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「再考・会津の冬」やないづ町立斎藤清美術館 会津の深い雪の世界を求めて

記憶にある限り、最初に斎藤清さんの作品を知ったのは東京都美術館でした。展覧会ではなく売店の絵葉書。確かエゴン・シーレ氏の展覧会を観に訪れた時。

そして先日に中村一村氏の展覧会をお目当てに同館を再訪し、再び訪れたい思いが高まる。

しかもちょうど今は、私が惹かれた会津の雪がテーマを開催中。生憎の雨模様で登山には不向きな週末。すでに思い立ってかなり月日が経ちましたが。。思い立ったら吉日、一期一会と都合よく考え、涼しくなった山間の道のドライブもかねて重い腰を上げたのでした。

美術館への道

場所は会津の柳津(やないづ)町。東北道から磐梯山(雲に中でした)と猪苗代湖の合間を抜けて只見川沿の町へ。美術館オープンの9時よりも早く8時頃に町に着きましたので、まずは朝ごはん代わりに小池菓子舗さんで「粟まんじゅう」(大変美味、お薦めです!)を調達。

そして古刹 「福満虚空蔵菩薩 圓蔵寺」へ。

ちょうど萩が見頃を迎えており、ようやく訪れた秋を噛みしめる。

本堂である菊光堂(虚空蔵堂)は、残念ながら私が大好きな檜皮葺ではなく銅葺でしたが、風雪のは重なりが良い味わいを滲み出す威風堂々たる建築でした。

建物は1829年に欅材のみを用いて再建されたものとのことで、比較的新しいですね。創建は空海さんという説もあるようですが、はっきりしないとのこと。日本全国に空海さん伝説はありますしね。

遠景

ようやく本編 美術館へ

そうこうしていると美術館の開館時間に。道の駅と敷地を共有する広々とした駐車場に愛車を停めます。

広々としつつも無駄のない心地よい清潔感に溢れた建物です。
尚、館内のロビーなどは撮影可能であるものの、展示室内は全て撮影禁止です。
ですので、今回も私の拙い文章のみで素人の感想を述べて観たいと思います。

入り口入ってすぐのゆったりとしたアプローチ
展示室手前のロビー

作品点数が多い版画家の斎藤清氏。テーマを設けて企画展が催されるので、いつも同じ作品が常設展示室されているわけでは無いようです。昨年秋に飯豊山の登山をした際には、あまり好みの企画展ではなかったものですから訪れなかった経緯があります。

今回のテーマは、冒頭で述べた通り「会津の冬」。雪景色が好きな私が東京都美術館の絵葉書で惹かれたまさにそのものの企画。なお、前後期で展示替えがされておりすでに前期が終了、現在の展示は11月10日まで開催されている後期のもの。残念、前期も観たかった。

ゆったりとした展示室は、いくつかのテーマを設定が設定されています。

 なぜ、「会津」の冬なのか 帰郷の理由
 なぜ、「会津」の冬なのか、「会津」以外の雪景色」
 「会津人」への思い
 柳津に暮らして。住人として、「会津」と向きあう
 そして、故郷の表象(イメージ)となる

といった感じ。
版画家である著者ですが、いくつかスケッチも展示されています。
入ってすぐ飾られているスケッチでの会津の子供達の表情が活き活きとしていてまず惹かれます。子供達の笑い声が聞こえてくるよう。
観ている私も穏やかで優しい気持ちになれます。

以下は、いつものように特に惹かれた作品を選んで、感想を述べてみたいと思います。いつもくどく書いてしまいますが、芸術の学問などは学んだことのない素人の感覚偏重な感想であることをご了承ください。

