のら犬にさえなれない。

自己紹介:妻の転勤を機に福祉施設の施設長を退職し、持ち家も処分。当時13歳の娘と家族3人で2023年夏にオーストラリアに移住の48歳。現在子育てと家事全般を行う完全専業主夫。ワーホリのタグ付けをしているが、ワーホリではなく働く気も全くなし。一応、社会福祉士だが外国ではなんの意味もない。吉本芸人チャド・マレーンがオーストラリアを「ラリア」と呼ぶことに感銘を受け、そのまま使用する。

2023年3月・・・渡豪まで5ヶ月

休日の昼下がり。すでに耐え難くなりつつある太陽光線を避け、木陰に車を止めてタバコに火をつけ長い息を吐く。

俺は人を待っている。

あいつは、いつの頃からか俺の前に姿を現し四六時中俺を監視し始めた。ことあるごとに俺の行動に口を出し抑制する。

俺はあいつに全てを奪われた。

何かにつけては金銭を要求し、俺から金をむしり取っていく。俺が金を持ち合わせていない時、ポケットの小銭まで巻き上げていく。それでも足りない時は俺はお金をおろしてあいつに渡す。

俺は人を待っている。

身ぐるみ剥がしていく。

俺がなけなしの金で購入した決して安くはないジャケット、これでこの冬を凌げると安心していた矢先、あいつが、それいいな、ちょっと貸してくれ。と言う。ああ、もう終わりだ。一度あいつに貸したら最後、二度と戻ってはこない。案の定、そのシーズン、あいつは俺から奪い取ったジャケットを毎日着ていた。

俺は人を待っている。

俺に俺のための時間はない。

家で本を読んでいようがテレビを見ていようが呼び出されればすぐに向かう。ほとんどが俺には関係のない、あいつが事前に察知し対処するべき問題なのだが、あいつはそれをしない。すぐに俺を呼び出す。トイレットペーパーがないとか、バスタオルがないとか。

俺は人を待っている。

いろいろなことに思いを巡らせながら、何本目かのタバコに火をつける。

約束の時間まで、後1時間以上もある。

12:00〜14:00。

娘のバンドの練習時間。

ちくしょう。

なんで俺が13歳のバンド練習に送り迎えまでして、その間の2時間、何処かで時間潰さなきゃなんないんだ!



「パァパ、明日バンドの練習だよ!那覇だよ!」

は?パァパ、忙しいんですけど。無職だけど忙しいんだけど、色々と!なんで明日のことを今いうかな!・・・もう自分でバス乗って行きなさいよ。・・・わかったよ!わかったってば!連れていくよ!連れていくから怒らないで!うん!うん!だから連れていくってば!うん!はい!連れて行きます!泣きまねしないで!・・・本当に泣いてるって?泣きたいのはこっちですけど!

ということで、娘のバンド練習が終わるまでどこにいくこともなく那覇の街をぶらぶらとしてる。

出がけにも、

ピック持った?シールドケーブルは?ストラップは?君のギターはストラップなしでは弾けないでしょ!チューナーは?チューナーはスマホでする、って?・・・いい時代だな、おい!まぁ、いいや、準備オッケ?ほら遅刻するよ!メンバーに迷惑かけるよ!・・・どうせみんな遅れてくる、って?そーゆー問題じゃないってばよ。早く!犬に餌は?あげた?まだ?なんで!いいよ、パァパがするから。あり!ほら!シールド、ここにあるさ!これ必要じゃないの?じゃない?じゃないね?ほんとだね?・・・このシールドケーブルは接触不良で使えない?・・・なんでそれをここに置いてあるの?使えるものと一緒にしてあるの?パァパがライブの時(ないけど🤣)、これ持っていって、あい、音が出ないお、ってなったらどうする!それはパァパが悪い、って?そうかもしれんけど!ほら、早く!那覇まで1時間かかるんだよ!

ってなやりとりが毎回行われる。

ねえ、バンドってさ。こーやって親の協力のもとにやるもんだっけか?🤣

もっと、こう、親に逆らいながら反発しながら悪の道に知らず知らずのうちにドツボにハマっていくのがバンドじゃない?俺なんか中学3年の受験期にバンド活動が親にバレてその後3年間、親父に口聞いてもらえなかったんだけど。

バンド練習に出かけようとして、でもギター持って出たらなんか気まずいから2階のベランダからロープ使ってリフトみたいに玄関先におろして出かけよう!と妙案を思いつき、ベランダの手すりから乗り出してスルスルと慎重にギターを降ろしているところに、玄関から親父が出てきて、2階から吊るされ、今まさに着地せんとする我がストラスキャスターを一瞥して無言で立ち去ったり。

まあ、そーゆーこと。

ロックとは親への反抗、社会との戦いなのだ。

決して車で送迎してもらったり、エフェクターが欲しいからと言って親に楽器屋まで買いに連れて行ってもらうもんじゃない。

バンド練習の送迎の車中、The Street Slidersが響く。

「パァパ、ハリーの歌ってなんでこんなに胸にくるんだろうね・・・」

ふん、お前は決して「野良犬」にはなれんよ。飼い慣らされたプードルだ🤣

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