなにまでしてその施策をやりたいと思ったのか。

そんな試行錯誤の中にこそ、状況がまったく異なる各社の人事担当者のみなさんに「それならうちでもトライできそう!」と思ってもらえる情報がある、ということをぼくは知りました。

もちろん、今回、ぼくが本の中で書いた想いや、日本の人事制度の歴史に関する知識、人事制度の構造(フレームワーク)、他社の取り組み事例、デジタルネイティブ世代が活躍しやすい(とぼくが思っている)組織の構想などが全部無意味なものだったとは思いません。

ただそれでも、今回ぼくの本に足りなかったものは、批判的なご意見の中にもあった通り「生々しさ」なのだと思います。それを説得力ある形で届けられなければ、ぼくの理想は文字通り「理想論」で終わってしまいます。

本書内にも書きましたが、サイボウズもまだまだ問題は山積みです。ありがたいことに事業は年々成長しており、これからもっと規模の大きな組織になることが予想されます。

いまよりもメンバーが増え、さらなる「大企業」になっても、本当に「多様な距離感」「自立的な選択」「徹底的な情報共有」を続けられるかどうかはこれからの取り組みにかかっています。

幸いサイボウズは情報をオープンに発信していくことに前向きな会社です。昨年からは「サイボウズの舞台裏」という人事独自のオウンドメディアも立ち上げました。

ぼくは、これからもイチ企業の人事担当者として、チームの理想の達成(事業の成功)とそこで働く人の幸せにこれまで以上に向き合って、そこで得た「生々しい」経験を発信していきたいと思っています。

本にも書いたとおり、会社・社会をよりよいものにしていくというのは、ぼく一人の力ではできません。

ぼくがこの本で書いた問題意識や理想、調べたこと、考えたことが広がって色んな組織で議論の敲き台になってくれること。理想に共感してくれた人に「本気で変えたいんだけど、サイボウズではここの部分どうやってる?」と聞かれたときに、同じ理想を目指す仲間として「生々しい」話を共有できること。そして、よりよい日本社会をみんなで創り上げていくこと。

そのためにも、この本がもっと多くの人に届いてくれるといいなと思っています。共感いただける方は応援いただけると幸いです。

【1】 投票は1部門につき1人3票まで
【2】 ひとつの書籍に、複数票入れることはできません
【3】 投票した書籍の中から、最後に総合グランプリ候補を1冊選択してください

メールアドレスがあれば誰でも投票可能です。

■「読者が選ぶビジネス書グランプリ」とは

「読者が選ぶビジネス書グランプリ」は、その年に発売されたビジネス書のなかから読者(=ビジネスパーソン)が投票し、「読むべき本」を選出するコンテストです。ビジネスパーソンの読書習慣を育てて、出版業界を盛り上げたいという思いから創設されました。

前回の「読者が選ぶビジネス書グランプリ2022」では、出版社53社からの応募に加え、フライヤーとグロービス経営大学院らが推薦した書籍を合わせた126冊がエントリーしました。その中から、『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭(監修)/致知出版社)が総合グランプリに輝き、その他受賞作品とともに全国約1,300店の書店にてフェアが開催されました。

■投票期間
投票は2022年12月12日(月)から2023年1月9日(月・祝)まで。

■結果発表
投票結果を集計し、2023年2月16日(木)開催予定の授賞式にて発表します。受賞書籍は全国の書店でフェアが展開されます。


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