「雪の室生寺 奈良」
会津以外の雪景色として展示されている作品。
縦長のやや大きな作品ですが、屋根にたっぷりと雪をたたえた室生寺の五重塔が描かれたもの。1968年の作品とありますから、もちろん平成10年(1988年)の台風の被害で破損、修復される前の五重塔でしょう。
この五重塔そのものが、杉の大木が上下に直線的な障壁を為す中に、自然と調和するかのようでありながら竹藪の中でかぐや姫のいる竹が光っているかのような(?)気品溢れる存在感を示した素晴らしいもの。
作品が描かれたのは夜の月明かりの頃なのでしょうか?或いは月も出ていない夜か。光が届かず細部は見えないものの、雪の積もった檜皮葺の均整のとれた屋根の姿だけでその優美な様が大きな存在感を顕している。何本もの黒い縦の線がその奥行きをさらに際立たせています。
具象のように思えて決して具象ではなく。抽象でもあり過ぎない。そのエッセンスのみを抽出して見事に切り取り、画面全体に絶妙に配置してその世界に引き込む。
会場内で紹介されている斎藤氏の言葉の中で、雪景色の良さを余分な要素が取り除かれた描きたいものを目に入れてくれる構図であるようなこと(記憶が曖昧で申し訳ありません)を紹介されていました。この作品などはまさにその象徴のように思われました。
好きな雪景色、好きな室生寺五重塔ということもありますが、ひょっとすると今回の展覧会の中で一番印象に残った作品かもしれません。
ただ、売店に置かれていた画集にも絵葉書にもこの作品は無く残念。展示される機会があれば再訪したい作品です。

会津の冬(75)喜多方
こちらは本来の(?)今回のテーマとなった会津の冬景色。東京都美術館で絵葉書を買い求めた、斎藤清氏を知り、惹かれたきっかけとなった作品です。版画とは言え、現物作品を鑑賞できてよかった。「会津の冬」と題された作品は多数あり、区別をするためかタイトルに番号が振られています。そしてその後に場所が描かれている。現実の景色のようで見えて実は作者の心象風景であり、素材となった場所はあっても特定の場所ではない東山魁夷さんの作品との違いが面白いですね。
ただ、同じく絵葉書を買い求め、最も惹かれた作品である「会津の冬(57)猪苗代」は今回展示されておらず残念。前期の展示だったのかもしれません。

柔らかくも湿度がたっぷりと含まれた重い雪。その雪に押しつぶされそうな建物の入り口に涼やかに揺れる青い暖簾。モノトーンな世界にその鮮やかな青が際立ちます。
その世界を包む雪の陰影、雪からぶら下がる氷柱のリアリティがたまらなく私を惹きつけます。
似たモチーフの作品で、今回も展示されている「会津の冬(71)若松」にも惹きつけられます。作者ご自身が好きな作品とされています。ただ、ご自身では暗い作品と書かれているのですが、私には鰻屋さんの青い暖簾がある作品世界に、ユーモラスさと楽しさなど活気を感じました。単に雪に加えて鰻がすきだからかもしれません。。

会津の冬(26)川井
雪に埋もれる村落が描かれた作品。暗く閉ざされている非日常かというとそんなことはなく、家の前で揺れるカラフルな洗濯物が人々の日常の活力を感じさせます。左奥に背景として描かれたデフォルメされた木の枝も印象的。そして雪深い道を歩く人の姿も。
斎藤氏の作品にはその雪景色の中で生きる人の姿もさりげなく描かれているのも、単なる風景画とは異なる特質のように思えます。

会津の冬(114)柳津
まさに美術館がある柳津。その象徴的な橋と田中、電線、標識に電灯がモノトーンの柔らかな雪の世界の中で描かれている。いや、唯一色を感じるのは踏切のものと思われる赤と白のポールか。
モチーフだけをこれだけ並べると、どこのそんな惹かれる要素があるんだと思われると思うのですが、何故か惹かれてやまず、絵葉書まで買ってしまったのです。
柔らかな雪の陰影が見事なのは「会津の冬」シリーズに共通するもの。やはり惹かれるのはその構図の妙なのかもしれません。斎藤氏自身が雪景色について書かれている通り余計なものが取り除かれた姿。しかし電線は余計なものではないのか?この作品には取り分け目立ちますが、その作品群では電線が描かれたものが多いのです。それが象徴の抽出から漏れずに残されている。しかもそれが邪魔に感じることがない。私など、写真を撮る時には極力電線が入らないように努めます。しかしその電線を意図的に構図の中で活かされて魅力的なものにされていることに、斎藤氏の人となり、その感性をごく僅かでも垣間見ることができるような心地がします。

