医師の自殺率はなぜ高いのか?
医師の自殺率は高いとされています。
日本では毎年90人から100人の医師が自殺をしています。
医師の生涯のうち自殺念慮を持つ割合は17.4%、自殺企図率は8.4%とされています。(suicide life threat behavior.2020 Oct6)
最近近くのクリニックの先生が自殺されたと聞きました。大変いい先生であったのに大変残念な気持ちとなりました。医師の自殺は思ったより身近なことだなとおもました。それで今回はこの記事を書こうと思いました。
少し前のコロナ禍では、一般の方でもニュースなどで医療機関の過酷な映像をニュースで見ることが多かったのではないでしょうか。2019年のクレルモンオベールニュ大学の医師と医療関係者の自殺についてのメタ分析 (PLoS One.2019 Dec12;14)では男性医師も女性医師も一般集団と比べて自殺率が高いことが分かりました。(SMR=1.24,P<0.001)(SMR=1.94,P<0.041)
また女性医師については男性医師よりもリスクが高いことが分かりました。(P=0.007)
また地域性もありオーストラリアやニュージランド、太平洋地域と比較して北米地域での自殺のリスクが高く、特に米国での自殺率が高いとされています。(P= 0.013) (P<0.001)
アメリカで医師の自殺率が高いのはなんとなく想像がつきますよね。アメリカのような訴訟大国だとすぐにミスなどで訴訟や賠償などの責任がかかる中で仕事するのは大変ですよね。
また診療科によっても違いがあり、麻酔科医、精神科医、一般開業医、一般外科医が高いとされています。
麻酔科医は麻酔薬など致死的になる薬へのアクセスが容易、職務内容的に他の診療科と比べて燃え尽き症候群になる割合が多い、患者への侵襲が高い手技が多い、基本的に個人での業務が多いなどが挙げられています。
精神科医は患者の自殺などのトラウマ的体験などの影響が挙げられています。
あとは精神科医としての私見だと元々精神疾患を抱えている医師の割合も他科と比べると多い気がします。
一般外科医では生死に関わる手術が多く、また緊急なども多く身体的、肉体的負担が多いとされています。いわゆる過労死が外科医だと起きやすいです。
一般開業医に関しては地域や国によって差があるかもしれませんが、家庭と職場の両立の難しさや仕事の満足度が低いことなどが挙げられていました。
また日本の医師の労働時間はとても長くまた緊急の呼び出しなど時間外業務もこなしているため重労働となっています。
また大学病院の無給医問題などで知っている方もいるかもしれませんが大学病院の医師の給料は他のコメディカルスタッフより低く生活のために他の病院でバイトをしなければ生活することができません。そのため相対的に労働時間が長くなってしまう傾向があると考えます。
上の図が日本の医師の労働時間となります。赤線が過労死ラインと言われる週20時間の残業の時間の労働ラインです。
特に若い世代では過労死ラインを大きく超えて労働していることが分かります。
国際的に医師の労働時間を比較した図が上になります。他の国に比べて日本だけ労働時間が長いことが分かります。
ではなぜ日本だけ労働時間が長くなる傾向があるのでしょうか。
上の図は世界の病院の病床数を表した図です。青い線が日本を表しています。こうしてみると日本とドイツが圧倒的に人口当たりの病院のベッドの数が多いこととなります。では現場で働く医師の数はどうでしょうか。
上の図は人口1000人当たりの医師の数を示しています。日本は下から5番目です。世界に比べて医師が少ないことがわかると思います。
今までのことをまとめると日本の医師は『数が少なく労働時間は長く、1人あたりの病床数(患者数)は多い』ということになります。あまり世界に比べて労働環境が良くないことも日本の医師の自殺を増加させている原因とも考えられますね。
そんな医師の劣悪環境にもようやく規制が入りました。
今年(2024年)から段階的に医師も労働時間に上限が設定される予定です。もちろん一般の人に比べるとまだまだ上限の時間が長かったり、地域の医師や若手の医師はまだ労働時間の上限が年1860時間と圧倒的に長い(連携B、B、C-1、C-2)などまだまだ問題点は多いのですが医師の時間外労働規制に乗り出すことに大きな意義を感じます。現状は当直を宿直としたり、大学の医局で研究、作業しているときは自己研鑽として労働時間に入れないなど表面上のことしか改善されていません。ただし今まで労働基準監督署から全く相手にされていなかった病院ですが、今年になってから、立ち入り調査をしっかりと行うようになっており一部ではいい流れが起き始めています。
この波が少しづつ波及していきいつか医師の労働時間が本当の意味で削減され、医師の自殺数が少なくなることを願うばかりです。
本日はここまでとします。
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