柳津で象徴的な只見川にかかる橋


さつきの会津(6)
前述の展覧会の小テーマの内、「柳津に暮らして。ー住人として、「会津」と向きあう」の中の作品の一つ。田に水をはり、しかし田植えをする前、新緑の芽吹きの季節。モノトーンな雪景色から春雨が降るたびに色が華やかに足されていく季節の村落の様子が描かれています。家の大きな屋根の赤や青、山あいの中の段々畑と田に貼られた水のリフレクション。その構図、雪の季節と共に好きな山笑う季節の会津の里の風景が心地よく、しばし作品の前で観入っていました。

売店で購入した画集と絵葉書たち
画集は今回の展覧会の図録というわけではなく、一般に販売されている斎藤氏の作品集
買い求めたのは大小二つある内の小さい方
絵葉書は自宅の絵葉書用の額に入れて定期的に入れ替えて楽しんでいます

会場は私も含めてもうお一方のみ。静かにゆっくりと鑑賞することができました。
映像コーナーではかなり古い画質も音声もナレーションの声のトーンも戦後まもない頃のものと思われるものが流されています。雪景色の中を走る煙を吐く汽車で会津に向かわれる作者や当時の会津の風景、妹を労わりながら遊ぶ子供たちの側でスケッチをされる作者など、味わい深い作品ですので是非ご覧になってください。
ロビーで展示されている柳津に滞在した筑波大学の学生たちによる映像作品も素敵ですので是非に。

私は斎藤清氏は柳津に生まれ、ずっと柳津で生活されてきた方という先入観を持ってしまっていました。しかし、生まれこそは会津坂下ではあるものの、幼少の頃には会津を離れられ、成人されてからの多くの時間はむしろ会津以外の鎌倉などが多かったとのこと。早くに亡くなったお母さんの面影を求めて会津に訪れられた後、会津を作品に描かれ始め、晩年は柳津に移り住んで多くの会津を描かれたとのこと。
その来歴の中で印象に残っているのは、離れた場所からスケッチに訪れる雪景色と実際にそこに移り住んで生活しながら目にする雪景色の違いでしょうか。上述の柳津に暮らして。ー住人として、「会津」と向きあう」という小テーマは、まさにそれについて考察されたものでしょう。
私など、雪山や雪景色が好きと言いながら、都合よく気持ちの良い場所を選び取っている異邦人。大雪の大変さのなかで暮らす勇気は持ち合わせていません。
雪かきの大変さ、閉ざされた世界でも忍耐強く、力強くあらねば生きていけない暮らし。移り住まれてからも数多くの作品を生み出され続けた作者の想いのようなものが作品から溢れているように思いました。

繰り返しになりますが、本企画展の会期は11月10日まで。
入場料については、JAFやモンベルの割引があります。
尚、売店も含めて会計は現金のみですのでご注意を。

鑑賞を終えて

その後、余韻に浸りつつ少し美術館脇を散策しつつ秋桜を愛でます。

オレンジ色は好きだけれど、やはり秋桜は白やピンク系に秋らしさを感じるなと思いつつ。

その後、那須や高湯で硫黄の香りに包まれるか迷いつつも越後に向かい、早戸温泉つるの湯さんの露天風呂で只見川沿の緑の薫風を吸いつつまったりし、

河井継之助氏の終焉の地で同氏の志に想いを致しつつ長岡軍撤退ルートを逆に進んで越後に入り、

河井継之助記念館の前の只見川

時おり無性に食べたくなるへぎ蕎麦を食し、

関越道に乗って東京に向かいました。

芸術と温泉と歴史と食が満喫できた良き秋の週末となりました。
そろそろ山に登りたくはありますが。。

そうそう、赤べこは柳津の出身(?)なのだとか。
町のあちこちで見かけ、いや、見つめられる押しの強さに負けて。。自宅に小さな赤べこをお迎えしました。

道の駅の前のポストの上にも赤べこ
圓蔵寺の巨大赤べこ
実物(?)大?
自宅に迎えた赤べこ

リモートワークの日にストレスが溜まるようなことがあれば、その首をゆらゆらと振って心を和ませておくれ。

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